第2話 電子の死神


 電撃が迸る。

 各所のATMから大量のお札を無理やり引き出すと袋に詰めて駆け出す。

 その速度、まさしく雷光。

 目にも留まらぬ速さで盗みを働いていく。

 そこに光源が降り注ぐ。


「来やがったか」

「よう、コソ泥。稼ぎはいいか?」

「上々!」

「だったら悔いは無いよなァ!」


 太陽が――現れない。


「――」

「お前の力は原子核衝突、ならばそれを阻害してやればいい」

「電子操作か!」


 電子が邪魔で原子核同士が衝突出来ないでいた。

 しかし、そこでも少年はニヒルに笑う。


「俺の力は正確には原子核衝突じゃない、原子核操作だ」

「……なにを」

「原子核にはもう一つ使い道があったよな?」

「ハッ!? 核分裂――」


 街が溶けだす、メルトダウン。

 太陽とは違う禍々しい光。

 電子操作で防壁を張る少年。

 しかし――


「お前も立場が違えば、此処の王だったろうに」

「うるせぇよ、ハリボテが」

「ああ、残念だよ」

 

 ニヒトは陽光を取り戻す。

 少年が電子操作を防壁に回したからだ。


「灼き尽くせ、俺のネクサス!」

「迸れ――我がネクサス!」


 力と力がぶつかり合う。

 しかしその力量差は、熱量差は一目瞭然だ。

 陽光に圧し潰されて、電撃の少年は消えた。


『反応消失、ご苦労様でした』

「……いや、待て」

『いかがなされました?』

「野郎、逃げやがった」


 電子の残留がそこにはあった。

 身体を電子変換して逃げ去ったのだ。

 咄嗟の判断力、いやそもそも力比べは目晦ましだったのだ。


『どうしますか? 反応を再精査しますか?』

「いやいい、しばらく奴は泳がせる」

『よろしいので?』

「あいつは生かしておいた方が面白い」


 その時だった。

 唐突にそいつはやって来た。

 横殴りの巨腕、ニヒトは思い切りぶち当たり、吹き飛ばされる。


高次元連結体組織変化型ネクサスミュータント……」

「GAAAAAAAAAAAAAAA!!」

『暴走状態にあるようですね』

「この街は厄介事にことかかないねぇ」


 ニヒトの陽光をもろともしない肉体。


『敵体からガンマ線を検出』

「厄介だな……浄化を行う、無駄だと思うけど避難勧告出しといて」

『了解しました』


 夕暮れ時に差し掛かった街が昼に逆戻りした。

 それはニヒトが呼び出した小さな太陽だった。


「これより第五地区の浄化を開始する」


 その焔は天から地に墜ちる。

 陽光が全てを溶かし、街を消し飛ばして行く。

 こうした浄化は頻繁に行われる。

 理想郷ユートピアではこれが常とされている。

 そう、此処は狂った太陽の楽園だった。

 王はただ審判を下すだけ。

 罪の天秤は己の感性のみ。

 暴政としか言えない都市で。

 人々は怯えて暮らしている。

 ネクサスの行く末など。

 此処しかないのだと諦めたまま。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

高次元連結体〈ネクサス〉 亜未田久志 @abky-6102

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