旅に行く

七味豚肉

ドタキャンされたので旅に出ます

今日は友人たちと線香花火をやる予定だったのだが、ドタキャンにより人数が減ってしまったため延期となった。


  そこで何かをしたくなり、江ノ島へと向かった。


 それは突然のことであるから、早朝出発やルート決めなんかもしていない。ぶらり旅だ。


 江ノ島へは乗り放題の切符を使うことで思っていたよりも安く行くことができた。



 江の島の最寄り駅から地方私鉄に乗り換え、江ノ島に着いたとき真っ先に感じたのは、笑ってしまうが『夏』である。


 暑いのだ。とにかく暑い。はぁ暑いなぁなんて思いながら水をぐびぐび飲んでいると、おそらく地元の高校生であろう青年が太陽の降り注ぐ中、電車の改札ーこじんまりとした改札ーを出て電車の前の線路を渡る。


 その額には汗が出始めているし、光が乱反射してる。


その姿は観光地ながら、そこで生活する者の青春だったし、私を学生の頃に引き摺り込んだ。


 それから私は改札を出て、人の波に攫われながら今時便利なマップアプリを使わず歩いた。


江の島駅周辺は、私の住んでいる地域のビルがいくつかと開いているのか怪しい小さい商店が駅を囲むものとは違って、がやがやとした活気に溢れていた。


 まぁ飲み物は観光地価格であると思う。(一つだけ100円自販機があったが⋯⋯)


初めての地に高揚する私ではあるが、これからの温泉や食べ物巡りを考えればお財布の紐も堅い。



 小腹も空いたので少しだけ買いました。




 そんなこんなで両側が海に挟まれた砂浜の上に架かる橋を10分ほど歩き遂にTHE江の島ってなとこに着いた。


 青銅製らしい鳥居をくぐりそこからが坂、坂、坂である。


坂を上った後あるのは、どでかい鳥居らしきものと勾配のきつい階段。


これが毎日と思うと学生気分も台無しだが、好都合、私は日帰りの翁である。


ほっほっほ。


とか考えながら登りお賽銭に少し奮発した額を投入し、そのことを少し後悔しながら平坦な道を突き進む。


 


 進むと下り坂があり、好奇心に任せて進み入った。


急傾斜な階段と狭い通路、ここが外から来た人にとって非日常の愉悦であることが分かった。


それとともに朝出会った高校生の快活さを痛感した。


 ある程度進むと神社があったり広場があったりするのだが休憩ゾーンとなっていた。


わくわくがとまらないのでそのまま行くと坂がある⋯⋯


 そのあたりにある民宿や食事処、土産屋を見ながらずんずん進み、行列のできているしらす丼の店を素通りしてすすむと人が減り落ち着いた雰囲気のとても景色の良い店があった。


太平洋の海を水平線まで眺めながらの食事はこれまた愉悦である。


 生しらす丼と味噌田楽が疲れた体を後方支援する。がんばれ私。


 食べ終えて満足したら店をでて、ほんの少し進むと海が見える。


切り立つ崖に風を羽に受けホバリングする鳶がいるのだ。


岩石海岸特有の光景だ。


そして洞窟があった。深い。富士山の氷穴(氷穴は涼しいのでぜひ行ってみていただきたい)とも繋がっているらしい。伝説だが。



 帰り道。帰るための近道くらいあるだろうと思ってここまで来たわけだが、そんなものは無い。



 とぼとぼと帰った。


だが運が良かった。


 行きは人が多かったためスルーした崖と植物、そして海と、といういかにもな風景を拝むことができた。


 それに階段を上るときには見えなかった景色や下るときには見えなかった絶望の坂道を観ることができた。


 青銅製らしき鳥居に戻ってきたときにはそこそこな時間が経過していた。


 そこには時間以上の満足感があったわけであるが。




 ここからは温泉である。


 数時間上下左右、右往左往した私の汗ばんだ体の疲労、達成感、誇り、何もかもを落とす温泉だ。




 温泉は強塩泉であるが、鉄分を多く含む茶色ではなくて、透明なものであった。


 温泉マスター(自称)の私であるが不覚、汗顔の至り。初めての泉質であった、しかしそんな私の恥も湯はすすぎ落し。お湯の熱が体の中に沈み込み、不覚にも溶け込んでしまいそうなほどであった。


 そんな旅も終わりを迎える。⋯⋯⋯-


そして分かってはいたことだが逃避していた事実。来た道は戻らないと帰れないのである。


 温まった体に再び鞭を打ち帰路に就く。


駅まで片道20分程の道を名残惜しく、温泉のせいで足取り軽く進む。




 帰り路は行きよりも空いている電車に乗った。

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