第2話
狭い個室でレインボーに輝くミラーボール。たこ焼きやピザ、ジュースやコーヒーといった物が机に所狭しと並べられている。匂いが充満し、視覚も嗅覚も刺激されるこの部屋には、決して上手いとは言えない歌が響いていた。
歌っているのはクラスの中心人物の女子。
今日は、このあいだ開催された体育祭の打ち上げだと言ってクラスの半分以上が集まって、カラオケや飲食を楽しんでいた。
誰とでも話せるし、ノリで話せる俺は友達は多い方だがこういう場は嫌いなのだ。なにより女子達が怖いくらいに話しかけに来ては、歌ってとマイクをせがまれる。
別にそれが嫌では無いのだが、ただ、少しだけ迷惑なのでやめて欲しい。
そう思いながら、ジュースを飲んで部屋を見回していると1人ポツン、と座っている女子を発見した。体のラインにそったピタッとした白い半袖シャツに、薄いブルーのロングスカートを履いた派手すぎない格好と、なによりまったく楽しそうにしていない彼女。自分と同じ感情の人がいる、と興味が湧いた俺は席を立ち上がる。
「…ね、つまんない?」
「うん。つまんない」
彼女の隣に行って、急に話しかけると、思ったよりも彼女はドライな対応をした。もっとたどたどしく答えられるものだとばかり思っていたため、驚きを隠せなかった俺は言葉に詰まった。そんな俺を不思議に思ったのか、彼女はこちらを向いて笑った。
「ふふ、まさかそれを聞くためだけにここに来たの?」
「…そうだよー。俺、理久」
「私は愛理。よろしくね理久くん」
「理久でいいよ」
「じゃあ遠慮なく、よろしく理久」
ほかとは明らかに違う雰囲気の彼女の隣は、自分でも驚くほど落ち着いた。
彼女に触れていると、荒んだ心も潤っていく。
まるで精神安定剤の彼女に、惚れる以外の選択肢は無かった。
「…好きだわ〜……」
「え?ごめん……このたこ焼き、そんなに好きだった…?」
最後の1個のたこ焼きを口に入れたまま、愛理は困った顔をした。
愛理が、理久の良さに気づくのはもう少しあとの話。
一生分の『ありがとう』。 にの @Asanago
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