W.Cから始まるラブコメがあって何が悪い⁉︎
哺乳類の卵
第1話 W.Cから始まる恋と罪
「What the FUCK!!!」
なぁ、理不尽だと思わないか?
上司との付き合いで無理やり三十万するゲーミングPCを買わされて、毎晩毎晩一時間のエイム合わせ(準備運動)からのランクマッチ生活を続けてはや半年。
最初は良かったさ。低ランク帯の奴らはみんな優しかった。
俺がミスっても笑ってくれるし、誰も責めたりしない。
もちろんギスギスすることもない。
戻りたい。あの夏に__
いや、あの夏があったからこそ……
楽しい夏があったからこそ、俺も上司もこんなゲームにのめり込んで、俗にいう高ランク帯で毎日VC外国人に暴言を吐かれているのかもしれない。
辟易する。
大体海をひとつ二つ跨いでまで、一緒にゲームをする意味なんてあるのか?
ゲームっていやあ友達とワイワイするもんだろ?
……なんて言うと、悟り世代やZ世代のクソガキに、
「おっさんとはやっぱり分かり合えない」
みたいな顔されて、ますます肩身が狭くなる二十九のおっさんです……。
会社では現場と上司の間に挟まれる中間管理職。
家では外国人と上司の間に挟まれる腕前もそこそこの一ゲームプレイヤー。
おっと? いよいよ元凶が見えてきた気もするが、さておき。
「すみません樫野さん、ぼく、そろそろ眠気が限界なので落ちますね」
上司に一言告げて、俺はゲームからログアウトした。
モニターからアバターが消え、特徴のない顔がブラックアウトしたモニターに映る。
あれ? 俺老けてきたかもな、なんて思いながら俺は、財布とタバコを持って靴を履いた。
夕食がまだなのだ。
しかしこの時間帯に空いている店といえば牛丼屋かコンビニくらいのもの。
「どうしたもんかなぁ」
この歳になると、親と顔を合わせれば結婚の話が度々出てくる。
同級生のSNSは子供の写真で溢れているし、テレビを見れば『イクメン特集』を見かけることも多い。
その気がないわけじゃないが、生憎と相手がいない。
世のアラサーなんて、大体こんなものじゃないか?
そんなことを考えていたら、徒歩五分の牛丼屋へ行くことすら億劫になる。
よしコンビニ(徒歩三十秒)に行こうと決め、階段から四つほど階を降りた。
エレベーター?
そんな大層なもの、家賃2万のボロマンションにあるわけがないだろ?
俺はコンビニの前の灰皿で一服することにした。
喫煙者に風当たりが強い昨今、灰皿を撤去するコンビニが多い中、俺の近所のコンビニはよくやってくれている。ありがとうファミリーマ●ト。
あとこれは余談なんだが、タバコを吸うと急に便意が訪れるのは俺だけか?
こんなこと恥ずかしくて誰にも相談できないが、何か病気じゃなけりゃあいいな、程度に気に留めているアラサーは多いはずだ。
「お、キタキタ」
俺は顔馴染みのような感覚で、その便意を迎え入れた。
まだ半分残っているが……俺は断腸の思いでそれを灰皿へ。
__アラサーたるもの便意に敏感であるべし。
これは俺の知り合いの言葉だ。
彼は電車で二度ほど●らしているらしいが、最近車に乗り換えたとのこと。
新車のタ●トだかなんだか。車に疎い俺には、名前だけ言われてもどんな車かわからない。
何はともあれ、俺は買い物する前にトイレを借りることにした。
女性専用トイレはあるのに男性専用トイレがないのはおかしいと思います!
……とは、コンビニオーナー会議か何かで、議題にならなかったのだろうか。
そんな性の不平等を感じつつ、俺は男女兼用トイレの扉を開けた。
すると、奴がいたのだ。
奴は股を開き、スカートの端を膝にかけてハンモックのようにして、その上におにぎりを並べて菓子パンを喰らっていた。
「フンガッ⁉︎」
奴は叫んで、スカートをたくし上げておにぎりを包み、菓子パンを咥えたまま俺を押し退けてどこかへ消えていった。
もちろん、下にはハーフパンツを履いていた。
「なんだったんだ……」
俺はひとまず中へ入りズボンを下ろした。
次に、心の底から安堵した。
良かった。本当によかった。うっかり下着や放尿を見てしまっていれば警察を呼ばれていたに違いない。
俺自身、確かに日常生活に刺激はあって然るべしと心情を抱えているが、脛に傷をつけるには早すぎる。
そんなことを考えていると、出るものも出ない。
俺は歯切れの悪さを感じつつ、カップ麺とサラダを抱えてレジへ向かった。
あぁ一つ、ファミリー●ートの悪いところを教えよう。
それはいまだに現金手渡しなところだ。
セブンイレ●ンでは機械が全てやってくれるから、現金の手渡し違い、レジへ行く際の精神的ハードルがだいぶ低い。
俺は千円札を出して商品を受け取り、お釣りをもらいそそくさと帰宅__このシミュレーションを5回はやってレジへ並ぶ。
ついに背の高いスーツの男性が会計を終え、俺の番がやってきた。
俺はシミュレーション通り、手際よく札を差し出し商品を受け取る。
あとは小銭を受け取って終了__の、はずだった。
突如俺の右手はガッツリホールドされ、すごい力で引っ張られて思わずカウンターに左手をついた。
なんだなんだと俺の心が騒ぎ始める。
次に、誰だこんなことをするのは……と顔を上げると。
そこには、奴がいた。
間違いない。トイレで見た奴だ。
奴の正体は……
ミルクティー色のボブカットにナチュラルメイク、どちらかというと塩顔であっさりな味付けの、少女だった。
「お客さん、事務所までご同行くださいぃ〜」
少女は百点の営業スマイルで、掴んだ俺の右手をミシミシと言わせながらそう告げた。
__助けて、お母さん☆(白木隼人29歳会社員)
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