この想いは胸に
白狼
この想いは胸に
私には大切な方がいた
笑顔が素敵でよく話す子だった
その子は人の輪の中心にいるような子だった
いわゆるムードメーカーだ
みんなから好かれていた
最初はその子を嫌っていた人もどんどんその子の魅力に惹かれていき好意を持っていった
その子のことを私はいつも見ているだけだった
私はそれだけで満足だった
その子の笑顔を見るだけで、その子の声を聞くだけで私はいつも満たされていた
正直私はその子に惹かれていた
でも声はかけられない
掛けてはダメなのだ
だけどいつの日だろうか
唐突にその子は私に話しかけてきたのだ
まさか話し掛けられるなんて思ってもいなかった
「なんで……」
私はついそんな言葉が口から漏れてしまった
その子は笑っている
私の大好きな笑顔だ
優しく温かみのある笑顔
何年ぶりだろう
この笑顔が私に向けられるのは……
私は涙が止まらなかった
嬉しいわけじゃない
その笑顔が私に向けられてしまったのが……
とても悲しかった
とても辛かった
でもその子はお構いなしに私に手を差し伸べる
温かみのある手だ
「やっと会えた……」
その子の口からはその言葉が漏れた
さっきまで笑顔で素敵だったその子の顔は今は涙でぐしゃぐしゃになっている
私も恐らく同じだろう
「これからは……ずっと一緒……」
泣きながらその子は言った
その言葉を聞いた私はその子の震える手を優しく包んであげるように握った
「うん……ずっと一緒……」
今できる最大の笑顔を向けながらその子に言った
ずっと独りだと思っていたこれからの長い道のりを君と歩むんだ
そう思うと悲しくもまた嬉しくも思ってしまう
「行こうか」
私の方がここに来たのは先なのだ
先輩なのだからリードするべきだろう
優しくその子の手を取って歩いていく
目の前にある長い長い階段を長い年月を掛けて歩む
君に伝えたい言葉はずっと胸の奥底にしまって
私はその子の手を取って歩む
この想いは胸に 白狼 @mojidaishoukan
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