最終話 本物の運っていうやつは奇跡に等しい
完全にしくじった。いや、完全に間違えた。
今回のレッジェーリの一件は自分の持ち前の運を使わず、自分の力だけでどうにかしてみようと考えたのが間違えていた。
そのせいで、よくわからない男に牢屋の中に入れられる始末だ。
「牢屋の中に入るのが計画のうちなら、この次はどうするんだ」
レッジェーリは、俺が調子に乗ってすべて見通していたかのようなことを言ったのを真に受けてしまっている。
どうすればいいかなんてわからない。
運を使えばこんなところすぐ出て……いや、運を使ったところで出れるか怪しい。
俺の運は対象者がいなければ意味をなさない。
レッジェーリを利用するか?
「おいなんとか言えよ。……やっぱり、お前の運はハッタリだったのか?」
いや運を使うのにはまだ少し早い。
もう色んなことが起きて散々な目にあっている男には申し訳ないが、この場は俺の本当の技量を試すいい練習になりそうだ。
「まぁ待て。こんな牢屋から脱出するなど、俺にとっちゃ造作もないことだ」
「じゃあ早く脱出したほうがいいだろ」
技量を試すのもそうだが、もう一人俺の理解者をつくるというのも良いのかもしれない。
「なぁレッジェーリ。あんたは俺がペテン師だという決定的な証拠を突き止めて、国王に裁かせようとしているがそれは意味ないことぞ」
「そんなこと知っている。なんたって本人の口から聞いたからな……」
国王がこの男に事実をはっきり命言したんだ……。
ちょっと意外。
「それで、あんたは俺が裁かれないとわかった上でどうするんだ?」
「証拠を突き止めるに決まっているだろう。たとえ裁かれなくとも、私は一度決めたことを曲げたりするような男ではないではない」
「そうか。そういうと思ってた」
国王のような理解者とはまた別の形になりそうだが、彼が理解者になってくれたらこの先トラブっても百人力だ。
「さっきから質問ばかり、いい加減にしてくれ。お前がこの牢屋から出ようとしないのなら、もう私がなんとかする」
「あぁ〜いいよいいよ。どれ、一発やりますか」
イーズは手首と足首を回し、腰を落とし……。
「はっ!」
握りこぶしをつくった右腕を、光が差し込む壁に突きつけた。
特に壁に変化は現れない。
イーズは謎の笑みを浮かべながら壁を見つめ、レッジェーリはそんな様子を一歩引いたところで見ていて、数秒気まずい空気が流れた。
「まさか、壁を殴って穴を開けてそこから逃げようだなんて馬鹿なこと考えてないよな?」
「ふっ。俺を誰だと思ってる」
レッジェーリは思わずつばを飲み、イーズは冷や汗をかいた。
「いや本当に壁を殴って脱出しようと思ってたのかよ!」
頭の上からレッジェーリの呆れた怒声が降り掛かってきた。
こんなことになったのは俺が壁を殴ったあと意味ありげなことを言ったものの、何も起きなかったからだ。自業自得だけど、結局俺に期待していたあいつも悪い。
「なにが俺を誰だと思ってる、だ。なんで私はこんな馬鹿な男の言葉を信じていたんだ。こいつはただのペテン師だというのに……」
「まぁこういうこともあるからそう気を落とすな!」
「黙れペテン師。壁を殴って脱出しようとする馬鹿な男に励まされるいわれはない」
「はいはい。ペテンで悪かったね」
「……今自分で認めなかったか?」
あ。
「おい、なんで黙る。やっぱりお前……」
だめだ。このままじゃバレる。
――いや待てよ。
明確なことを言わなければ、決定的な証拠になんてならないんじゃないのか?
