第4話

 一瞬で鳥肌がたった。


 …私のことが許せない?


 スマホの電源を落とし、横になりながらあの時の記憶を辿る。目を閉じてもあの時の自分が鮮明に映し出された。


 あの頃は職場での自分の存在意義に悩んでいた。仕事がうまくいかず、それに対し怒ってくる人はいなかったが、上司や同僚から慰めの言葉をかけてもらう度に、自分で自分を責め、泣いてしまうのを繰り返していた。


 Nの現場に鉢合わせたのは偶然で、Nの写真を撮ったのは咄嗟の判断だったが、芸能界を動かしている有名人の写真を会社に持ってきたら、上司から沢山褒められるのではないかと親に構ってほしい子供みたいに期待していたのかもしれない。


 結局、自分の会社ではなく、SNSの海に投げ捨てた。いわゆる捨てアカというものであの画像を載せ、Nの名前をタグ付けをして投稿した。投稿して1時間程経ったらアカウントを消すつもりだったが、投稿して1分経たずに通知が止まらなくなったのが怖くなり、10分ほどでアカウントを消した。投稿が消えても、多くのネット民は画像を保存し新たに投稿するのを繰り返した結果、媒体を超えて日本に広がっていった。


 N本人は、この画像について何も言わなかった。Nが所属している事務所は「プライベートは本人に任せており、こちらから言えることは何もありません。」と淡々と説明していた。流石にこの説明だけでは納得できない記者達は毎日事務所の前に構えており、スタッフや他の所属タレントが事務所を出入りする度にカメラやマイクを向けていた。その様子を朝の番組で特集され、見ててなんとも言えない気持ちになった。



 目を開けたら外は暗くなっていた。外の雨が少しずつ強くなり、窓から見える向かいの家の洗濯物が揺れていた。そういえば今日から明日にかけて台風が近づいていくと聞いた。


 Nに聞きたいことは、事務所前で待機している記者より沢山ある。

 あの投稿についてどう思っているのだろうか。SNSを超えて世間が騒いだことによりテレビに出られなくなったこと。今までファンだったのに投稿を見てからアンチに変わった人のこと。


 写真を撮ってSNSに載せた私が、昔からNのファンであること。


 

 




 

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