第4話 魔力検査/王立図書館
属性の判別は、まず3組に分かれ、3人のOBOGが一人ずつ各組に付いた。私とカイルは揃ってマゼンタの組だった。
一人ずつマゼンタの前に呼ばれると、まず水晶玉に手を置くように云われる。私たちが後ろからのぞき込んでも何の変化もなく見えるのだが、マゼンタはそれを見て、大まかな属性を読み取っているらしい。
私の番が来た。水晶玉はヒンヤリとしていた。
「あなたは風の要素が強いみたいね。ちょっと風を意識して発動させてみて」
各属性の初歩は一通り習っている。高度魔法と違って本来なら呪文の詠唱は必要ないのだが、精神を集中させ、魔力に指向性を持たせやすそうだと思ってそっと呟いた。
「ウインドシュート!」
前方のぶら下がった的に向かって風を送り込んだ。的を留めていた紐は千切れ、木製の的はかなり遠くまで吹き飛ばされていた。100m位は行っているかもしれない。これでも相当魔力を絞っていたのだが。
「おお~」
他の生徒たちからどよめきが上がったが、一番驚いたのは私だ。これまでにも何人か風属性と判断される生徒はいたが、彼らの魔法は的を揺らすだけだったからだ。
「これは、間違いなく風ね。他には――そうね、土はどうかしら」
マゼンタが水晶宮を見ながら云う。
私はしゃがんで右手を地面に当てると、10m位前の地面を見据えて呟いた。
「クレイスピア」
視線の先の地面が盛り上がり、その先が
さらに炎と水を試してみたが結果は芳しくなく終わった。
結果として、私はリズ先生の再試を受ける必要がないまま風属性ということになった。マゼンタでは判別できないくらい各属性に差がない者たちは、リズ先生が再試をすることになっていたのだ。
カイルは光と炎と氷の3つの属性に大きな反応があった。
「やったじゃん。光を狙ってたんだろ」
「でも、闇はダメだった。修練が必要だ」
「でも3つもできてたじゃん。それだけでもすげーよ」
「何云ってやがる。的を吹き飛ばされたのは前代未聞だとシアンさんも云ってたぞ」
授業の最後にリズ先生が云った。
「これからは、今日決まったメインの魔法を伸ばしつつ、他の属性の基礎を学ぶことになっていく。尚、すでに聞いていると思うが、この魔法学院内では、決められた場所以外では魔法が発動しないように結界が張られている。つまり自主練はできないからそのつもりでな」
こうして初めての魔法実践の授業は終わった。
これから成年の儀までの3年弱、魔力の制御やコントロールなど、魔法技術を磨くことになる。その間に、私は闇魔法の素質が見付かり、カイルに羨ましがられた。そういうカイルは、この後2年半で8大属性全ての基礎魔法を習得し、さらに光・炎・氷の3属性は魔法士レベルに到達していた。
私の魔法士レベルに至った魔法は風魔法だけだったが、それが普通なのだ。ヴァーキン家の先祖には大魔法使いがいたそうで、家族や親戚はカイルがその生まれ変わりなんじゃないかと半分本気で信じているらしい。カイルが辟易した様子で教えてくれた。
* *
第2学年の夏、レポートの資料が見付からなかった時に、図書館の存在を思い出した。ケイロスが巧の記憶を思い出す前にも行ったことはない。経験のあるカイルに付き合ってもらって、王宮の近くにある王立図書館に行くことにした。
この国に限らず、この世界の識字率は国によってもちろんバラツキはあるが、5~10%程度なので、基本どの図書館も貸し出しはしていない。本を読みたい時は図書館に出向くしかないのだ。
この王立図書館は警備もしっかりしているため、開架の書棚もあるが、閉架の書棚しかない図書館の方が普通だ。とは云え、比較的多く存在するこの国でさえこの王立の他には5館しかない。
まず受付に行ったら身分証の提示を求められたので、魔法学院の学生証を見せる。すると入館簿を渡されるので、名前や所属と大まかな住所を記入する。
次に開架か閉架かを問われたので、取りあえず開架と答えると、体重計に載せられた。入館時と退館時の体重を比較して、本を持ち出していないかチェックするのだそうだ。
開架の部屋に入るだけでもいちいち面倒くさい。いつでもスイッと入れた日本の図書館とは全然違う。
結局、開架書棚を一通り見て回ったが、目当ての本は無かった。先に有るか無いか分かれば、面倒な入館作業をしなくてもすむのに、と思う。
また体重計に乗って重さが変わっていないことを確認してもらい、受付に戻る。
「無かったから、閉架も見たい」
カイルがそう伝えると、
「では、まずこちらへ」
とまた入館簿が渡され、退館の欄にサインする。最後に受付の方――30歳前後の女性が時刻を書き込み、入館簿を閉じた。そして別の入館簿をカイルに渡す。
「え、また書くの?」
「そうなんだよ。開架と閉架は別物だと云ってね」
さらに身分証――学生証を預ける。
「それでは、18番と19番をご使用ください」
席も決まっているらしい。
閲覧席は2階だった。
階段を上ったところに男性の司書がおり、カイルがどういった本を読みたいかを告げた。
「少々お待ちください」
そう云って司書さんは去ってしまった。彼自身が本を探すらしい。
そのまま10分は待った。
「随分、かかるな」
「閉架はどの図書館もこんな感じだ。ここは王立だから他の図書館より優秀な司書が勤めているはずだ」
じゃあ、地方の図書館ではもっと時間がかかることもあるのか。
さらに5分ほど待ったところで、司書さんが台車を押して戻ってきた。大判の本が2冊と、小型の本が1冊。私たちがそれらの本を机に載せると、台車を押して司書さんは階段の上に戻っていった。
二人の席の間には衝立があったが、カイルがそれを奥に押し込んだので、隣同士で話せるようになった。
「悪いな、結局調べ物まで付き合ってもらって」
「かまわないさ。屋台でおごってくれるってのを忘れなければな」
しばらく参考になりそうな項目を見つけ、持参した羊皮紙に書き写していく作業を続けた。
それにしても羊皮紙を綴じた本は重いし、大きいからページをめくるのにも労力がいる。紙はまだ、どこも発明していないのだろうか。
1時間あまりで作業を終え、台車に本を載せると司書さんが立っているところまで運んでいった。司書氏が手元のメモと本のタイトルを照合確認しする。
「はい、よろしいです」
受付で閉架の入館簿にサインをして退館すると、カイルに訊いてみた。
「なあ、カイル。
「カミ?」
対応する言葉が無いから、そのまま日本語で云うことになってしまう。
「他の呼び方があるのかもしれない。草の繊維を使って作る、ペラペラの革みたいなもので、革よりも柔らかくて軽い。羊皮紙の代わりに文字を書き付けられるものだよ」
「知らないけど、そんなものがあったら便利そうだな。実際にあるのか?」
「いや、僕も実物を見たことはなくて、何かの本に書いてあったんだ」
そうか、やっぱり無いのか―。自分で作ってみるしかないのか?
「さて、どの屋台にするかな」
明らかにカイルのテンションが上がっている。今は寮の食堂で食事を取っているが、寮に入る前は毎日豪勢な食卓だったはずだ。いや、だからこそか。カイルは屋台で売っているいわゆるジャンクフードに今更ながらハマっていた。
「今月は物入りだったから、あまり高いのは勘弁してくれよ」
「みみっちいこと云うな」
第4話 完
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