第6話 成年の儀

 成年の儀――

 この世界では15歳になるとある儀式が行われるのが通例となっている。それを通過すると大人の仲間入りをすることになる。ちなみにここでは皆数え年で年齢を数える。

 ここアルディシア王国では、15歳になった者は地方に住む者も皆王都アルディアナに集まる。今年は150人くらいだろうか。王都には立派な講堂があり、私たちはそこに集まっていた。

 最初に国王陛下が演壇に上がった。私もそうだが、ほとんどの者は初めて国王の姿を直接見る。衣装こそ派手だったが、思ってたよりも貧相な気がした。もっと恰幅のよい姿だと思っていたからだ。豪勢な食事をしているはずなのだが。豪勢すぎて糖尿病にでもなったか?


 国王の宣言により、私たちは成人となった。

 その後は3人ほど偉そうな人が壇上に立ち、成人として良識ある講堂を云々――とつまらない話を長々とするのは、日本の式典と変わらない。

 午前はこれで終わり、昼食の後にはいよいよメインイベントが始まる。


 つい先ほど大人になった約150人は、講堂前の広場に集まっていた。そう云えば、午前に誰かが、今日成年の儀を迎えたのは、142人だと云っていたな。

 魔法局の職員らしき人が現れ、その人の指示で我々は8つのグループに分かれた。勿論、魔法の8属性に分かれており、「炎」や「水」等と書かれた板が教官によって掲げられていた。

「じゃあ、また後でな」

 今日も相変わらずカイルと行動を伴にしていたが、ここで一旦分かれた。私は風魔法、カイルはメインを光魔法にしたようだ。

 

 風魔法を選んだ生徒は20人だった。8属性の魔法の中でも、「炎」「水」「風」3つは特に人が多い。発現する人が多いということだ。「風」の板を持った職員の前に、1列4人ずつ5列に並んだ。

「おれが風魔法の指導を担当する、ギース・ゼピュロシアだ」

 私たちの前に立っているのは、30前後の男性だった。顔の造作は普通だが、体躯が普通ではなかった。ローブの上からでもその筋骨隆々ぶりが分かる。身長も2mに近いのではないか。魔法よりも肉弾戦の方がどう見ても得意そうだ。

「ギース先生は魔法使いなんですか?」

 生徒の一人が手を挙げながら質問する。

「おうよ。“風のギース”たぁ、おれのことよ」

 生徒が顔を見合わせる。だれも聞いたことはないようだった。私だって知らん。

「風魔法を習得すると、みんなマッチョになるんですか?」

 お調子者がくだらない質問をするが、

「莫迦を云うな。この肉体からだは鍛錬の賜物だ。興味があるなら筋肉そっちのプログラムも組んでやるぞ」

 と反撃されていた。


「さて、君らは魔法学院で風魔法の基礎を学んできたはずだ。これからの魔法局による指導は、風魔法の発展とそれぞれの職業に合わせた使い方だ」

ギース教官は列の前を右に左に歩きながら話すが、その姿はまるで檻の中の熊のように迫力がある。

「学院では魔力を放出する仕方を学んだだろう。しかし、放出するだけでは、いずれ底を尽く。そこでこれからは魔力を取り込む方法から始める。これは職業に関係ないから、全員で行う」


 魔力とは云っても、その字面から想像されるような、禍々しいものではない。地球で云えば、気とかエーテルとかが近いだろうか。生物全てが持つ生命エネルギーみたいなものだ。

 内包している量は生物によって様々だが、植物が比較的多く蓄えている。彼らは光合成の際に魔力も創っている。そして空気中に放散しているので、この大気にも魔力は存在している。

 人もまた魔力を持つが、人それぞれによって持つ量が違う。だからいくら訓練をしても魔力が少ない者は魔法使いにはなれない。というか、魔法使いになれる人の方が少ない。どう頑張っても魔力量が増えずに泣く泣く魔法学院を去った人は、結構な数いるのが現状だ。


「とは云え、今日は職業を申請しなければならん」

 そう云うと、ギース教官は後方に声を掛けた

「おい、誰か書記官一人来てくれ」

 待機していたらしい書記官が一人駆けより、筆と羊皮紙を取り出した。

「よし、君から名前と希望の職業を云っていくんだ」

ギース教官は列の右端にいた男を指差した。そうして一人一人答えていく。風という特性上、物流系が多いようだ。他には気象官や大学に行って浮遊術の研究をしたいと云う者もいた。私は6番目に答えた。

「ケイロス・アーシア、希望は図書館司書です」

 その時、左後側から「え?」と云う小さい声が聞こえた。

 その声は誰だったのかは、最後に答えた声で分かった。

「シャーリー・ノイエシュタインです。希望は図書館司書です」

 風魔法科で唯一の女子だった。当然魔法学院で何度か見かけたことはあるが、話したことはない。確か伯爵家ご令嬢だったはずだ。

「よし、以上だな。先にも云ったとおり、今聞いたのは、あくまでも現時点での希望だ。もし途中で変更したくなったら私に云うように。2年後のことだから、その時にどこに配属されるかは今はわからない。君らの先輩たちの中には、早いうちから就職先に働きかけて、内定をもらう者もいた。今のうちにコネを作っておくのも一つのやり方だ。何か質問は?」

「もし希望の職種に就けなかったらどうなるんですか」

「魔法局がお薦めの一覧リストを出すから、その中から選ぶことになる」

「そのリストの中にも希望が見付からなかったら?」

「魔法局の仕事をしてもらうことになる。つまりは、魔法局に就職だ。ま、そうなった者のうち半数は大学に行っているな」

 どこの世界も就職は厳しそうだな。司書の希望者などそうそういないだろうから心配はしていなかったが、まさかもう一人いるとはな。私の場合はアーシア領内に図書館があるからいいが、彼女はどうなんだろうか。

 この日はこれで解散となった。



                             第6話 完



 

 

 

 

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