第7話 仕方がない
「ぎゃっははははははは! 好きなことしていいって、本っ当に楽しいよねぇぇェ!!」
少年が腹から爆笑を上げて三尺棒を振り回す。
少年は特筆するほど、腕力があるわけでも技に秀でているわけでもなかった。
ただ異常なほど、動きに微塵の躊躇もない。それは相手へ振り下ろす鉄塊にだけではない。相手の殺意を込めた動作に少しも恐怖を抱いていないようだった。
頭を殴られても、鳩尾を打たれても、足の腱を切られても、
「あれは、なに……?
奇妙な化け物の起こす暴虐の嵐に、シャレイは思わず上ずった声を上げる。
シャレイを押さえたまま、
「再生とは違う。それではあいつに刺さった刃が消えた説明がつかないだろう」
「じゃあいったい」
「『身体逆行』……あいつの
「私の刺した刃が消えたのは、数秒前には刃なんて刺さっていないはずだから?」
「そうだ。例えば
物理学者がそれこそ発狂しそうなことを言って、
「お前があの解放連盟に何を
「…………それでも」
「妹の幸福が優先か。だがただ自由を与えることが、本当に
「どういう意味」
声を荒げるシャレイを
「何よりお前は誤解している。まだ尻尾こそ掴めていないが、俺たちは解放連盟の後ろにはクェイン信教が絡んでいると睨んでいる。あの逃げ回ってる愚かな連中は利用されてるだけの阿呆共なのさ。クェイン信教の経典にはお前ら異国人のほうが詳しいだろう。あの経典は
「────」
シャレイから思考が消える。それは停滞ではない。爆発する感情に言語化が間に合っていないのだ。
「とはいえ、宣教師に導かれた和人は真相を知らず、心の底から
左手で眼鏡の縁を押し上げ悩ましい表情になった。
しかし推測は大声に中断させられる。
「
「お前は右手から向かえ。俺が左側からあぶりだす。さて、輸入したばかりの
指示を出して小銃を構える。
中に詰めた弾をレバーで自動装填させることで連発を可能とした、最新式のライフルだ。
本来の射程はそれほど長くなく、威力も拳銃並みだ。分厚い木の板を貫通するのも難しい。遠距離攻撃には向いていない。戦場での使い道も、致命傷を与えるよりも相手の動きを止めることに重きを置いていた。
だが皇和国の術理使が使えば、それも凶器へ変わる。
「さて、居るとすればあの辺か。増幅、調整──完了。ありがたく味わえ。これが
迷わず発砲。開いた窓から侵入した弾丸が突然に軌道を変える。
軌道上になかったはずの柱の影から絶叫が上がった。
本来なら狙撃されるはずのない位置。なのに撃たれた理由は一つ。
弾が直角に曲がったのだ。
「隠れても無駄だ。どんどん行くぞ。俺の弾丸は貴様らを地の果てまで追い詰める」
用心金を兼ねたレバーを引いて
強引な術理の行使は術理使にも反動を与えるようだ。
三十人は敵がいたはずなのに、相手はすでにずいぶん数を減らしていた。中には戦闘に慣れて者もいたはずだ。だというのに、彼らはたった二人に
紳士服の男が歯噛みして
「なぜだ! 我らは君を助けたいんだ! 罹患者の幸せを本当に願って活動している! なぜ自分が縛られ利用されていることが分からない!?」
「言うことがいちいち難しいなぁぁァ。おれさぁこんなに自由なんだよぉぉォ? なんにも我慢しなくていいんだぁ。いろんなことから解放されてぇ、楽しくって頭イカれちゃうくらいに幸福なんだよぉ。そっちこそどうして邪魔するかなあぁぁァ!?」
「っ、この気狂いがっ」
会話はどこまで行っても平行線だ。
「……見えているモノが違いすぎるな」
どうやらあの司令塔も大した思想を持っていないようだ。前言通りに全員処分するため
「お前ら動くなああ! この女がどうなってもいいのか!」
筋骨隆々の労働者風の男がシャレイを羽交い絞めにして首元にナイフを当てていた。シャレイは目が虚ろだ。さっきのショックが抜けていないらしい。
完全に人質状態だ。
「いつの間に……」
労働者は太い柱を背にしている。この位置取りだと、どれほど正確な射撃でもシャレイを傷つけず救うのは難しい。そんな狙いを付ける隙はさすがに他の連中が与えてくれないだろう。
「そうか何とも残念だ。では死んでもらおう」
「は?」
「あっははは! そうだねぇぇ。そうしよぉ」
「おいっ、こっちに来るな!」
「近づくなって言ってんだよ!」
「んははっごめんねぇぇェ、ルスファさァん」
「クソ共がっ。なんなんだおま───!?」
男の視線が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます