第9話 薄幸幽霊メガネは報われない
一方でピカオの方はどうかというと、彼は依然暗い未来を歩み続けることになる。ピカオはこの後生まれ変わり、平凡なメガネの家庭に生まれる。特に何事もなく元ピカオは順調に育ってゆくのだがある時世界を震撼させる大事件が起きる。
宣教師マイケルが暗殺されるのだ。そう、元ピカオが生まれるのはサン・グラスの権利条約が採択された数年後の世界だ。マイケル暗殺の主犯はピュア・クリアと名乗る謎のメガネ。ピッカリアの中に常時乗り込んでいるため本体の姿は不明。
定期的に機体を使い捨てて変更しながら活動しているのでピッカリアを特定することも逮捕の有力手段とはならず、本メガネを特定する情報はただサン・グラスとメガネが垂直に重なってバツ印を作っているバッジを身に付けているくらいだ。バツ印はメガネの方がサン・グラスより上になっている。彼はメガネ至上主義の思想を持つ者。サン・グラスがメガネと肩を並べることを忌み嫌う存在だ。
まあしかしそれでも最終的には追っ手に見つかり、逃げている最中に走行中の車と激突。ピッカリア機内にいたがピッカリアもろとも潰され死亡。事故死というなんともあっけない運命を辿る。
問題はその近くをたまたま生まれ変わった元ピカオが歩いてきてしまうことである。ピカオはそこでピュア・クリアのピッカリア機体から外れて転がってきたバッジを拾ってしまう。
それが運命の分かれ目だった。そのあとピカオはピュア・クリアの追っ手たちに見つかり逮捕される。バッジを持っていたことでピュア・クリアだと勘違いされ濡れ衣を着せられたのだ。
当の本メガネがすでに死亡しており、ピュア・クリア本体の姿が元々分かっていなかった他、様々な不運が重なった結果元ピカオは有罪、それも死刑を宣告されることになる。
最後の言葉は、
「俺はやってない!」
だった。
その後もピカオは生まれ変わりを繰り返すのだが、いつも何かしらの不幸がピカオを悲劇の結末に導いてゆく。ピカオがいるのは、そういう運命パターンの世界なのである。
だから私は虐げられてきたサン・グラスの幽霊よりもこの哀れな薄幸幽霊メガネを選ぶことにしたのである。それがピカオにとって救いになると思うわけでもない。こちらの都合で決めたことである。
さて、ここから少しだけ未来の話をしようと思う。この物語は、私がある人間の体を借りて複数の人の目に触れる小説として書いているものだ。
これを書いている人間は、私がこれを書かせていることにはもちろん気づかない。無意識の部分に干渉しているのである。
今あなたが読んでいるこの文章そのものもこれを書いている人間が自分で考えたと思っている。何故そんなことをするかというと数ある物語の中に本当の世界の真実を紛れ込ませてそれを読んだ人々の反応を観察するという余興を思いついたからだ。
フィクション扱いにしているのはそちらの方が人々の素直な反応が見られるからだ。そんなことをここに書いたら元も子もない気はするが、普通の人間ならこれもフィクションの一部だと思ってくれるので問題ないだろう。
ただし実際にこれを読んでいるあなたがいる世界も私が想像した世界に過ぎず、私はこの文章を本当に書いている訳ではないから実質的にはあまり意味がないことなのだが。
しかしあらゆる世界が私の知識の中にはあるのだから、私がこうした余興を行う世界も存在しなければならない。
それはともかく、私はまだ神を辞めて自己消滅していない。だからピカオに神の位を継承した経験を書くことはできない。しかし私は全てを知っているからその場面がどのようなものになるのかも完璧に知っている。よってここから先は私の知識の中にある未来を綴りたいと思う。
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