第34話 リアル

 その日、閣議において分数たちが自然数と同数であることが確認された。


 そこに新新将軍「55555」が飛び込んで来た。


「敵襲です! む、無理数!」


「数には数で対抗しろ!」


「濃度が、濃度が違い過ぎます」


「我々はアリストマティック、貴族だ。農奴など気にするな!」


 ユーリはそう叫んでいたが、濃度の違いを前にしては無意味であった。


 そのまま無理数の群に押し潰される形で数の王国はreal realm リアル・レルム、実数王国に支配されることになる。


 私は八弦琴(ストリング)を手にした。そして、このユーリという男の愚かしさを「壺中天」という曲にして歌い上げる。

 八元数である私からすれば実に狭い狭い世界しか見えていなかった男。今の実数の世界もまだ低次元。本当の世界の広さなどホトケにですら識り得ない。

 限られた空間の、壺の底から見上げる空の、その青さは本物で、それすら手に入ることはない、空、空虚。

 ストリングの音色、私の歌は、その空虚に、ただ吸われていった。

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『壺中天』或いは佞臣ユーリの奸計:首相という存在を馬鹿にした奴らへのザマぁ展開であったハズ 青村 豆十郎 @aomura10106

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