ヨビカタ

@hellobtsismylife

始まり

学校に行くのが怠くてただ街を歩いてただけの僕になぜかじじいが声をかけてきた。

「おまえは幸せか」

「幸せってなんだよ」

「おー。なかなかいい頭をしてるじゃないか」

「どうも」

「学校は?いかんのか」

「行きたくないから」

「そうか」

「用事あるんで」

「何の用事だ」

「法事です」

「いってもいいか?」

「ダメっす」

「えー、兄ちゃんいじわるやのー」

と大声で叫び始めた。ここで街の人に冷たい目で見られるのに耐えられず、

「わかりました。いいですよ」

と言ってしまった。

「あ、その代わり、黙ってくださいよ」

「おお!」


という訳で僕は今本名さえ知らないじじいと一緒にツイッターで検索したお葬式の会場に向かっている。さすがになんか気まずくなったので、勇気を振り絞って聞いてみた。

「なんていうんですか、名前?」

「そんなん聞いてどうするんだい」

「それであなたを呼びます」

「剛」

「じゃあ剛さんって呼びますね」

「剛さんはなんで俺に話しかけてきたんですか?」

「つまんなさそうにしてたから」

「それだけ?」

「悪いか」

「別に」

「剛さんは何やってるんですか?」

「そうだな。自由業だな」

「へー。あ、ここです」

「どういう関係だったんだ」

「友人です」

全く知らない人にお焼香をした。話しかけられたら知らない人だってバレそうなので、すぐにその場を去った。

「もう帰っちゃうのか」

「もうそろそろ腹減ってきたんで」

「おいしい飯があっていいな」

「じゃあな、少年」

「食いたいんだろ。わかったよ」

駅前のデパートでボストンバッグを買って、それにじじいをいれて、家に帰った。一瞬中身を見られそうになったが、なんとか回避した。じじいが部屋にいることがバレないよう爆音の音楽を流した。そして、晩御飯に呼ばれたので、行った。

「今日は何してきたの?」

「学校に行ってないことくらいわかってるから」

「別に行かなくてもいいと思うけど、高校くらいは卒業してね。ギリギリでもいいからさ」

「わかってるよ」

「そうだ。あのさ、これから俺の部屋はいるときはノック必須だからな」

「部屋の掃除とかこれからは自分でやる」

「どうしたの急に」

「ごちそうさま」


「ちょっとじじ...剛さん。何してんすか」

「てかまだなんも食ってないですよね」

「ちょっと待っててください」

「持ってきたぜー」

「あれ、剛さん?」

剛さんはどこにもいなかった。部屋が狭いのにも関わらず。

「ばー!どうだびっくりしたろ」

「これから俺はかくれんぼ職人にならなきゃいけないからな」

「え、これ食べ終わったら帰るんじゃないんすか?」

「なわけないだろ。おまえがぼっちだろうと思って、友達になってやってるんだよ」

「よろしくな」

ということでなぜかじじいとの共同生活が始まった。


じじいと話が盛り上がれば、夜更かしをして、いけそうだったら学校に行って、だるすぎる日以外はちゃんと学校に行った。学校に行った日はホームルームが終わるとすぐに教室を飛び出し、家に向かうようになっていた。久しぶりになにか生きがいを感じて生きた。言葉では言い表せられない何かを。


