第88話 トーヤ・ハイナイト伯爵
サーベル王国に英傑有りと
一にハール・ロッテンマイヤー公爵
ニにシン・トクダ侯爵
三にラウール・グレイハウ伯爵
四にトーヤ・ハイナイト伯爵
この四家をもってサーベル王国の
ハール・ロッテンマイヤー公爵は王家の影を勤めその組織をまとめ上げ、その諜報力の凄さを国内外に知らしめている。
シン・トクダ侯爵はヤパンにて行われた御前武術試合において、数多いる強敵を全て倒して優勝した。その際にヤパンの
ラウール・グレイハウ伯爵はその領地の発展に努め、王家より領土の拡張を認められ、更にはナニワサカイ国やヤパンとの貿易において優秀で、領民たちからも慕われており、群を抜いた強さではないが、鍛錬も欠かさずに行い【王家の盾】の称号を賜る栄誉も手にしていた。
そして、トーヤ・ハイナイト伯爵はその類まれな能力を遺憾なく発揮してサーベル王国の利を守った。また、他の貴族たちとも協力しあいその関係を【和】をもって取りもった。
生涯に渡りあまり喋る事は無かったが、その一言にはみんなが重みを感じる事となった。
また、口数の少ないハイナイト伯爵をその妻のフェルはよく補佐していた。
【沈黙の策士】とは誰が言い出したのか…… 恐らくはトーヤ・ハイナイト伯爵によって没落した貴族たちが嫌味を込めて言い出したこの二つ名がいつの間にか皆にも広まり、今ではハイナイト伯爵の称号のようになっているのは皮肉な事だった。
僕とフェルがサラディーナ様、アカネ様、
まさに馬に乗ろうとしていたお三方の目の前に転移した僕たちを見て固まるお三方。
一番素早かったのはルソン陛下だったよ。アカネ様の目の前に飛び込んでズザザザァーッと滑りながらの土下座は見事なモノだったからね。皆にも見せたかったよ。
次に動いたのはケレス陛下だった。陛下はユックリと歩いてこられ、サラディーナ様の目の前で言い訳を口にしたんだ。
それは
そして、将軍様は落ち着いた様子で
「
「上様っ! かような
あからさまに幼い頃はもっと賢かったって言われて少し顔を赤くする将軍様。
うん、もっと言ってやって下さい! 僕は
「そのような事をこの場で言わなくてもよいではないか、
「上様、まことにございますか? またこの
「ハハハ、
「そこまで言われるのであれば信用いたして国で上様をお待ちしましょう。ハイナイト伯爵、ご迷惑をおかけしますが、上様をよろしくお願い申し上げます」
「トーヤくん、転移できるなんて私は聞いてないよ」
そりゃ、お伝えしてませんからね。ルソン陛下だけじゃなく、ケレス陛下にもお伝えしてませんから。僕が何て返答しようかと考えていたら、アカネ様がルソン陛下に突っ込んだ。
「アホか、このアンポンタン! 何でトーヤくんがアンタに能力の説明をせなあかんの! ウチらかて全ての能力を人に言うたりせえへんやろっ! 考えたら分かる事でトーヤくんに文句を言うんやないでっ!」
アカネ様、有難うございます。僕の気持ちを代弁して下さって。
そんなこんなで、ケレス陛下、ルソン陛下、将軍様はそのまま僕の領地に来られる事になり、勿論、サラディーナ様とアカネ様も来られたよ。
将軍様は本当に2日後にお国に帰られた。そして、ちゃんと
ケレス陛下もそれから周辺諸国との外交に力を入れられ、紛争を止めたりされた。
ルソン陛下は…… 相変わらずのようだけど……
そして3年の歳月が流れて僕とフェルは結婚したんだ。フェルはとても美しい花嫁だったよ。僕は前世と同じように領地で披露宴を開いたからね。
領民たちからの心からのお祝いを聞きながらフェルに末永くお願いしますって言うと、フェルも輝くような笑顔で、私も末永くお願いしますって言われたんだよ。
それからの僕は隠密部隊を使って国内外の情報を集めて、それらをハール様にお知らせしたり、また厄災級の魔物を討伐に行ったりしてサーベル王国の利になる事を積極的に行った。
そして、18歳になった時に待望の第一子が産まれたんだ。女の子だったよ。フェルに似てとても可愛らしい女の子に僕はもうメロメロだったよ……
パソコンの前で文章を打っていた女性はそこまで打ち込んで満足そうに保存した。そこに女性に声をかけてくる男性がいた。
「こんなに遅くまで、大丈夫かい? 香織」
「あなた、大丈夫ですよ。それに今やっと打ち終わったの」
「そうか、お互いにもう年も年だからな、あまり無理はしないでおこう」
「フフフ、そうですね。気がつけば私もあなたも80歳を超えていたんですものね」
そう言って笑い合う2人。1人は磯貝澄也の従妹の香織である。今は趣味のWeb小説を楽しんで書いている。後に累計五十万部を発行する事になる香織だが、この時はまだそれを知らない。
「フフフ、やっと書き終わったわ。
そう言って香織は眠りにつく。
【寡黙な男はモテるのだ……多分】というWeb小説が書籍化され、その作者が83歳のお婆ちゃんだと発表された。
この事実に小説を書く事を趣味にするご老人も増えた。手を使う事によりボケ防止にもなると家族にも喜ばれたのは副産物だろう。
作者の香織は戸惑いながらもみんなが
香織はその死の間際に孫娘に聞かれてこう答えたという。
「お婆ちゃん、どうしてこんな物語を思いついたの?」
「フフフ、それはね。優しい神様がお婆ちゃんが落ち込まないようにって、ある日この物語を教えて下さったのよ」
そうして香織は亡くなった。
ある神の眷属は香織の魂を連れて神の元に向かった。そして、香織はサーベル王国に転生する。
その先の物語はまだ語られていない……
寡黙な男はモテるのだ……多分 しょうわな人 @Chou03
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