縁切りの作法
連喜
第1話 過ち
俺は出会い系サイトで10代の女の子と知り合った。
詳しい年齢は伏せておく。
はっきり言ってブスだったけど、若いということだけで欲が出てしまった。
3回ほどホテルに行ったけど、すぐに飽きてしまった。
ヤンキーじゃない地味な感じの普通の子で、あっちは初めてだった。
女は情が移りやすいから、気を付けないといけない。
俺も女の子とは誠実に付き合いたいと思うけど、その子は話がつまらないし、人物にも全然魅力を感じていない。俺にも好みはあるし、やってみたら、すごく相性が良くて・・・ということもなかった。だから、こればっかりはどうしようもない。
それなのに、女はしつこく電話をかけて来て、Lineで会いたいと言って来る。
俺は速攻、電話を着信拒否にして、Lineはブロックした。
普通はこれで終わるのだが、俺は大企業に勤めていて、それをポロっと喋ってしまっていた。出会い系で遊ぶ時は個人情報を明かしてはいけない。これ、絶対。特に、家に呼ぶとかはやめた方がいい。
彼女は俺の会社の人事に電話をかけて来た。
「そちらで働いている江田聡史さんっていう人と連絡を取りたいんですが」
「部署名はお分かりになりますでしょうか」
「わからないんですが、江田聡史さんの大事なものを預かっているので。命に係わることなんです」
「では、該当する人がいるかわかりませんが、分かった場合は伝えたいと思いますので、ご連絡先をうかがえませんか」
「080-****-***9。前沢かなみです」
俺は人事の人と顔見知りだった。40代のお局さん。きっと部内でうわさになっていることだろう。人事って言ったって大企業だから、一人でやってるわけじゃない。でも、俺は管理職で本社勤務だから、その人も俺のことを知っていた。数年前のバレンタインデーにチョコレートをもらったこともある。
「なんか、すごい若い感じの子で。どうやって知り合ったんですか?」と、お局が興味津々で言う。
「俺もわからない・・・けど、命に係わるっていうのが気になるから、かけてみるよ。ごめんね」
俺は昼休みに、ビルの外から電話をした。
「もしもし」
「あぁ!江田さん?」
全身から喜びがあふれている。かわいい子だったらこんなにうれしいことはないのだが。
「久しぶり。会社までかけて来ないでもらえる?」
「じゃあ、会ってもらえますか?会ってもらえますよね!」
「でも、忙しいんだよね。来月でもいい?」
「いや!そんなの無理!」
「ちょっと忙しくて・・・土日も仕事だし」
「私、警察行きましょうか?私、今、1*歳ですよ。東京都青少年の健全な育成に関する条例でつかまりますよ!」
「いやぁ・・・そんなつもりは」
「じゃあ、示談にしますか?」
「え?」
「示談金、100万で手を打ちますよ!」
「いやぁ・・・。じゃあ、弁護士に相談するから待って」
俺は弁護士の知り合いがいないから、ネットで調べたら弁護士報酬は55万円くらいだった。あんなブスと3回やっただけで、155万飛んでいくと考えると、ずいぶんバカだったなと思う。ソープランドに50回行けた。
俺はもったいなくて払う気がしなかった。それで電話をかけて「いっそのこと結婚しようか」と伝えた。彼女も喜んでいて、次の土曜日にデートすることにした。未成年との淫行で不起訴になるには、次のような要件がいるらしい。相手と年齢が近い、Hをするまでに時間をかけている、親に紹介している、普通のデートもしている、将来の2人の関係について話し合っている等だ。
一方で不起訴が難しいのが、年齢が10歳以上離れている、被疑者が結婚しているのに独身であると偽っている、出会い系アプリで知り合ってすぐにホテルへ行ったり、お互い本名を知らない、Hしかしていない等だ。
俺は結婚をちらつかせて、後から、やっぱり性格の不一致で別れるというのを選んだ。
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