急にお袋が部屋にきた。急いでじじいをボストンバッグにしまって、そこら辺にあった参考書を広げて机に向かった。

「なに?」

「これ、シーツ」

「ありがとう」

「俺自分のシーツくらい綺麗にするから」

「だってあなた最近おっさんみたいな匂いがするから」

「別に臭くてもいいだろ」

「用がないんなら、出てってくれる?勉強したいんだけど」

おふくろが出ると剛さんは残念そうに

「俺やっぱおっさんの匂いするんだ」

「まあ事実、おっさんだしな」


一緒に暮らすようになって3か月くらいして、いつものように学校から猛スピードで家に帰った。でも、部屋に剛さんはいなかった。こういう日もたまにあったので、散歩かと思って、剛さんの帰りを待ったが、帰ってくることはなかった。よく見ると、剛さんがいつでも外に出れるようはしごを用意してあったが、なぜか部屋の中に折りたたまれて置いてあった。だから、外出してるはずがなかった。その日から剛さんは僕の前から姿を消した。空っぽになった僕はしばらく学校にいけなかった。流石に定期考査は受けないと卒業できないぞと担任に脅されたからその時は保健室受験して誰にも会わないようにしてた。家族とも極力会わないよう、深夜に食事を済ませた。今は剛さんとしか会いたくなかった。剛さんに会いた過ぎて自分を失いかけた。TwitterとInstagramとFacebookそれ以外にも沢山剛さんの似顔絵を自称似顔絵師Aという人に頼んで、毎日のように投稿した。でも、リツイート数は多くて10くらい。いい方法がないかと思って、編み出したのがテロだった。


実行は東京駅から松本方面に行くバス。バスの運転手にはわざとSOSボタンを押させ、カメラの電源を落としてもらった。全員の携帯電話を回収し、警察が来る前に全部話した。

「安心してください。俺はみなさんの命を脅かすようなことは一切しません。俺は今とある人を探してます。その宣伝として何が一番影響力があるのかと考えた結果がこれです。みなさんの貴重な時間を奪うような真似をしてすいません。ご協力お願いします。」

「あんた若いのに、そんなにいい人に出会えてよかったわね。探そう!協力しましょう!」

「そうだな。あんた殺人犯の顔してないしな」

「ありがとうございます!それでは事前に考えてきたプランを発表します」

「まず、被害者Aを誰かにやってほしいです。その人には死んだという設定をやってもらいます。もちろん本気で殺したりはしません。演技です。この包丁で刺したという設定です。誰か立候補してくれませんか?罪に問われることはありません。お願いします。」

「ワタシやるわよ」

「本当ですか?ありがとうございます!!」

「なんて呼べばいいですか?」

「え」

「佐藤さんとかあだ名でもいいですが」

「じゃああすかで」

「それでは、あすかさんには警察がちゃんと宣伝してくれるという保障を作ってもらいます。俺が本気でということがわかったらと犠牲者を極力少なくしたい警察は真面目に取り合ってくれるでしょう。そこで警察が到着して、親が悲しむぞとかって言ってきて、俺を興奮状態であるというのを認識させるため、俺はいらついたような演技をします。それに対して、あすかさんがはやくおろしてくれない?みたいな感じで俺をさらに興奮させ、刺されます。もちろん演技です。刺された後はみなさんに叫んでもらいます」

「日本の警察はやはり優秀ですね。もう到着だなんて。それでは茶番にお付き合ってください」

警察はバスを中心に警察車両で円を作り、中継のヘリを確認。スマホでちゃんと写ってるところを確認できた。あとはテレビだ

「警察だ。バカな真似なんかしないでおとな...」

「うるせえじじいだな」

「きみ!まだ高校生でしょ!親が悲しむよ。さあ。降りて」

報道陣のカメラがちゃんとスタンバイしてるのが見えたところでショータイム

「ねえはやくおろしてくれない?」

「なんだババア。俺に指示してんじゃねーよ」

あすかさんに目線で合図をして、カーテンで死角になってる奥の方の席に放ち、血のりの袋を破いて、シャツとナイフにつけて、俺の合図にあわせて叫んでもらった

警察はガチで信じてた。そして、自信がついたのはスマホでみれる映像が実況付きで一流のアナウンサーが

「今、立てこもってる高校生と思われる男が人質の女性を刺したようです。男のシャツやナイフには血液がいっぱいついています。そして、悲鳴が聞こえました」

警察に聞こえないよう超小声であすかさんに話しかけられた

「めっちゃうまくいってますね」

「ありがとうございます。あすかさんって演技めっちゃうまいんですね」

「演劇部なんだ」

「そうなんですね」

「みなさんの悲鳴もめっちゃリアルで超いい感じにいってます!ありがとうございます」

「お兄ちゃん!警察がなんか言おうとしてます」

「ありがとうございます。よっし!いってきます」

「どうだじじい。おまえの煽りで一人の可哀想な日本国民が死んじゃいましたよ」

「要望は?なにかしてほしいんだろ」

「俺の用件はツイッターで優秀な日本の警察のみなさんへっていうアカウントで投稿されてる剛さんっていう人の写真を頼りにその写真に写ってる人を見つけて、ここに連れてくる。期限は明日の朝8時。もし、連れてこなければここにいる全員を殺す。俺に話しかけるのは連れてきたときだけだ。時間稼ぎとか一切いらないのでどうか集中してください。時間稼ぎとかしたらもう一人殺すんで、どうかご協力くださいませ。ではではまた明日!」

