第2話 W.Cから始まる食品添加物生活

 コンビニの事務所、そこは異世界のような緊張感があった。

 まぁ、事務所というより倉庫のような有様だったが。


 あたりには所狭しと段ボールが並んでいる。品出し待ちの商品の数々が顔を覗かせている。


「おじさん、お名前は?」

「白木隼人……ですが」


「へぇ、どこ住み? てかLINEやってる?」

「やってねえよ。スラックかチームズなら、仕事で使う前に試しに作ったアカウントがあるけど……」


 俺は小さなテーブルを挟んで、少女と対峙している。

 ミルクティー色のボブカットにあっさりとした顔立ちの少女。ちなみに俺は彼女の名前すら知らない。


 全くの初対面だ。多分。


「よし、こうしよう。金で解決しよう。いくら欲しい?」

「うわ、汚い大人だ」

「綺麗な大人がいるかよ」

「それは確かに」


 少女の目的はなんだろうか、と俺は一考したが、すぐに打ち切った。

 この世にお金で解決しないことの方が少ない。

 汚い大人、そんな言葉も甘んじて受け入れよう。


 ただ、こちらとしては最大限の譲歩をしたつもりだったのだが……。


 そもそもの発端は、俺が彼女の便所飯を目撃してしまったことだったが。

 元はと言えば彼女が鍵をかけていないのがいけないのだ。


 あれ、俺悪くなくない?


「実はですね、白木さん」


 少女はニヤリとして口を開く。


「ここのコンビニ、トレイに続く通路に監視カメラが仕掛けてあるんですよぉ。見た人はどぉ思いますかね。トイレの通路から急いで駆け出す女の子と直前に扉を開けた男性、どちらが悪いと思いますかねぇ……?」


 あ、詰んだ。

 取引先からのメールが迷惑ボックスに入っていた時くらい詰んだ。それに気付いたのが翌日の昼休憩だった時くらい詰んだ。


「目的は、なんでしょうか……」


 それはですねぇ……と、少女は変に間伸びした声音で続ける。


「実はお願いがあるんですよぉ〜。これは白木さんにしか頼めないんです!」

「初対面だが?」

「いや、週3で会ってるじゃないですか」

「あんたのシフトが週3なのはわかったよ。俺は毎日ここへ通っているからな」


 成人独身男性の食事など、コンビニか牛丼屋の二択に収束する。

 だが一端に健康には気遣うので、おにぎりや弁当にプラスしてサラダを買ったりする。

 食品添加物マシマシの飯を買いながら、何を言ってんだという弁は受け付けない。


「それで、お願いとは? 悪いが俺にできることなんか限られてるぞ」

「へぇ、何ができるんですか?」

「エクセルとパワポは一通り。ちなみにマクロも少し使える」


 俺は胸を逸らし誇らしげに言った。

 もし会社員志望の学生がいたら、これだけは言っておきたい。

 下手なプログラミングよりエクセルを使えた方が社会で重宝する。


 閑話休題。


「ある男を、始末して欲しいんです」

「急なシリアス展開⁉︎ 何か? 俺はどこぞのヒットマンか?」

「いいえ、あなたは普通のおっさんです」

「お兄さんだ」

「そうでした」


 しかしこの少女、訳ありの様子で……。

 俺の悪い癖が出てしまった。


「話だけ、聞くぜ」


 少女は途端にニコニコとしだす。

 全く、調子のいい少女だなぁと俺は感心した。


「実は私、とある男の人にストーカーされているんです」

「そいつぁ警察の仕事だろ。普通のおっさんには荷が重い」


 俺はあまりの驚きを隠せず、思わずおっさん呼びを肯定してしまった。

 ストーカー被害……それは昨今社会問題となっているが、俺は生憎される方もする方も未経験の領域だ。

 もちろんストーカー犯を捕まえたこともない。


「実はですね、私がお手洗いにいたのには理由があるのです。いや、こう言うべきですかね……、あの時、私が事務所に居られなかったのは理由があるのです」


 どう言う意味だろうか……。

 事務所に居られなかった理由?


「そのストーカー犯と言うのが、私と交代で入った夜勤のおじさんなんです」


__助けて、お巡りさん☆(白木隼人@脅され中)

 


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W.Cから始まるラブコメがあって何が悪い⁉︎ 哺乳類の卵 @honyu_rui

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