18話

 地獄のような苦しみの2日酔いで、宿で苦しみ藻掻く日中を過ごしたクズ。


 そんなクズは、日が沈む頃に復活し――。


「――ここが春風か。これまた、高級店の予感がする店構えだな!」


 再びアウグストや傭兵団幹部、勝を伴い祇園に来ていた。

 長門藩の舵取り役、木村小五郎に奢ってもらう為である。


 飲み過ぎだから今夜は止めた方がと言うアナやマタに「2日酔いの特効薬は酒」と、極めて頭の悪い主張をして祇園まで歩いてきた。


 内心には――女の子と仲を深めて大人の階段を昇る。


 同行している連中も、2日目となれば監視の目も緩むだろうと言う思惑もあった。


「クズ殿。来たか」


「おう、東郷! 2日酔いは無さそうだな?」


「オイは酒に強いですからな。とは言え、少し眠いが……。長門藩のお持てなしなど、黒霧藩に比べれば大した事ない。それを見届ける為なら、眠気に勝る元気も出ると言うものです」


「はぁ~……。まぁ色々あるわな。兎に角、喧嘩で酒を不味くすんなよ? そんな事をしたら、うちのサラマンダーくんもウンディーネちゃんも激おこだかんな?」


 ――おう。俺たちも宴を楽しみにしているからな。

 ――宴は主催だけで盛り上がるかが決まるものではない。参加者にも、盛り上げようと言う気概が必要じゃぞ?


「う、うむ。分かり申した!」


 流石に――具現化し会話出来る程の大精霊の前では、黒霧藩の重鎮だろうが形無しだ。


 戦闘力を絶無にして顕現する分には、クズと繋がる魔力回路のパスも痛まない。

 クズとしても、楽しみ盛り上げる仲間として大精霊と一緒に飲むのは大歓迎だった。

 精霊は宴好きで、盛り上げ役としても舞台演出としてもバッチリだ。


「――皆さん、到着しましたかね? どうぞ、上がってください」


 木村は店の戸をそっと開け――クズたちや東郷を招き入れた。


「なんだ、木村。もう到着してたんか?」


「ええ。……黒霧藩の東郷と一緒に店に入った。そんな光景を見られたら、立場が無いんでね。先に入って、店内に目が無いのを改めて確認していたんですよ」


(かぁ~全くよ……。昨日も飲んで、これから飲もうって仲なのに……。酒宴の席に外の世界の関係を持ち込むとか、無粋なヤツらだな)


 クズは若干、面倒に思いつつも――突っ込む事によって更に面倒に巻き込まれそうなので、黙っている事にした。


 そうして昨日と同じ面々が――再び酒宴に興じる。


 舞妓さん、芸子さんの見事な盛り上げもあるが……。

 なんだかんだと、また東郷と木村が勝負を始め――時にはペアを組み。


 今日は長門藩の銘酒に舌鼓を打ちつつ、クズは全力で楽しむ。

 それはもう、記憶を失う程に飲み続ける。


 2日連続、馬鹿騒ぎをしている様は――まさにクズ。


 飲み明かし、朝から夜まで2日酔いで苦しみ何もせず、夜は再び酒宴に耽る。

 模範的な――酒によるダメ男の姿だった。


「オイオイ! 長門藩の酒も美味いな!? 黒霧藩の酒も良かったが、こっちも良い!」


「分かりますかね!? 流石はクズさん、お目が高いですねぇ。黒霧藩とは酒造のレベルが違うんですよ!」


「な、何を言うか!? オイらの酒蔵かて負けぬ! お持てなしも、オイらの方が豪快で楽しかったじゃろう、クズさん!?」


「ん~! 甲乙付けがたい! 今の所、引分けぇえええ!」


「な、なんじゃと!?――な、ならば明日じゃ!」


「私も引けませんねぇ? それなら、明日は両藩の威信をかけ、どちらが最高の舞妓や芸子と酒を用意出来るか……。中立的な店で勝負しますか?」


「よかろう! クズ殿も、それで良いか!?」


「え!? 明日もただ酒とお姉ちゃんに会えるの!? お前ら、本当に最高だよ!」


『私も少し、いただくわね』


「お!? いける口だねぇ!? グイッと行っとけ!」


『ふふっ。美味しいし、楽しい空間ね。何千年生きても、こういう光景が一番だわ』


「分かるわ~。やっぱ酒に女、笑顔! この3点セットよな!」


「義兄様、誰と話してる?」


「おん? それは――……あれ? いねぇ」


「……クラウス。私は薄らだけど見えた。これ、精霊との親和性が無いと見えないって事は……」


「――まぁ難しい事は抜きだ! 明日も宴が決まったし、前夜祭を楽しむぞぉおおお!」


「あ、ぼくご飯お代わり! これ、ふぐだっけ? 凄く美味しいけど、量が足りないよね!」


「生の魚を食べるなんて、どうかしていると僕は思っていたけど……。均等な切り身の芸術的な盛り付け。繊細な舌触りに、醤油との相性。総合的も……素晴らしい美しさだね」


「お、分かります? 私どもの所の職人は、ふぐの毒を取るだけじゃなく、美しい刺身盛りにするんですよ。この繊細さ、どこぞの無骨者たちには真似が出来んでしょうねぇ。もし真似をしようとしたら、コロッとふぐの毒にやられるでしょうとも」


「おいらも長門藩のふぐは大好きだぜい? 黒霧藩の芋も甘くてフワッとしてて最高だがね?」


「ふむ。芋をそれ程に美味く調理出来るのか……。それはヘイムス王国に導入出来れば、兵の糧食としても士気向上に繋げられそうだな。東郷殿。その芋の調理法や育て方について教えてくれないか?」


「アウグスト殿、オイで良ければ喜んで。豊かな土壌を作り、育み、素材の味を活かす。この全てに時間と手間をかける余念のない取り組み。金でパパッと全てを解決しようとする者には、真似出来ん味の秘訣、お教えしましょう」


 こうして2日目の宴席も、日が昇るまで続いた――。

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追放されたクズ傭兵と自由無双〜自由とは他者から嫌われること。出世街道を踏み外そうと、アンチを踏み越え我が道を征く!〜 長久 @tatuwanagahisa

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