03

 二回目のデートは、三月だった。二人で過ごそうと決めてから、特にしたいことも行きたいところもなかったので、彼女の家にお邪魔した。


 途中でショートケーキを買って行った。いつもと違う場所にいることに、それが彼女の家であることに緊張していた。二人とも。

 彼女の家ではミニチュアダックスフンドを飼っていた。照れくさい空気が流れる玄関に彼はやってきて、一声吠えた。僕は特に犬が好きなわけでもなかったけれど、かがんで彼に目を合わせて、かわいいね、と言った。ケーキ飼ってきたよ、お前は食べれないけどね、お邪魔します。すべてダックスフンドの目を見て言った言葉だった。   

 ひと通り飼い犬についての話をした後、彼女の勧めでビデオを見た。それは雰囲気の良い映画とかではなかった。色気のないバラエティ番組だったけれど、それが良かった。友達の延長のような僕たちだったから。


 昼ご飯をどこで食べるか、あみだくじで決めた。あみだくじを提案したのは彼女だった。なんでも楽しいことに変えてくれるのは彼女だ。20分歩いてお好み焼き屋さんに行った。僕たちは歩くのが好きなのかもしれないと思った。

 サラダを取り分けてくれた彼女は「残りのサラダこのまま食べちゃっていい?」と言った。遠慮のない彼女が僕は好きだった。

「多分、それは僕が言うんだよ」

「じゃあ言って。今のなし!」

「残りは、そのまま食べちゃっていいよ」

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて」


 食べすぎたから、卓球でもしようよ。彼女の提案で、一時間ほど卓球をしていたら、外は雨が降っていた。お互いに天気予報を確認していなかったので、傘を持っていなかった。雨の中、少し走って近くのレンタルショップで雨宿りをすることになった。店内を一周、この映画は良かったとか、多分これは君の好みじゃないとか、これは泣いたとか、目につくものについて話した。結構時間がたったけれど、雨は止んでいなかった。


 僕は近くのコンビニまで走って傘を買ってくるから、待っていてと彼女に言った。すると彼女は「私も一緒に走りたい。楽しいじゃん!」と言ったので、結局二人で雨に濡れた。傘を一本買ったら、相合傘だと嬉しそうにしていた。

 「なかなかできないよね、絶対に片方は忘れたふりしてるよ」


 僕は上手く収納できなくて、折り畳み傘が嫌いだった。だけどあの日から、いつも鞄の中に折り畳み傘を忍ばせている。


 家に着いてから、バラエティ番組を見た。彼女が笑った顔を見ながら、僕も笑った。そうしていると、目が合ったので、二人で笑った。幸せだった。結婚して、居間でテレビを見ているようだということまで考えた。



 あの番組は、今月で終わるらしいということを話した。一緒に住み始めてからは、二人で毎週見ていた。彼女がいなくても見ていた。解消してから、段々見なくなった。

「好きだったなあ」

「君は好きだったよね」

 彼女は「君は」と言った。僕は「君が」と思った。彼女は「好きだったなあ」をあの番組のことだと思った。

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