第8話 サン・グラス迫害の歴史
そう。このメガネも私と同じように世界に未練を残した幽霊だったのである。私も歴代の神々の例によって次の神の選び方は基本適当だがそれでも自分と同じような境遇を持った存在は気になるものである。
ただ、悲劇的な出来事によって幽霊になった者は他にいくらでもいる。たとえば虐げられ虐殺されたサン・グラスの幽霊。色が黒いサン・グラスはメガネと同等の知性を持ちながらも、メガネと対等に扱われず、時代によっては虐殺されてきた歴史がある。
しかしここは私がいた世界の数倍は進んだ高度な文明を持った世界である。私がいた世界では色の違いによる人間の差別はある程度解決されている。それだというのに文明が進んだこの世界ではいまだに大々的なサン・グラス差別が行われている。
その理由は、人間の世界の人種差別とは違い、サン・グラスには色が違うだけでなく、確かな生物学的欠陥が存在するからである。この世界のほとんどの生物は光を集めるなど光に干渉する能力を持っている。だが、サン・グラスの多くはそうした能力をもたない。
メガネ達は光に干渉する力を神の恵みと考え、光に関する物事に神の存在を見出そうとする。そんな彼らからサン・グラスは〟神に見捨てられし者達〝と呼ばれている。
そして実際にその能力がないと生物としての生存競争が不利になる。メガネは繁殖時、二個体がペアになり、片方がレンズ、片方がフレームの一部分を切り離す。そしてこの二つをペアになったメガネが集光した太陽光によって融解・融合させる。繁殖期のメガネは光の屈折率や角度を変化させて太陽光によって大きな熱を生み出すことができるのである。
これによってメガネの種ができる。この種を土に植えると一か月ほどで眼が出る。ここでは眼はメガネのレンズ部分を指す。
双葉のようなレンズがフレームと同じ素材でできた茎から生えるのである。同時に地中深くまで根を伸ばし、成長するのに必要な鉱物を吸収する。更に数か月が経過すると、眼は成長し、メガネの樹、グラス・ツリーができ、金属とレンズが混ざり合ったような葉に覆われる。
時が経ち葉が全て落ちると、最後に枝に四~六眼のメガネがなる。一定の大きさになると、自重で枝から切り離され、敷き詰められた葉をクッションにして生まれ落ちる。メガネの子どもたちはこの葉を養分にして成長していくのである。
メガネは通常このようにして繁殖する。
サン・グラスも大体似たような過程を経て誕生する。
しかしサン・グラスはこの中の集光プロセスが自力で行えない。だから他の生物の力を借りなければ繁殖が出来ないのである。
そこで彼らは集光能力を借りるために、ルーペなどの小動物を家畜にしていることが多い。ルーペの知能は私がいた世界の生物に換算すると犬程度である。
サン・グラスがこのような欠陥を持つ故にメガネはサン・グラスを虐げたり奴隷のように扱うことを正当化してきたのである。だから虐げられてきたサン・グラスたちの怨念は半端なものではない。
私はサン・グラスの幽霊を次の神にしようとは考えない。何故なら彼らにはもうすぐ希望の時代がやってくるからだ。この時代から数十年後、宣教師マイケルがついにサン・グラスたちの自由の権利のために立ち上がるのである。
彼は、機能面にどんな優劣があろうとも、見た目にどんな違いがあろうとも、心あるものはみな平等であるという理念のもと、生涯をかけてサン・グラスの権利のために戦うのである。結果、世界各国でサン・グラスの権利条約が採択されることになる。
こうしてサン・グラスの今までの暗い歴史は晴らされるのである。
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