一年前は勇者パーティーの補助職-今は最凶の異質同体「キメラ」です!!

永久燿

第1話

第一章 プロローグ

第一話 嘆く者と笑う者


〜冒険者ギルドの内側〜


「もうお前は荷物持ちにもならねェゴミクズなんだよ!!だからお前は今日でこのパーティーから追放だ」


そう言ったのは我がパーティーメンバーでリーダーである、勇者ブレイバーのゼノンだった。

彼もセラもSランクパーティーの「未知の新星ステラ」に所属していた。

またーこのパーティーは「勇者パーティー」とも呼ばれ、Sランクの中でもトップに君臨している。

そんな折、俺はいつものように一杯の酒をチビチビと飲んでいたが、いささかこの言われようは酷すぎる。


「どういうことだよ...新手の冗談か何かか?」


俺がそう言うとゼノンはあからさまに呆れた顔をしており、それにともなってため息を吐いた。


「はぁ? お前、本当に馬鹿だな! そんな馬鹿にもわかるように言ってやるよ。お前はもうこのパーティーには必要ないって言ってんだよ」


酒場にいた他の客たちも何やらヒソヒソと話し出し、こちらの様子を覗うように眺めていた。


「ふざけんなよ! 俺は戦闘面ではともかく、他のことは全部こなしてきただろうが!!」


「はぁー、これだから無能は...そんじゃあ、お前が今までやってきたこと言ってみろ」


「まず事務作業全般、家事全般、それからクエストの発注に、それに伴って必要なアイテムの管理...まだまだいっぱいあるぞ!!」


「そんなもんはなァ!! 誰だってできるんだよゴミクズがァ!! 俺たちは最強のSランクパーティー様だぞ? それなのに戦闘ができませんじゃなァ! 箔が落ちるってもんだろうがァ!!」


「仕方ないだろ!! 俺の職業ジョブ異質同体キメラって言う謎職業なんだから」


そうーこの俺は世界にたった一人しかいないオリジナルの職業を授かっていた。

それがこの「異質同体キメラ」だ。

しかしーこの異質同体は謎が多く、わかっているのはレベルが一切上がらず、ステータスも最低値で、スキルも「補助魔法」と「喰らう」のみなので、ハズレ職業なのではないかと思っている。

職業はーその性質上ステータスやスキルが違っているため人生を決められると言っても過言ではない。

例えばゼノンのように勇者の職業につければ、レベルも無限にあげられるし、どんなスキルだって習得することができる。


「だったら余計にいらねえじゃねぇか! 最初は世界でたった一人しか発見されてねぇって言うからパーティーに入れてやったが...今となったらただの役たたずなんだよ!!」


