by the girl

 朝食を摂った後、二人はすぐに出発することを決めた。余計な迷惑をかけないようにしたかったのだ。

「本当にありがとうございました。」

「いやいや気にしなくていいよ。それよりミンジュちゃん、やかんと二人だけで大丈夫かい?」

「大・丈・夫だ。」

 やかんが返事をする。

 ウバリが微笑んだ。

「そうかい。気をつけるんだよ。」

「はい。」

「ミンジュ!」

 二人はリワに呼び止められた。

「その……色々ありがとう。旅、すごい大変だと思うけど頑張ってね!」

「うん。ありがとう。リワも頑張って。本当に応援してる。」

 これは本心だった。せめて最後の言葉は嘘偽りのないものにしたかった。

「うん! じゃあね! バイバイ!」



 二人はプラム村を出て歩き始めた。

「リワって奴、良いだったな。」

「そうね。」

「寂しくないのか。」

「……よくわからない。」

「まあ良いや。それよりこの後の話がしたい。」

「そういえば聞いてなかったね。」

「この後オアシスを目標にとにかく北に向かう。一応道はあるからそれに沿ってな。ただし、その途中に妖精の泉に立ち寄ってくれ。化け物が思ったよりも多かったんだ。出来る限り俺を強化したくなってな。」

「妖精の泉? オアシスより凄そう。」

「名前だけだぜ? 今となっちゃただの池みたいになってる。とはいえただの池じゃないから行くんだけどな。」

「へー。」

「本当は?」

「どうでもいい。」

「だと思った……。」



 その日の夜は再び野宿をすることになった。プラム村で物資を収集しており、旅に関しての心配は特になかった。

 その夜は“ケトル“でお湯を沸かした。

 目の前の焚き火は意気揚々と燃え盛っていた。それとは対照的に、やはり少女の瞳に光はなかった。


「ミズ、星が綺麗だな。」

 やかんが沁々しみじみと言った。星空はこの世界に似つかわしくない程に美しかった。

「そうね。」

「少しは心が洗われるんじゃないか。」

「そう、ね……。これから長い旅が始まるのかな。」

「始めてしまえば案外早いものだぜ?不安なのか?」

「大丈夫。これから先も。ずっと。私は生きると決めた以上胸を張って生きていきたいの。」

「その小さい胸をか?」

「こ、これから成長しーまーすー! もういい。寝る。」

「ハハハ! わかった、火は俺が見ておく。」

「よろしくね。」

 少女はテントの中へと入っていった。



 やかんの頭上には満天の星が輝いていた。やかんはふと思った。

(やっぱり一緒に寝れば良かったか。。)

 やかんが寝ることなどないのだが、そんなことを心の中で思ってしまった。

 自分も随分と変わってしまったと自嘲しながら、星空を見て感傷に浸っていた。




 独りでいると昔の事を思い出す。

 それは天災が起こる少し前だ。

 そして俺がまだ研究室に捕られていた時だ。



「こんにちは! ノア君! 私はランジュ・クレセントと言います。というか本当にやかんなんだねー。」

「気安く俺に話しかけるな。結局俺のことは道具としか思ってないんだろ。」

「道具って、やかんだからね……。」



 あー。思い出したくないものだ。



「おい、そこのまな板。」

「こ、これから成長しーまーす! な、何!?」

「お前達の目的は何だ。」

「あー、それねー。ほらさー、今は砂漠化が問題視されているんですよ~。それであなたの力が借りたいなって。」

「人間とは身勝手なものだな。」

「それはどうも。」



 忌まわしい。今となっては苦痛でしかない。



「それでそれで~、旦那と上手くいかなくなったんだよね。はぁー、娘のミンジュが可哀想だよ~。」

「お前の落ち度だな。」

「だよね~。どうしてあの子を幸せに出来ないのかな。」



 やがて互いに打ち解けるようになった。彼女には世界の平和を想う純粋な心と真摯に研究に取り組む情熱があった。俺は彼女といた時間を悪くないと感じていた。

 あの日までは。



「数値が限界に達しています! 制御出来ません!」

 激しい濁流が押し寄せ、瓦礫が頭上から落ちてくる。

「これ……は、あ、なたのせい……じゃない。」

「いや! 俺だ。俺のせいだ。方法はいくらでもあった!」

「ふふ……。そう、かな……。」

「……。」

「ねぇ、お願いがあるの。」

「?」

「いずれ此処にも捜索隊が来る。私の遺品を探しにね。あなたにはその中に交じってほしい。」

 彼女は激しく咳き込んだ。頭は損傷して流血してしまっている。もう長くはなかった。

「でないと研究員があなたを回収してしまう。もうこの……悲劇を……繰り返してはいけない。」

「あぁ。約束しよう。」

 彼女は力強く、そして優しく笑った。今でもその顔を忘れない。



 その後俺はを心の中に誓った。そのためにもオアシスに行かなければならない。

 しかし、その勇気というものが俺の中に決まりきっていなかった。


 その決断をミズに託したいのだ。ミズに隠しているが、今向かっているのはオアシスではない。しかし、かけがえのない場所である。

 そこで彼女に決断を問いたい。


 彼女が決断した時、俺はどうなるのだろうか?一つ、俺に望みがあるとすれば、裁かれたい。

 世界の崩壊の元凶として。



 やかんは再び星空に意識を移した。











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やかん少女の旅路 大上 狼酔 @usagizuki

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