第87話 遊び呆けるお三方……

 何故か? 僕とラウールさんは目の前の光景に呆然となっていた。


「えっと…… トーヤくん、どうしてかな? 僕の目にはトクセン様とルソン陛下と我が国の国王陛下がいらっしゃるように見えてるんだけど…… 僕の目が悪くなったのかな?」


 いえ、大丈夫ですよ、ラウールさん。僕の目にも同じモノが映ってます。僕はその思いを込めてラウールさんに向かって首を横に振る。


「あっ、やっぱりトーヤくんにも見えてるんだね…… 可怪おかしいよね? 用事は済んだ筈だから、政務がお忙しい筈のお三方がまだうちの領地の僕の屋敷に滞在して温泉に入ってるのは……」


 はい、ラウールさんの言うとおりです。可怪おかしいですよね。しかも、毒見役もおかずに侍女さんたちから直接ワインや清酒を注いで貰って呑んでますよ…… 僕は紙にサラサラと書いてラウールさんに見せた。


【今からサーベル王国とナニワサカイ国、ヤパンに行ってきます。直ぐに戻ってきますから、陛下たちが逆上のぼせてしまわないようにだけ注意しておいて下さい】


 頷くラウールさんに僕も頷き返すと急いで転移陣に向かうつもりで後ろを向いた時に、ルソン陛下から僕に向かって声がかかったんだ。


「フフフ、トーヤくん。無駄だよ。この屋敷にある転移陣は使えなくしてあるからね。だからこそ、私達3人は安心して呑んでいるのだよっ!!」


 声高らかにそう僕にのたまうルソン陛下。アレ? 封じの腕輪を無力化したのかな? 僕の不思議そうな顔を見て、自慢するようにルソン陛下が種明かしをしてくれたよ。


「フフフ、安心したまえ、トーヤくん。君の腕輪はちゃんと機能しているぞ。しかーしっ!! 私は転移魔法の大家たいかだ! フィリップの作成した転移陣の何処をいじれば使用不可になるかは熟知している。そして、それを行う魔力はココに2つもあるのだっ!!」


 そう言ってニコニコご機嫌なケレス陛下と将軍様を見るルソン陛下。なるほど、ルソン陛下の指示のもとで、ケレス陛下と将軍様がその部分をいじられたという事ですか。

 僕の納得した顔を見てルソン陛下は益々調子にのっている。


「ファーハッハッハッ!! コレで如何いかにトーヤくんと言えどもアカネやサラディーナさんを呼びに行く事は出来まい! 王者の叡智えいち! ここに有り! だよ、トーヤくん!」


 何処かの魔王様のようなセリフを言うルソン陛下の言葉にラウールさんが心配そうな顔を僕に向けたけど、僕はラウールさんにニッコリと微笑んで問題ない事を伝えたんだ。僕の笑顔を見たラウールさんがホッとしたのを確認してから、僕は自身の魔法で転移したよ。


 後からラウールさんに聞くと、僕が消えたのを見てルソン陛下は目を見開き、ケレス陛下は大きく口を開けて呆然としていたそうだよ。将軍様だけは我関せずみたいに呑んでいたらしいよ。


 僕は先ずは自分の王都の屋敷に行ってフェルに事情を説明したんだ。そして、フェルと一緒に屋敷の転移陣を利用して王宮に飛んだんだ。そこで、サラディーナ様に面会をお願いしたら、直ぐにお会いする事が出来たんだよ。


「フフフ、どうやら主人は命知らずな若者に戻っているようね。私に任せてちょうだい」


 フェルから説明を受けたサラディーナ様がそう言って不敵に笑う。僕とフェルはサラディーナ様にアカネ様にもお伝えしたいと言うと、直ぐに動いて下さったんだ。


 僕とフェルもサラディーナ様と一緒に王宮の転移陣を利用してナニワサカイ国の王宮へと飛んだ。そして、サラディーナ様からアカネ様に事情を伝えていただくと、


「なんやてーっ! あのボンクラがーっ!! トーヤくん、下世話な話をしてしもうて悪いんやけど、トーヤくんやったら出来ると思うから頼むんや! ちょっと不能にする魔導具って直ぐに出来へんかな?」


 そんな事を僕に言ってきたんだよ。おっと! そう来ましたか、アカネ様。フェルが横で頬を赤らめてるけど、サラディーナ様からもそれは良いわというお言葉が出たので、僕は付けられた本人が気が付かない様になってる前世のピップエレ○バンのようなシールをサラディーナ様とアカネ様にお渡しした。

 

【これをさり気なく陛下たちの首にでも貼って下さい。貼った瞬間に皮膚に吸収されて見えなくなります。効果は1ヶ月です】


 僕が紙に書いて説明を見せると2人とも1ヶ月なんて短すぎるわーって仰ってたけど、まあ流石にそれ以上だと男性としての自信が皆無になってしまう可能性もありますからと説得したよ。


 そして、早速乗り込もうとされたお2人にもう少しお待ち下さいとお願いして、僕とフェルはヤパンに飛んだんだ。


 何とか間に合ったようだよ。将軍様のお城の私室で今にも腹を切ろうとしていたご老人を止める事が出来たからね。


「どなたか分からぬが、お止め下さるなっ! このシワ腹をかっさばいて見せねば上様はお分かり下さらんのじゃ!!」


 そこにフェルの言葉がご老人に向かって飛んだ。


「そのお覚悟があるのならば、どうか私たちと一緒に我が国に来て、将軍様をお諌め下さいませ! 私たちも困っているのです! どうか、よろしくお願いします」


 フェルの言葉にご老人の動きがピタッと止まり、叫んだ。


「何とっ! 外国とつくににまでご迷惑をお掛けしておると云うのかっ!! ええいっ! 何と言うことじゃ! 無礼を承知でお頼み致す! 上様の御側御用取次おそばごようとりつぎであり、じいであるこの吾郎右衛門ごろううえもんを上様の元に連れていって貰えぬかっ? 必ずやこのじいが上様をおいさめいたすゆえ! 頼むっ! この通りじゃ!」


 ホントにもう、将軍様! こんなにも将軍様を思うじいを困らせちゃダメじゃないですか。そう、じいだよ! 

 内心の興奮を押し隠して僕はフェルに頼んで事情を説明してもらい、吾郎右衛門ごろううえもんさんこと、じいを連れてナニワサカイ国に転移したんだ。


 フフフ、お三方、お待たせしましたね。覚悟は宜しいでしょうか?

 あっ! 僕の心の闇な部分がちょっとだけ顔を出しちゃってるよ…… 親衛隊には見せられないね。

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