第3話 世界の理
「ルスファさん、もうすぐ降りるよっ」
少年の柔らかな声音で、シャレイは視線を遠くへ移した。
馬車に揺られて
「私を連れ出してどうする気なの」
「答える義理はない」
「まだ知らなくていいってさ」
尋問部屋の緊張がまだ続いている。
不法入国者への罰則は国外への強制送還だ。だがそれは国際法が適用される港でのもの。国内に深く入ってしまったいま、自分の命を法が保証してくれるか怪しい。
二人は治安を守る
平屋造りの民家や連なった長屋が立ち並ぶ通りを抜けると、いっきに道幅が広がり視界が開ける。馬車が停止し、押されるように下ろされた。
「ようこそ異国人。
石畳に舗装された広い馬車道。一段高くなった歩道には等間隔に街頭が立っている。木造の建物よりもレンガ積みのものが多い。そこはどちらかといえば故郷で見慣れているのだが。
「あれって、もしかして
ちょうど目の前を松明を持った
「あれ全部ガス灯なの……? あんな科学の産物がこんな大通りで堂々と使われてるなんて」
「お前の国では違うのか」
信じられなくて足を止めると、
シャレイは困惑を誰かと共有したくてわたわたと説明した。
「だって、術理を持つ国は自国の術理に誇りを持っているから、すべての生活基盤が術理で補われるのが普通でしょう。この国に来るまで通った術理を有する国はおしなべてそうだった。もちろんあんな高等教育、庶民は受けられないから、民間には石油ランプだって広まってるけど」
身振り手振りで伝えるが、
「外国って無駄に自尊心が高いんだねっ。良いモノは受け入れてかないと不便に思えるけどっ」
「他国の術理は
二人のやりとりを聞いていて、シャレイは胸に不安がよぎった。
「この国の術理はそれほど不便なの?」
「使い勝手は人によるかなっ。ただっ、科学とはすごく相性がいいよ。だから
「お前の国……確かクェイン信教が術理を司っていたか。『変換』なら確かに手広くやれるな。さすが最大領土を有するクェイン信教だ」
「知ってるっ! いわゆる錬金術でしょ? 格好いいよねっ。そういうのでいけば
「それは
「いやあっ、ほらっ、おれ
「だからってお前な。感覚で生き過ぎだ! 己の生命線くらい的確に把握しておけ愚か者!」
「あぐっ、……痛ぁい」
拳がもろに顔面に入った。
「血が」
「ああ、大丈夫ですっ。もう平気」
シャレイが服の袖で拭ってやろうとすると固辞された。確かにそれ以上の出血はないようだが。
先のやりとりと少年に巻かれた包帯から、シャレイに一つの疑惑が湧いてくる。
「もしかして、その頭と手の傷も……?」
「いやっ、これは自業自得だからっ。
少年が笑う。いつも焦っているような口調だから、これが誤魔化しなのか本当なのか判別できない。
彼らの関係性にあまり深く踏み込むべきでもないだろう。シャレイは意識を切り替える。
「それで、
詳しく訊こうとして、街中に突如として悲鳴が上がった。周囲の視線が一か所に集まる。
見れば、数人の男たちが
「ああ、ちょうど見れそうだぞ」
まるで見世物でも観察するように、
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