第12話 ルイと初めて会った場所
自分一人で生徒たちを引っ張っていけるのか。そんな不安を抱えていた里山は、ネトハアイドルたちが提供する教材や意見を参考にしたり、実際に彼らと連絡を取って対談していたら、授業がスムーズに進んでしまって驚かされた。
とくに自称・美裏美兎の英語の歌が、生徒たちの鼻歌になるほど大ヒットして、大いに助かっていた。
(あのミューって子も、ウサギをよこせだなんて変な手紙を送ってきたあたり、本気でマロたちと決闘するつもりはなかったんだろう。むしろ、マロたちとコラボしたがっていたのはミューのほうだったのかもな。あの手紙こそが、ミューなりのコラボへの誘いだったとか。なんにせよ、彼らの商魂のたくましさに救われてるよ)
おかげで里山は休日にネットをいじる機会が多くなった。マロとルイ、それからミューのPとポニーとも、交流が続いている。
「ここがせんせーの子供の頃に住んでた家? 大きいね」
背中にコウモリを、両手に黒いロップイヤーを抱えて、里山は久しぶりに実家の夢を見た。山深く、いつも霧がかっている田舎の片隅。
「思い出したんだ、ルイと初めて会った日を」
「わあ!」
里山は縁側に腰掛けた。
「あれは俺が三歳くらいの頃だな。一匹の黒い仔兎を捕まえて、うちで飼うんだって、泣いて親を困らせたことがあるんだ。そのときの兎の耳が長く垂れてて、目は赤かった。兎は大泣きする俺に、夢で会おうなって約束して去っていった」
「ウサギがしゃべったの?」
「ああ。子供の頃の記憶だから、自分自身で腹話術でもしてたのかと思ったが、今思えば、あれがルイだったんだな」
腕の中のロップイヤーが、つーんとそっぽを向いている。否定も肯定もせず、無言で抱っこされている。
「俺の両親は転勤族でな、引っ越しが決まるたび、新しい場所で上手くやっていけるか不安になった。そんなとき、いつも変な兎の夢を見た。自分も兎になって、大都会の街並みを全速力で走ったりしたな」
「何それー。ルイの励まし方って、変だよね」
「どれもわけのわからない夢だったが、あちこち二人で散策した夜は、なんだかスッキリして、そのうち学校で友達もできたよ」
いつの間にか、里山は夢で兎を見なくなった。転校ばかりの青春だったが、どこでも仲の良い先生を見つけられるようになったから。一人っ子の里山には、気軽に何でも相談できる年上の存在は、ありがたかった。同級生同士じゃどうにも解決しそうにない、漠然とした不安を抱えた時など、特に。
「オレね、パルクールの全国大会に向けて練習してるんだ」
「お、いいじゃないか」
「うん! でね、練習中は頭にカメラをつけて、オレが見てる景色を撮ってー、みんなに配信する予定」
「楽しみにしてるよ。一回目の視聴は、必ず寝落ちするらしいがな」
大変なときでも、高望みすることを忘れず、いつも目線は上を見て、タワーだって登ってしまう。
現実しか見れなくなった大人まで、巻き込んで。一緒になって、進んでゆく。
(導くだけじゃなくて、一緒になって成長するのか……)
久しぶりに座った、あの頃の縁側は、ずいぶん低く感じた。
ナイトメア・オン・ステージ 先生を添えて 小花ソルト(一話四千字内を標準に執筆中) @kohana-sugar
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