東京タワー

@R18

第1話

余命宣告をきいたとき私の心は安堵した。


会計をすませて処方箋を受け取った私の体は、薬局へは向かわず、スマホに図示された青い線をなぞりはじめる。足取りは軽い。日本の夏の気だるい湿度と、曇りがかった空から時々覗く太陽の熱線も今は気にならない。今後一生気にならない。


地球を水平に移動していた私の位置情報は、赤羽橋駅を出て10分経ってから、垂直方向に移動し始める。駅のホームで買ったポカリを飲みながら頂上を目指す。


私の体は重力に支配されていて、私の意思とは関係なく地球に縛り付けられている。天国が空に存在するとは思ってないけど、非力な私でも自分の足で空まで歩いていける。心だけじゃなくて体を伴って。かんっかんっと鉄の音が鳴る。


まるまる1時間ほどかかって頂上に立つ。ここが東京で一番高い場所だったのはいつのころの話なんだろう。


バカでかいペンチをビニール袋から取り出して、金網を切る。平日のこの時間。私の他に客はない。初めて使う道具に戸惑ったけどゆっくり。ばつん。ばつん。どこかのカップルがつけた南京錠も腹いせにぱつん。


大きな穴が空いて視界を遮るものが無くなる。くぐって、梁にでる。


ちょっと上を見上げて、もう少し登れないか考える。無理だ。ここから人が登れるようには出来ていない。


最後の最後に立ち止まる。少し自分の心の声をきく。私はどうしたい?


走り出す。疲労は消える。したたる汗と心臓の音。生命の輝き。全身にみなぎる。


空に向かって走る。いや嘘ついたかも。この高さは空と言えるほど高くない。


最後の1メートル。歩幅を調整する。間違えて左足で踏み切る。これは少し後悔。利き足できれいに飛びたかった。でも止まらない。止まる気がない。


反抗期の子供みたいにほんの少しだけの無駄な抵抗をみせて私の体は落下し始める。うっ。じゅっ。じゅうりょくがひっぱ。重力がわたしをひっぱっ。かぜっ。かぜがからだをすりぬけてっ


いっちじかんもかけたのがばっかみたいなはやさでででででっわたしはかけおりていっくあっ


はっはやすぎっかもなにかをおもいだすよゆうがっなっいっうっちょっとこれはじょうちょってやつがっなっいやっばはやすぎかもあっあっあっやっぱりま







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