第4話 ふつうに、ふつうに・・・

同棲騒動から二年後に

舞輪まりん典人のりとは結婚をした

前年には息子の満樹みつきも結婚したのだが

その相手はどことなく性格が鈴音りおに似た

大人しいが芯の強いの女性である

そらは親子とは気付かないうちに似てくる

摩訶不思議を知った


子供達が巣立ち

都良瀬つらせ家は

新婚当時の夫婦二人の生活に戻った

リビングには

満樹と舞輪の結婚式の写真が並んでいるのだが


「鈴音さん、この写真は片付けようよ」

「あら嫌よ、

 私この写真が大好きなんだものっ」


❝この写真❞とは

舞輪の結婚式で

顔をグシャグシャにして号泣する宙を真ん中に

なぜか一緒に泣く那央伊なおい

口を開き大笑いする慧洋あきひろ

がっしりと肩を組む写真である。


―――――――――


都良瀬つらせ そらは68歳になった

息子の満樹みつきと娘の舞輪まりんは親になり

宙と鈴音りおは祖父祖母になった


24回目の転生で初めて孫をもった蝉丸は

なんと孫なる者は可愛いのだ!

と感無量である

そして命を繋ぐ大切さと有難さを嚙みしめ

己の幸せを全身に感じながら

いまは病室のベッドに横たわる・・・


病気が見つかったときは既に手遅れで

末期の肝臓癌で骨にまで転移しており

余命間もない状態だった・・・


鈴音は病室に泊まり込み

片時も宙のそばを離れない


残り少ない時を二人は笑って過ごしている

そら鈴音りおに心配をおかけないように

鈴音は宙を不安にさせないように

互いが互いを思いやる・・・


❝コンコンコン❞と病室のドアを叩く音がした

と思ったら勢いよくドアが開き


「おお~まだ生きてたか」

慧洋あきひろが入ってきた

「もぅ~その言い方!」

と言いながら那央伊なおいも続いて入ってきた


慧洋は病室の中を歩き回り

「広いなぁ、

 応接セットが置いてあるしバストイレ付き

 冷蔵庫もあるしベッドはダブルサイズか

 豪華な部屋だなぁVIPルームかよ⁈」


「そうなのよ

 政治家や芸能人が使う特別室なの

 那央伊くんのお陰で入れたのよ

 ありがとうね那央伊くん」


「お礼はよしてよ鈴音さん

 宙は大切な仲間なんだから

 これぐらいは当然さ」

「おっ、さすが外務大臣様

 権力を使ったなぁ」

「慧洋、それを言うな」


「二人が来てくれたから私は

 散歩でもしてこようかしら」

「そうだよ鈴音さん、

 こいつらが居ると五月蠅うるさいから

 出ておいでよ。外の空気を吸ってきて」

「そうするはねっ宙さん」


鈴音は病室を後にした


―――――――――


病室を出ると娘の舞輪まりんと出くわした

「あらぁ舞輪、今ね

 那央伊なおいくんと慧洋あきひろくんが

 お見舞いに来てるのよっ

 三人だけにしてあげましょ」

「うん、じゃぁ屋上で空で眺めますかぁ」


鈴音と舞輪は屋上庭園のベンチに座った


「本当にパパと牛屋うしや林辺はやしべ

 おじさん達三人は仲がいいよねぇ」

那央伊なおいくんと慧洋あきひろくんはねぇ

 パパとママの愛のキューピットなのよぉ」

「ええ!知らなかった」


「学生時代にね

 パパがママに一目惚れしてねぇ

 那央伊くんと慧洋くんが

 ママがテニスサークルだと調べて

 三人で入部してきたのよ」

「うわぁ~ストーカーじゃない」


「でも二人のお陰で

 満樹と舞輪が生まれたのよぉ

 初めて宙さんと目が合った時にね

 あぁ私は生まれる前から

 この人を知っているって」

「ビビッてきたのね」


「そうビビッてきちゃったの」

「初めて聞いた~」


「フッフッ。

 《僕には何の取り柄もないけど約束する

 鈴音さんを守る、

 一生涯、命を懸けて守ります》って」

「へ~それがパパのプロポーズなんだぁ」


「守るって言ったのに約束したのに・・・

 そらさんが私の前から消えるなんて・・・

 もう会えなくなるなんて・・・

 なんで⁈なんでなの!」


「パパがね

 《死ぬのは怖くない

 怖いのは鈴音さんが一人になって

 寂しくて泣く事なんだ、

 だからママの事を頼んだよ》

 って私と満樹兄さんに言ったのよ」

「宙さん・・・」


鈴音りおはボロボロと涙をこぼしむせび泣く

舞輪も母の背中を撫でながら

大粒の涙をこぼした


―――――――――


「お前ほんとに死ぬのかよ?元気じゃないか」

「とても余命幾よめいいくばくとは思えないよね」

「呪術でね痛みを抑えているからね」


「なあ呪術で治せないのか?」

「そうだよ蝉丸ならできるでしょ」

「無理だよ、

 これが都良瀬つらせ 宙の寿命さっ

 ねぇ・・・

 二人は今幸せ?今の人生楽しい?」


「ああ幸せだよ」

「おおいに人生を謳歌おうかしてるぞ」

「良かった、

 二人を転生に二回も

 巻き込んでしまったから

 それが気掛かりだったんだ、安心したよ」


「おい俺は三回巻き込まれたぞ」

「そうだよねぇイクス星と地球で二回で

 計三回だよね」

「違うイクス星への転生で

 巻き込まれたのは私の方だ」


「えっ⁈」

「どういう事⁈」

「ウーシアが

 ルクトをイクス星に転生させたんだけど

 その時に体が触れていたから

 私まで連れていかれたんだ」


「ウーシアが何で俺を転生させたんだよ⁈」

「アーザスを倒して

 タスジャーク国を守るためだよ

 タスジャーク国を守るのが

 ウーシアとミツザネ王の契約だから」

「何でルクトなの?

