エピローグ

「朝どれのマカットだ。一番大きな房を持ってきてやったぞ、リアノス」

 得意げな顔で、マカットが載ったかごをナートが差し出した。

 マカットは、一口大の丸くて赤紫色の実だ。それが房状に木になっている。リアノスが療養している間に、収穫が始まったのだ。

「明日も収穫を手伝いに行くんだよね。キーヒャたちと、お弁当を持って」

 アミシャが言うと、ナートは「うん」と元気よく頷いた。

「それから、リアノスの畑は僕とアミシャでちゃんと見ているから心配するな。時々オスタムも手伝いに来るし」

 療養といっても、畑仕事を休んでいるだけだ。傷はもう塞がっていて、居間のテーブルで、毎日見舞いに来るナートを出迎えている。

「ありがとう。おかげで怪我の治りも早いから、明日から畑に戻るつもりだ」

「大丈夫なの?」

「もう少し休んだらどうだ? まだ重い物を持つと背中が痛むんだろう?」

「もうほとんど痛くない。それに、明日からもナートが手伝ってくれるんだろう? だから、大丈夫だ」

「そんな。リアノスが畑に戻ったら、僕は明日から見舞いに来れないじゃないか」

「……もしかして、見舞いそのものが目的だったのか?」

 知人を見舞う、という「ふつう」のことを、ナートは楽しんでいたのかもしれない。いや、それはそれで悪くはないのだが。

「リアノスの心配もしてたぞ、ちゃんと」

 ナートは胸を張る。そんなに威張って言うようなことでもないだろう、とリアノスは苦笑した。アミシャも笑っていた。

「どうして笑う」

「いや、何でもないよ」

「そうだ、リアノス。怪我が治ったんなら、僕は旅に出てみたい」

「旅?」

「そう。リアノスもアミシャも、ティサをほとんど出たことがないんだろう? だから、三人で旅に出るんだ。僕はあちこち見てみたい」

「へえ。楽しそうだね」

 ナートの唐突な提案に、アミシャが同調する。

「……畑はどうするんだよ。マカットの収穫だって、これから本格的になるんだ」

「じゃあ、それが終わってから旅に出よう。近くの街に行って戻ってくるだけでもいいから、行ってみたいところに、行きたいんだ。いいだろう、リアノス」

 遠い昔、ティサがまだティサではなかった頃に、ナートはこの地にやって来たという。それまでにずいぶんと長い間あちこちを旅をしたようだが、それはまったく本人の意志ではなかった。

 今は違う。ナートは、自分の意志で、自由に、どこへでも行けるのだ。

 だが。

「……俺がナートを旅に連れていくのか?」

「僕は今までさんざん人の願いを叶えてきたんだから、今度は僕の願いを叶えてもらってもいいだろ?」

「どうしてそれをするのが俺なんだ?」

「いいじゃない、リアノス。わたしも、色んなところに行ってみたい」

 アミシャまで目を輝かせ出す始末だ。二人は、まだ療養中のリアノスの見舞いに来ているのではなかっただろうか。

 畑仕事は何とかこなせるだろうが、旅に出るにはまだまだ早い。

 だけど、三人で旅をするのも悪くないと考えている自分に気付き、リアノスは笑いながら、仕方ないな、と呟いた。

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封印ロンリネス 永坂暖日 @nagasaka_danpi

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