「それならなぜ今の今まで追放しなかったんだ! さてはお前エクレシアのこと未だに根に持ってるんだろ!!」


エクレシアー彼女はこのパーティーの要にしてダンジョン攻略には欠かせない職業、聖女マリアなのだ。

ダンジョン内では瘴気と言って体をどんどん魔石化する空気のようなガスが充満している。

また、俺たちのようなSランクともなると、ダンジョン攻略が長期化することなど日常茶飯事なので...。


それらを解決するのが聖女や聖人であり、スキルによる「対魔力」がそれらを解消させてくれるのだ。

だから高ランクになるほど一人や多ければ三人ほど、入っているものなのだ。


話を戻すと、その聖女であるエクレシアは俺に好意を寄せており、一度だけならず何度も告白されている。

その度に俺は丁寧にお断りしているが、エクレシアを狙っているゼノンからすれば面白くないのは明白だ。


「ち、ちげぇよ!! そそそ、そんな証拠どこにもないだろ? それに他のメンバーもこの件に関しては同意している。だからこれはパーティーメンバー全員が決めたことだ」


「他のメンバーって......」


そう俺がつぶやくと、その場にいた他のパーティーメンバーはニヤニヤとしながら嘲笑っていた。


「まさかあたしらが反対するとでも思ったわけ? アハハ、本っ当に無能だわね」


そう罵倒するのは、パーティーメンバーの黒魔道士ブラックロードのカミラだった。

彼女は俺と同じ後衛職であり、ダンジョン攻略の作戦などを立案する立場だが、俺が毎回作戦を作っていたため邪魔でしかたなかったのだろう。


「あんたらもそう思うでしょ? バゼット、カステラ!」


「俺は騎士として戦えない者を戦場には出したくない」


「うちはどっちでもいいんやけど、戦えないのはちょっとねぇ?」


カミラが残りのパーティーメンバーに話題を振ると、聖騎士チャンピオンナイトのバゼットや銃剣士ガンファイターのカステラも同じように賛同していた。


「そう言うことだからよォ...お前は今すぐ出ていけ!!」


「いや、エクレシアや白魔道士ホワイトロードのフルリスの意見を聞いてない! だから今すぐには出ていかないぞ!」


俺は負けずと反論するがもはや蚊帳の外、またも聞く耳もたれることはなかった。


「はぁー、これだけ言っても出ていかねえなえら仕方ねぇなァ...オラっ!!」


ゼノンの拳が顔面を直撃し、倒れた俺に対して腹部に蹴りを入れられる。


「ゲホッ、ゲホッ...おい! いぎなりなにずんだ!!」


「言ってもわかんねぇなら! こうするしかねえだろ?」


そう言って胸ぐらを掴まれると、次の瞬間ー再び顔面へと拳が飛んできた。

その後も何度も殴られ、俺は鼻血や脳震とうを起こし、意識が朦朧もうろうとしていた。


そして殴り疲れたのかゼノンは息を切らし、一旦手を止めた。


「もうお前を殴るのは飽きたし疲れた! それじゃあ最後にこれを...」


そう言って俺が肌身離さずに身につけていたペンダントを奪い取る。


「ぼい!! か、かへせ!! そ、それではおでの大切なっ...」


俺の言葉など聞く耳持たず、ゼノンはペンダントを握りつぶし、そして俺の目の前へと捨て去った。


「あ、ああ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああぁぁぁ!!」


急いでペンダントを拾い上げるがもう遅い。

ペンダントの紐は引きちぎられ、真ん中にあったコインのような黄色の石は半分に割れている。


「あはははははははははは!! もうさいっっこうじゃねぇか!! 」


ゼノンが大きく嘲笑う中、俺は命よりも大切なこのペンダントを破壊され、怒りを通り越して本当に殺意が湧いた。

しかし、ここで暴力沙汰の事件を起こせば、俺までもがあいつと同じになってしまうと思い歯を食いしばって耐える。


「おいおい、なんとか言ってみろよォ! あっ、もしかしてそんなゴミクズ壊されて泣いちゃったのかなぁ? アハハ...」


「ごみ...クズ...だと...?」


ペンダントを破壊され、しかもゴミクズ呼ばわりされたら、もう俺の堪忍袋の緒も、ついには切れてしまった。


そっと立ち上がると、こちらの様子を見ていたパーティーメンバーたちだったが、俺が顔をあげるとその表情は一変した。


「殺す...殺してやる......」


「おっ、おい、なにして...」


彼女・・を馬鹿にするやつは地獄の底にたたき落としてやる!!!」


そう言い放った直後、酒場にいた全員が息ができないほど空気が張り詰め、そして...皆平等に「死」を感じたのだった。


「う、うぐ...いぎが......でぎねぇ」


充分に息ができず、悶え苦しむゼノンやパーティーメンバーたちだったが俺が正気にもどると、一斉にむせ返りながらも息を吸い込んでいた。


「ゼェー、ゼェー...」


「あ...ああ......俺は、一体...」


俺は意識がはっきりとすると、辺りには涙目になりがら息を荒くするパーティーメンバーたちの姿。

わけも分からなくなった俺は酒場を飛び出し、その場を後にした。




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