第2話 ロウル、潜入する
「やっぱ本物は迫力が違うな……」
俺は今、魔王の巣喰う城に顔写真付きの履歴書を持って来ている。
例のクソギルドにスパイ宣言された時、資料を渡された。中身を見ると、
「不明」
とだけ表記されていた。俺はその資料もどきでハリセンを作り、ハゲ上司の頭を叩いてやった。おかげで気分は快晴だ。
そんなこんなで城に来たのはいいものの、入口が見当たらない。外堀に落ちないように城の裏をウロウロしていると、「面接会場はこちらから」と立て札があった。
魔物がいる城にしては親切だな……。
そう思いながら裏口へ入っていった。
入って受付を終え、案内された部屋で面接官が来るので少々お待ちくださいと待機していた。
受付からこの部屋に入るまで、多くの違和感があった。
謎の丁寧な立て札から案内人の雰囲気。門前払いされるかと身構えていたが、印象良く見せるためだろうか。
想像を膨らませている時、ノックの後にドアが開き、男性が1人、入ってきた。面接官だろうか。
「今日は面接にお越し頂きありがとうございます。本日、面接官を務めさせていただきます、ルフルと申します」
長躯でスーツをラフに着こなしていて、一見惚れ惚れしてしまう。左目を髪で隠してあるのは気になるが、今は集中しよう。
「お名前は……ロウルさん。種族の欄に何も表記されていませんが……、公開したくないということでよろしいでしょうか?」
「はい、そのあたりは厳しくて……」
人間として潜入したら大問題だ。特に思いつかなかったし、空欄でも構わないだろう。
案の定、ルフル氏は快く承諾してくれた。
「構いませんよ。諸事情で明かせない方も沢山いらっしゃいますし」
それ以降の面接は滞りなく進んだ。
あの時までは。
「これで面接は以上になります。お時間を取らせて頂きありがとうございました」
「こちらこそ、お忙しいところありがとうございます」
俺が礼を述べると、ルフル氏の目が怪しく光った。
「ところで……、なぜ人間なのに応募しようと思ったんです?」
その一言で空気が変わった。背筋を冷たい汗が伝う。
どこでバレたんだ? 嘘を見抜くスキルでも所持しているのか?
「嘘をついても無駄ですよ? 私には全て視える……、左目はありませんが」
そう言って髪をかき上げると、眼球があるはずの眼窩は、ぽっかりと黒い穴があった。
「……まあ、いいでしょう。上の者に判断を仰ぎます。ついてきてください」
威圧感から解放され、心臓の鼓動が指先まで響く。
俺は肩で息をしながら尋ねた。
「あの……上の……、者とは……?」
癖のある髪で左目を隠しながら、ルフル氏は答えた。
「もちろん、魔王様ですよ」
俺は今、魔王の前にいる。
「……という訳なんですけど、どうします?」
ルフル氏に連れられて魔王がいる玉座にやって来た。判断を仰ぐと言っていたが、俺の処遇を決定するのだろうか。こんなところで殺されでもしたらたまったもんじゃない。
「えーっと……、ロウル、くんだっけ?」
何も見えない縦長の部屋の奥で、突然話しかけられ、萎縮してしまった。
「はっ、はい!」
「君の処分が決まったんだけど……」
もうこの際殺されたって構わない。あのクソギルドからおさらばできたら万々歳だ。
腹をくくって続きを聞く。
「御主、俺の後継者になってはくれないか?」
「はああああああ!?」
部屋の奥からルフル氏の叫び声が聞こえた。あまりに声量が大きかったため、ちょっとビビった。
「何言ってるんですか!? 見ず知らずの人間を後継ぎに指名するなんて!?」
「だってェ、彼、素質あるんだもの。能力なんて目から鱗なんだって!」
「こんなんだから野良の魔物に城の中、入られるんです! 少しは自覚を持って頂きたい!」
「それとこれは別だってば!」
「ちょっと待ってください!!」
2人の言い合いを制して質問した。
「俺、スキルなんか持ってないですよ。魔法だって初歩的なものしか……」
「ああ、違う違う。ちょっとこっち来てくんない?」
魔王とはいえ、威厳のカケラもない幼い声に、俺は恐る恐る近づく。
ようやく視界が開けて見上げると、そこにはルフル氏ともう1人––––魔王が脚を組んで座していたのだが……。
声の主にしては容姿が合致していなかった。
1つの胴の上に2つの頭が乗っかっており、片方だけ俺を見ていて、もう片方は眠っていた。双子なのかと思うほど顔立ちが似ていて、魔物特有のものなのか、ツノが生えていた。
見たこともない姿に、俺は恐怖を覚えた。
平伏している俺に対して椅子から身を乗り出し、微笑を向けた。
「君がロウル君か。はじめまして」
ギルドの犬からホワイト魔王軍の次期魔王に転職しました。 朝陽うさぎ @NAKAHARATYUYA
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