第50話 ケイコは俺の妹だ!!


花吹き祭りも大盛況で終わった翌日、町民たちは真っ青な顔でおどおどしている者が多かった。

まあ酔った勢いとはいえ貴族それも位が一番上の公爵様や国の代表者たちである王族の皆さんに酌をさせたり肩並べて飲んだとか、酒が抜けた後で知ったら怖いよね……。

当の本人たちは朝から昨日は楽しかった、久しぶりに何も考えずに美味い酒が飲めた、などとニコニコ顔だから大丈夫だと思うけど。

そして数日後公爵様や王族の皆さんが帰路につく際に町民全員が街道沿いに並んで膝まづいて見送ったのには公爵様たちもびっくりしたようだった。


祭りの余韻も抜け、町も平常運転になったころ。


「準備も終わってるし、そろそろ私たちも行くね」


夕食後の団欒の時ケイコとパルミール女神はそう言って出発に日時を告げてきた。


ケイコのために家で出来る事、と探した結果、実際何もなかった……。

なので貴族向けの4人乗り箱馬車と荷物用の小型の幌馬車を工房に発注し御者を2人付け、一応子爵なのでそこそこ使えるだろうとアブド家の紋章が描かれたお守りを渡した。

マッツォ商会からはテントや寝袋といった野営道具に日用品や当日は食糧などを提供する、そして旅先で何かあれば使ってくださいと紹介状とマッツォ商会の紋章の描かれたペンダントを渡していた。

ベックやアリサは館で二人を専属で世話をしていた侍女二人を付けた。


そして出発当日朝


「本当にお世話になりました、と言ってもしばらくしたら戻ってくるんだけどね」


とケイコは照れ臭そうに笑いながら言っていた。

パルミール女神様もおなじように旅に飽きたら帰ってくると笑っていた。


「アブドールの町を故郷だと思っていつでも帰ってきてください、みんな待ってますから、お元気で」

「はい、ありがと、皆さんもお元気で」


俺たちと挨拶を済ませたケイコは集まってくれた領民とも挨拶を交わしていき、気づけばそろそろお昼という時間になってしまい、さすがに次の街まで行くのが大変だという事で切り止めて馬車に押し込んだ。


「では皆さん行ってきます」


そう言うとゆっくりと馬車が進みだした。


「またね」

「元気でね」

「必ず戻ってくるんだよ」


集まった人たちが口々に言葉をかけては窓からケイコが手を振っていく、それが町から出て見えなくなるまで続いた。



「行っちゃったな・・・・・・」

「あれ~?リゲル様寂しいんですか~?」


ぼそっと小声で口にした言葉を隣にいたアリサがにやけた笑顔でからかい気味に聞いてきた。


「そりゃ数年一緒に暮らしてたんだ、もう家族だろ。ケイコは俺の妹みたいなもんだ、寂しくないわけないだろ」

「ほほぅ」


俺の言葉を聞いたアリサは口に手を当てニヤニヤと笑いながら侍女見習いたちと何やら話しながら館のほうに歩いて行った、俺もベックや文官見習いを連れて館に戻るのだった。




数年後、俺はウーデル公爵の三女と婚姻していた、ケイコが旅立ってすぐにウーデル公爵がトップでヘントン王子支持の派閥に入った、その時に他の領主にアブド領の事、例えば農地の肥やし方等、伝えられる物の一部を教えた。

その結果教えた領地は翌年から豊作続きだった、その結果を踏まえもっとウーデル公爵に気に入られ三女との婚約の話になり、とんとん拍子で俺を置き去りに進んだ結果、なぜか爵位も上がり伯爵となり婚姻まで行ってしまった。いや彼女はかわいいし擦れてなくていい子だし俺にはもったいないくらいの令嬢ですよ、でも俺を置き去りに気づいたら婚姻って……。

婚約の報告で王宮に行ったら王妃様の「公爵家令嬢を迎えるなら伯爵じゃないと釣り合わないのでは?」の一言がきっかけで、先にあげた他領に貢献したという事で陞爵した。うん、爵位あがるのはうれしいけど、こうもすんなり上がると周りが怖い。


そんな俺の話はおいといて、ケイコの事だが、王女様たち王宮の方やマッツォ商会を伝手に情報が入って来たり、時折手紙が届いたりで、大体どこにいるか元気なのかどんなことをしているのか、というのが耳に入る。

そして先日届いた手紙には、もう間もなく帰れるかもしれないと書いてあったのだ。

その手紙を読んで嬉しくてついその日は仕事中も会議中も頬が緩んでしまった、そしてベックを筆頭とした文官たちとアリサを筆頭とした侍女たちからずっと微笑ましい顔で見られていたのだった。

その事で妻に勘違いから嫉妬されて機嫌直してもらうのに数日かかったのは内緒である。



手紙が届いてから半年後、待ちに待った先触れが来た、隣領のリントン王子からだった、ケイコはリントン領都を出たといい、早くても明日には着くだろうと伝えてきた。


「ご苦労だった、大変だっただろうゆっくり休んでから領都に帰るといい」


先触れで来たリントン領騎士団の者にそう言うと侍女に客間まで案内させた。


翌日の昼過ぎ、数名の若い者が血相を変えて領主館に飛び込んできた。


「リゲル様、来ましたよ」


それだけ聞くと俺はアリサとベック、それにジョイとルーイに声をかけ館を出る、そして騎士団詰め所に居たアルスとケビンにも声をかけ東門まで急いだ。


俺たちが付いた時にはもう馬車は着いており、懐かしそうに町民と話していた、そして俺に気づくとこちらに体ごと向けて。


「リゲル様、ただいま」


とお辞儀をして来た。


「おかえり」


俺が答えるとアリサやベック、ジョイにルーイ、アルスにケビン、他にもケイコの事を知っている者が順番に『おかえり』と声をかけていった。

それを見てしばらくは挨拶が止まらないだろうなと少し離れたところでケイコとパルミール女神を眺めていた。


「おかえり、俺のかわいい妹ケイコ」





              完




―――――――――――――――――――――――――――――――――――

という訳で『領主になったけど辺境で貧乏で手に負えません』最終話です。

最後は駆け足になってしまいましたが何とか終われました。

途中間隔が開いたりぐだったりもしましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。

そして毎話ハートをくれた方、星くださった方、本当にありがとうございます、励みになりました。

それでは次回作……があればそちらでお会いしましょう、それではまたねฅ(^ω^ฅ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

領主になったけど辺境で貧乏で手に負えません 菊花 @kikkachan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画