危険じゃない賭け

帆尊歩

第1話  危険じゃない賭け


友人の正隆は、俺のおごったファミレスのランチをうまそうに食べている。

俺は不機嫌にそっぽを向いている。

「危険じゃない賭けって言っていたけど、どうだったの。負けたってこと」正隆は楽しそうに言う。

正隆には勝ても、負けても、飯、おごれよと言われていた。

負けても、というところが意味わからないけど。

絶対危険じゃない賭け、と言ったからには仕方がない。

確かに危険じゃない賭けだった。

俺は実は、たまに空から落ちてくるように映像が浮かぶ。

あるときは事故だったり、火事だったり。

初めのうちは、まさかと思ったが、ことごとく現実となる。

それなら、なんとかそういう物を、食い止めようと奔走するが、そもそも信じてもらえない。

一度近所の火事の映像が浮かび、知らせに行ったことがある。

ところが誰も相手にせず、そして火事が起こる。

悔しい思いをしている時、警察がやってきた。

ようは予言どおりという事は、お前が放火をしたんじゃないか、ということだ。

出火原因が特定されたことで、俺の嫌疑は晴れたが、そいうことだ。

何かアクションを起こすと疑われる。

ではこの能力を使って金儲け。

それも出来ない。

断片的な映像なので、細かいことが特定出来ない。

だからこんな能力があっても何の役にもたたない。

ところが今回は違った。

駅向こうのスーパーの宝くじ売り場で一等が当たる映像を見た。

一等つまり3億円だ。

でも番号までは分からない。

いや、そもそも番号が分かってもその番号を買うのは無理だ。

そこで俺は考えた、では全て買ってしまうのはどうだ。

それで俺は宝くじ売り場に行ってみた。

「あのー」

「はい、宝くじの種類は、ロトですか」

「あっいや、つかぬ事をお聞きするんですが」

「はい」

「ジャンボ何枚売るんですか」

「ジャンボは、来週からです」

「いや、枚数」

「はー」宝くじ売り場のオバ、いやおねーさんは怪訝な顔で俺を見る。

「いや、億単位と思いますが」

「あーいえ、こちらのお店で」

「はい」

「こちらのお店で何枚」

「なんで?」

「良いから教えてくださいよ」

「いや、そういうことは」全部買い占めるなんて言えば、それはそれでまずいだろうから、何とか食い下がる。

「教えてくださいよ、美しいおねーさん」

美しいが効いたのか分からないが、根負けしたお姉さんは、何だかファイルを取り出して調べてくれた。

「一万枚ですね」一万枚と言うことは一枚三百円だから、三百万と言うことになる。

俺は全ての貯金と、クレジットのキャッシング枠、さらにサラ金にまで手を出して、何とか三百万用立てた。

何しろこれは、危険じゃない賭けなんだ。

そして次の週、発売と同時に、買い占めた。

当然一人に売ることは出来ないと言われた。

でもそんな事はいってはいられない。

本当はだめだろうが。

開店の一人に時間ということもあり、何とか、無理矢理、買い占めることに成功、俺は大きめのツーツケースに入れた宝くじ1万枚ともに売り場を後にした。

そして、発表日までの半年、サラ金の利息を払いながらひたすら待った。

そこで俺はある事に気づいた。

一等には前後賞という物がある。

ということは、さらに当選金額は膨れるということだ。

細かな当選もある。

例えば10枚に1枚300円当たる、つまり最低30万にはなるのだ。

そして当選発表日。

当選は機械で調べてくれる、俺はめんどくさいので、1000枚づつ、大きな宝くじ売り場に持ち込んだ。

その作業は怪しまれないように一ヶ月を掛けて行った。

5件目に持ち込んだところで、隣の売り場から1等が出た。

まさかと思い顔が青くなるのが分かった。

俺の予言が違っていたのか、俺の勘違いか分からないがとにかく、もし3億円は入らなかったら。

全財産つぎ込み、いやそれはまだ良い、いや良くないが。

問題はサラ金の借金だ。

150万くらいある。

危険のない賭けだったのに。

俺は死にそうな様相で、残りの宝くじを調べてもらうため店をまわった。

「お願いします」最後の1000枚を機械に掛けてもらう、そして俺は宝くじ屋の前で手を合わせた。

「あっ、おめでとうございます。300万当たっていますね」

俺はその場で崩れ落ちた、首の皮1枚で助かった。

結局、1万枚買ったので小額の当たりがいくかあり300万以上にはなった。

でも借金の利息など、なんやかんやで計算して見たら、結局儲かったのは2万5千円だけだった。

正隆はバクバク食っている。

人がこれだけ落ち込んでいるというのに。

「でもさ、損はしなかったんだろう、何をしたかは聴かないけど」

「ああ、2万5千円もうかった」

「すげーじゃん。2万5千円儲かったなんて、本当に危険じゃない賭けだったんだな」

「危険じゃないかけ?」

そう言われれば、そうなのかもしれない。

億が入る予定だったけど。

大損をして首が回らなくなるところだったのが、とりあえずプラスで終わった。

と言うことは危険じゃない賭けだったのだろうか。

まあ、世の中そうは甘くないということか。

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危険じゃない賭け 帆尊歩 @hosonayumu

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