人型四輪免許の話
長濱芳人
人型四輪免許を取りに行こうと思った話
通勤途中の電車、その車窓からぼんやりと外を眺めていると、工事現場の大きな人型機械が目に入ってきた。山肌を切り拓いて、新たな住宅でも作るのだろうか。
私が小学校に上がる前ごろに実用化され、大型の重機が入りにくい不整地などでの作業に活用されているという。
全高がが概ね五メートル程度で、頭のない人型をしている。
人間で言えば、胸の真ん中から首にかけての辺りに、透明な囲いが設けられた操縦席がある。
『人型ロボット』という響きにはその手のアニメに熱中した少年の頃を思い出さないでもないが、現実とは少し……、いや、やかなりイメージからの乖離がある。
言ってしまえば工事用の重機であって、私のような、建築にも土木にも縁のない会社に勤めるサラリーマンには縁のない乗り物だ。
ほんの少しの気まぐれで、手元のスマホに検索ワードを打ち込む。
……しばし検索結果や関連情報を眺めていると、近年は一般向けにも開発が進んでいるらしい。
大規模な工事に使われる物とは違い、少し小型でデザインも多少は洗練されている。
用途としては、自動車に自ら荷物を積み込む機能を追加したようなイメージだろうか。
無骨な工業製品といったデザインを逸脱しきれない画像が並ぶ中のひとつ、やたらと色鮮やかで異質なロボットが大写しになったものに目が留まった。
……見覚えがある。子供の頃に熱中したアニメに登場したロボット、まさにそれを思わせるデザインと配色。
アニメのメカデザイナーが描いたそれとは多少……いや結構違ってはいるが、明らかに似せようという意思を感じる。
どうも"そういう"——市販のものを改造してアニメやゲームに登場したマシンを再現しようと試みる——界隈があるらしく、制作過程を事細かに記録した記事なども、決して少なくはない数を見つけることができた。
それらによれば(改造に要する手間や技術、時間や金額を除けば)思っていたよりもかなり安く自家用の人型機械を手にできるようだった。
そこから免許の取得や期間、かかる金額を調べ始め——その日は電車を乗り過ごし、会社には遅刻した。
貯金もある、時間は……有給も長いこと使っていない。
何より「やってみたい」と思ってしまった。
その日の夕方、私は『人型四輪免許(合宿コース)』への申し込みと有給の申請を済ませていた。
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