「俺に取っちゃな、本物の運ってやつは奇跡みたいなんだよ。だって、本物の運だぞ?」
「偽物とどう違う」
こいつ、察しが良いな。
「そうだな……。偽物の運っていうのは、たとえ運が良いことが起きたとしてもその物事にたいしてなんとも思えないということかな」
「それはなんというか……生きた心地がしないな」
「そうかもしれない」
レッジェーリの言葉に反論できなかったということは、俺自身もそう思っているんだろう。どこか不思議な気持ちだ。
お互い何も喋らなくなり、先ほどまで声が絶えなかったにぎやかな牢屋の中に沈黙が訪れる。
イーズのことを言及していたレッジェーリも今回ばかりは何も喋らなかった。
「やっぱり君たち二人が牢屋の中に閉じ込められると静かになるものなんだな」
「あなたは……」
声で誰なのかすぐわかった。あいつもわかったはずだ。
なのに俺とレッジェーリはかぶりつくように檻の外にいる人物に視線を向けた。
「ちょっと。助けに来てあげたというのにその顔つきはなんなんだい? 国王に向かって失礼だと思うのだけど」
いつもと変わらないというのが一番落ち着く。
俺の中で一番と言える場所は人っ子一人来ず、どうやって収入がはいっているのかわからない喫茶店だ。
最近では猫もこの場所に気に入ったのか、よく俺に喫茶店に行きたいと懇願してくる。
「あ、これ宝くじ当たってるんだけど」
「え! ま、まさか一等!?」
「いや9等だけど」
「なぁ〜んだ……ならそんな反応しないでくださいよ。私、勘違いして心臓が飛び上がっちゃったんですから!」
「そ、そう。ごめんね」
「わかればいいんです」
「エ、イ、リ、ア。まだコーヒー豆の研ぎ方を教えている最中なのに、なんで立ち話なんてしているのかな?」
「ひっ! ごめんなさい店長!」
いつものように叱られているエイリアのことを微笑ましく見て、新聞に目を通す。
俺が新聞を買ったのはわざわざ宝くじの番号を確認するためじゃない。
『レッジェーリ。まさかの貴族へ舞い戻り!!』
この見出しに目を奪われたからだ。
「あいつ、上手くやったんだな」
俺は国王に牢屋から出してもらって以降、あいつとは一切喋っていない。
監視されているという気配もないので、もうどこか遠くに行ったのかと思っていたが、やはりこいつは男だったらしい。
「貴族に戻ってまで俺がペテン師だっていう証拠がほしいのかよ」
イーズのため息交じりの小言が、レッジェーリのことを待っていたと言うことを表していたのは、カウンターで豆を研いでいる二人は気づくこともなかった。
「今回緊急で会議を開いたのは他でもない。隣国が宣戦布告してきたことに対しての対策会議をするためだ」
国王の芯が通った声がピリついた会議室に響き渡る。
「俺は戦いなんてしたくなかったが宣戦布告されてしまった今、俺たちがするべきことは民を守ることにある。皆の者、なにか良い策はあるか?」
「王国中の人間が一斉に逃げるというのはどうでしょうか?」
「だめだ。あいつらの目的は王国の民を滅ぼすことだ。……俺たちが犠牲になり、それで全て丸く収まるのならいいのだがそれじゃあ逆に恨みを買って、我々のことを根絶やしにするまで怒り狂った国が止まることはないだろう」
新人貴族の提案はあっけなく却下された。
それを見た者たちは喋らなくなった。
どうにか対策を考える者。
自分の保身を心配する者。
決して声には出していなかったが自然と会議室にいる者たちは、心のなかで真っ二つの意見にわかれていた。
それを国王が感じ取らないわけがなく――
「おい、君はどう思う?」
国王が意見を求めたのは、会議中だというのに席に座ることなく、窓際で外を見渡している男だった。
この会議室の中に、今や王国中にまで話題となっているこの男を知らないものはいない。
全員が何を言うのか、と目が釘付けになる。
「ポーカーがしたい」
戦争のことを話していたというのに突拍子もないことを言い出し、会議室が困惑の空気に包まれている中、そこにはたしかに二人のほくそ笑む笑顔があった。
もちろんそこには男に涙を流しながら賛同する者の声も。
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その助言師、実は大嘘つき〜持ち前の運だけで成り立ってる仕事です〜 でずな @Dezuna
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