それから……

58.エピローグ

―それから7年が経った。


「こっちこっち〜!」


昔はロングヘアだった髪をバッサリと切った有里ねぇがこちらに手を振っている。


「有里ねぇ……なんか、だいぶ印象変わったな〜」


「優太……? もしかして、有里ねぇの事好きになったりしてないよね?」


凛津が冷たい視線で俺にそう問いかけてくる。


凛津も、あの頃とは違って可愛いという感じではなく美しいと言った方が良いような顔立ちになっていた。


「なっ、何言ってるんだよ!? 俺が凛津の彼氏をやって何年経ったと思ってるんだ?」


「7年……だけど?」


「だろ? 付き合い始めたあの時から、俺が凛津を好きな気持ちはずっと変わってないんだからな! そんなことじゃ俺は……って!」


俺がそう言っている最中に、突然俺の腕に何かが絡みついてきた。


「優太〜! 早くこっちって言ってるでしょっ!」


「なっ、ゆっ、有里ねぇ!」


右の腕を見ると、有里ねぇがしがみついていた。


「おっ、おいっ! 早く離れろっ!」


「なんで? さっき優太が、『そんなことじゃ、俺は……』とか言ってたでしょ?」


「そっ、それは!」


「優太? なんで……有里ねぇとイチャイチャしてるの?」


凛津の目が悪鬼の如く鋭くなっていた。


「ごっ、ごめんなさいごめんなさい! わざとじゃないんです!」


「そっ、そんなに土下座までしなくても良いじゃない! 私、そんなに怖いの!?」


凛津はそう言って、手をアワアワさせているが……この可愛さに騙されてはいけない。


俺はこの数年間、凛津にそれを嫌というほど分からせられたからな。


俺が引き続き、謝罪を続けていると


「はははっ! 優太君もこの7年で、ますます凛津さんの尻に轢かれるようになってますね」


よく聞き覚えのある声が聞こえた。


「その声は……テルか! たっ、助けてくれっ!」


「んっ……と、僕は助けたいのは山々なんですけど……2人の視線が怖いのでやめときます」


「おいっ! テル! 見捨てるな〜!」


広い空へと、俺の声が大きく響き渡った。



それから一悶着あったものの、凛津の怒りは収まり……今は、俺たち4人はばあちゃんの家のリビングに居た。


「それで、有里ねぇは大学を無事卒業して今はこっちに戻ってるのか」


「そうそう!」


有里ねぇは大きく頷いた。


「あの有里ねぇが、医者か……。なんか想像できないな」


「失礼だよ! それこそ、優太が学校の先生なんてそっちの方が驚きだよ!」


「そうですよ! 僕もすごい驚いたんですよ?」


テルはうんうんと首を振ってそう言っているが


「いやいや! どう考えてもこの中で1番驚いたのはテルだろ! 元々カッコいいとは思ってたけど、今は俳優って……すごいな」


「いや〜? なんか、たまたまですよ。別に僕が凄いって訳じゃないですよ」


「……テル」


相変わらず謙遜も忘れない完璧な男だ。


「なっ、なんでですか!?」


「俺はやっぱりテルのこと嫌いだよ」


「なんでそうなるんですか!?」


テルは、今日もまた、えーっという顔で俺に向かって、大声でそう声を上げた。


「それで……今日集まったのは……凛津と優太の結婚式でいいんだよね?」


「うん……」


「あぁ……」


「2人が結婚か……」


「まさか、本当に結婚しちゃうなんて思ってませんでしたよ」


俺と凛津以外の2人は互いに顔を見合わせてそう言っていた。


「まぁ、確かに……。俺たちはあの日の出来事がなかったら絶対にこうはなってなかっただろうしな……」


そう、忘れもしないあの日の出来事。


凛津、俺のことを好きだと言っていた妹のような幼馴染と、有里ねぇ、俺が好きだった姉ちゃんのような幼馴染、2人が入れ替わったあの日の出来事。


「今となっては……めちゃくちゃ楽しかったな」


「うん……」


「そうだね」


「僕もそう思います……」


俺たちがそう言って、部屋の中が静かになりかけていた時、


「よしっ! それじゃ行ってみようか!」


有里ねぇが突然立ち上がってそう言った。


「えっ? どこに?」


すると、有里ねぇはこちらを向いてから


「決まってるじゃんっ! 私達の物語が始まったあの場所だよ」


そう言った。


「そんな急に! って……もう行っちゃってるし……」


「早く早く〜!」


「はぁ……仕方ないか」


「全く、有里ねぇはいつもこうなんだから……」


「それが有里香さんですからね……」


俺たちは顔を見合わせてクスッと笑ってから、有里ねぇの後を追いかけるように走り始めた。


もし、この俺たちの日常に名前をつけるならば……。


ふと、俺は走りながらも、そんなことを思った。


そうだな……。


『確かめるってどうやって?』


『私達と、デートしてっ!!!』


「今でも……優兄ちゃんの事……好きだから」


『私、優太が……好き』


『私ね……大学は、アメリカに行こうと思うの……』



『私……彼氏できたから』


『さっき言ってた『凛津奪還作戦ver.β』の一環だよ?』


『凛津、俺が好きなのはお前なんだ!』


『そっ、それじゃあ! 今ので、優太の私への思いよりも私の優太への思いの方が強いって事も分かってたんだよね?』


『凛津……俺は、お前が好きだ。この気持ちは変わらない。だから……つっ、付き合ってくれ!』


『やっぱり私じゃダメなんだってっ……』


『だからっ! 私は、優太以上に素敵な人を見つけて絶対、優太と凛津よりも幸せになるからっ!』


『優太のそばにいられるなら……私、優太について行く』


『有里ねぇはっ! 私達のこと大嫌いって言ったけど! その……私は、私達は……有里ねぇのこと……大好きだからっ!』


本当に色んなことがあった……。


長かったようで短かった俺たち物語……。


タイトルは……そうだな、


『俺の好きだった姉ちゃんのような幼馴染と俺のことを好きだと言っていた妹みたいな幼馴染の体が入れ替わってから始まるラブコメ』


とかでどうだろうか?


        


          (完)








拙い文書にも関わらず、ご愛読頂き頂きありがとうございました。



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俺の好きだった姉ちゃんのような幼馴染と俺のことを好きだと言っていた妹みたいな幼馴染の体が入れ替わってから始まるラブコメ 及川 秀 @Maeda429

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