カブトムシの恋
本居鶺鴒
カブトムシの恋
カブトムシは、その日も樹液の出る木に向かっていました。
森の中では有名な場所で、他のカブトムシやクワガタムシ、スズメバチに、オオムラサキなども集まってきます。
その場所に集まるカブトムシたちの中でも特別角の大きかった一匹のカブトムシは、そのことが誇りで、また、力強さもあり、他の誰よりも恐れられていました。
スズメバチの鋭い針も、カブトムシの固い外殻を貫くことはできません。
オオムラサキの可憐な色も、カブトムシは興味を持たず。
他のオスのカブトムシたちを蹴散らし、カブトムシのメスたちにも、興味を示しませんでした。
それが、その日はどうしたことでしょうか。
夜遅く、樹液の出る木にたどり着いたカブトムシが見たものは、これまでに見たことのない、可愛らしいメスのカブトムシでした。
やって来たカブトムシを見て、他の生き物たちがそそくさとその場を立ち去る中で、そのメスだけはいつまでも樹液を舐め続けています。
これが他のメスならば、あるいは他のオスのカブトムシならば、大いに腹を立てて、蹴散らし、いつものように樹液を独占していたでしょう。
しかし、その日はゆっくりとした動きでメスのカブトムシに近づいていきました。
どのような顔か見てみたい。どのような色合いか、はっきりと見てみたい。
近づくと、そのメスは自分と同じくらいの大きさをした、今までに見たことが無いほどの巨大なメスであることに気が付きました。
光沢をもった身体は美しく、堂々と輝いています。
「おい」
カブトムシは、そのメス以外の誰もがいなくなった樹液場で、強気に声を掛けました。
まさかオレを拒んだりはしないだろうと、強気な姿勢を見せて、気を引こうとしたのです。
しかし、メスのカブトムシは一度だけこちらを見て、何事もなかったかのように樹液をまた舐め始めました。
「おい、オレの声が聞こえないわけではなかろう」
どこか激しく、けれど、そこにいくらかの不安を隠せずに、カブトムシは言いました。メスから寄ってくることはあっても、これまでに無視されたことなど一度もなかったのです。
"Saya tidak tahu bahasa Jepang"
少しして、メスのカブトムシは何か言葉らしきものを返してきました。
まるで理解のできないその言葉に、さすがにカブトムシは腹を立てて、このメスをどこかへ弾き飛ばしてやろうと近づいてきます。
すると、三つの角を持った、いつの間にやらそこにいた見たことのないカブトムシが駆け寄ってきて、あっさりとカブトムシを投げ飛ばしました。
樹液の出る木から、落ち葉の積もった地面へと叩き落されたカブトムシは、しばらくは何が起きたか理解できないままでした。
しばらくして、手足をバタバタと動かして、起き上がろうとします。
気づけば東から日の光が差し込んできました。
カブトムシの恋 本居鶺鴒 @motoorisekirei
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