 何でフォーラが知ってるの?」


「王宮の宝物庫で

 始祖ミツザネ王が残した巻物を見たんだ

 始祖ミツザネ王は

 ウーシアに地球からイクス星に連れて行かて

 タスジャーク国を建国して・・・」

「ちょっ、ちょっと待って」

「話が理解できん」


「だからぁ、

 ミツザネ王は鎌倉時代に

 近所に住んでた人でね

 林倍 太郎左たろうざ 満実みつざねさんなの!」

「始祖王が地球人⁈」

「林部って俺の前々々世の名前だぞ」


「そうなんだよ!

 ルクトは満実みつざねさんの地球の子孫で

 ラテルはイクス星での子孫

 ようするに二人は遠い遠い遠~い親戚なんだ」


『はあぁ⁉』


「びっくりした?」


『なんで早く教えないんだよ!』


「ごめん、

 あの頃は色々忙しかったから忘れてた

 あ~あ死ぬ前に伝えられてよかったぁ~」


『良かったじゃ無い!』


「プップップップ、今さら聞いてもねぇ」

「ガッハッハッハッ、大昔の話だよなぁ」

那央伊なおい慧洋あきひろ

いや、ラテルがとルクトが

楽しそうに笑い出した


「ねえ、私は土階つちしな様に言われた通り

 普通に生きられたのかなぁ?

 普通に生きるの意味が分からないんだ」

「蝉丸は普通に生きたよっ」

「そうだ、普通に生きるとは

 ただ只管ひたすら懸命に生きることだ

 お前はそらの人生を

 懸命に生きてきたじゃないか」


「そっか・・・良かった、良かった・・・

 私の転生は失敗から始まったけど

 失敗の転生のお陰で

 ラテルとルクトに逢えた

 そして今がある・・・

 失敗も悪くないなぁ

 二人のお陰で最高な転生だったよ」


「僕も二人に出会えて

 最高に楽しい転生人生だった

 蝉丸の失敗の転生に感謝だよ!」

「背中を剣でズタズタに刻まれたり

 トラックにねらりたり

 最高だったぞ、ガッハッハッハッ!」


「プップップップ!」

「アッハッハッハ!」


「二人に会えるのはこれで最後だ

 ・・・もうすぐく」

「そうかぁ・・・」

「最後かっ・・・」


「永い転生人生だったけど、ここが終点だ」


宙はそう言って窓の外を見る


「いい天気だなぁ、空が青い

 あの日の空と同じ色だ・・・」

「そうだねっ同じだね」

「ああ懐かしい空の色だな」


あの日の空とは

イクス星で幼い時に

カイッソウガの丘の上で

三人で寝転んで見た空のこと・・・

いつの空などと

詳しく言わなくても分かり合う三つ子達


初めての出会いから100年以上経っても

三つ子のラテル・ルクト・フォーラ

としての関係は

友であり戦友であり仲間であり

姉弟であり家族であり

そして言葉に表せない、

誰にも理解できない強い関係

互いが互いに無くてはならない大切な命・・・


宙が静かに上げた拳に

無言で拳を合わせる那央伊なおい慧洋あきひろ

別れの言葉は要らない


深い宇宙の静寂が三人を包み込む


―――――――――


それから数日後

都良瀬つらせ そらは家族に看取られ他界した 

享年68歳

永眠したその顔は

まるで母の腕に包み込まれ

安心して眠る赤ん坊のように

穏やかで、優しい顔だった


平安時代から

大きな勘違いで始まった

千年以上に渡る

15歳の陰陽師 兎良つら蝉丸の

失敗の転生旅は終わった


彼の転生は本当に失敗だったのか・・・

彼の転生旅は無意味だったのか・・・


―――――――――


安倍晴明により

百鬼夜行は滅せられたが

いく人もの怪我人がでて

陰陽師らが手当をした


その中に赤子あかごを抱えた若い母親が一人

怪我の深さからして

助かる見込みは無い


若い母親は手当をする陰陽師の袖を掴み

「私は、もう駄目です」


陰陽師は返す言葉がない


若い母親は息も絶え絶えに

「陰陽師様、どうか、この子を頼みます、

 どうか、この子を」

と言いながら赤子を差し出した


赤子はすやすやと眠っている

陰陽師は赤子を受け取り

「承知した。

 この子は、この土階つちしなが親代わりになり

 育てると約束しよう」

「有難うございます、有難うございます」


若い母親は赤子の手を優しく握り

最後の力を振り絞り話し聞かせた


「土階様の、優しさに、助けられた命、

 あなたも、優しい、人に、

 他人ひとを、助けるひとに、なりなさい、

 ・・・・・・。

 何も、特別で、なくていい、普通に、

 普通に、

 幸せに、生きて・・・・・・。

 母は、ずっと、ずっと、

 ずっと、

 見守っているから・・・・・・。

 私の愛おしい息子、

 蝉丸、せみ、ま、る・・・」



   ~『転生失敗の元は失敗の転生が元』完~

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転生失敗の元は失敗の転生が元 桶星 榮美OKEHOSIーEMI @emisama224

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