と言って、カーテンと窓を完全に閉めて晩ご飯の準備に取りかかった。

「全員殺すのは嘘です。なんか台本通りにやるのめんどくなって、変えちゃいました」

「今から晩御飯の準備するんで、みなさんは自由にしててください」

「あ、牛丼嫌いな方いますか?」

「はい!」

「かつ丼はどうですか?」

「かつ丼なら」

「よかったー!」

「一応サラダも用意したので、意識高い人はどうぞ食べてください」

「毒入ってないので、安心して食べてください!」

「さすがに今日あったばっかりですし、俺人間不信なのでスマホは返せないんで、雑談でもしながら食べましょう」

「いただきまーす!」

「いただきますっ」

「お兄ちゃん名前はなんて言うんだい?」

「そうだ!自己紹介してないですね!それじゃ、しましょっか!じゃあ、俺からしますね」

「ひろしです。不登校ですが、一般的に言うと高校生です。短い間ですが、お願いします」

「あすかと言います。大学生です。お願いします」

「おばちゃんは幸子って言うんだ。もう70かあ。あ、宜しくお願いします」

「え、あっ、僕はその」

「話したくないなら、話さなくていいんですよ。俺も学校では話さないので」

「喋りたくなったら、いつでも言ってください」

「じゃあ、最後お願いしてもいいですか?」

「はい。梅といいます。24歳です。お願いします」

「ひろしさんはなんで剛さんを捜してるんですか?」

「お世話になったからかな」

「さっき不登校って言ったでしょ?それが剛さんに会ってから学校にいけるようになって、人生めっちゃ楽しくなっちゃってさ。一人でいい気分になってた。でも剛さんは違ったみたいで、突然姿を消したんだ。でも連絡先を交換してなくってさ、唯一持ってる写真がノリで撮ったプリクラの写真と盗撮した写真だけで。ツイッターとかいろんなとこで情報提供をお願いしたんですけど、見つかんなくって、最終手段でこういう形をとりました。本当にごめんなさい。剛さんは多分明日きません。なので、明日の計画は俺が急にバスを降りて、自首します。みなさんにはある錠剤をのんだという設定にします。その薬は成分が検出されない特殊なやつで、みなさんは記憶が飛びます。無理矢理犯人にのまされました。なので、みなさんは共犯の罪にならず、無事家族や恋人のもとに帰ります」

「ひろしさんは?ひろしさんはどうなるんですか?」

「俺はなんでしょうね。どんな罪になるんでしょう。公務執行妨害とかですかね」

「まあ、とりあえずみんなは何も覚えてませんの一点張りでお願いします」


明日の朝8時。予想通り剛さんはこなかった。そして、俺は静かにみんなを起こさないようそっと扉を開けて、自首した。みんなは無事に約束を守ってくれた。俺は黙秘し続け、申し訳ないとただただいうだけの日々を過ごした。しばらくして少年院に入るか入らないか論争が始まった。俺は別に行ってもいいって言ったが、親はさすがにそれは止めたかったらしく、弁護士が頑張ってくれたおかげで家に帰ることができた。そんなある日、ヤクザ感満載のじじいが玄関に現れた。インターホン越しでもう剛さんだってことはわかってた。家族には何もなかったかのように装い、3か月ぶりに日光にあたることにした。


「すまんな。俺のせいであんたにあんなことさせちゃって」

「だって、剛さんとの生活楽しかったんだもん」

「ごめんな」

「あのさ、なんで僕の前から急に消えたの?僕なんかした?楽しくなかった?」

「それは違う。俺だってずっと一緒にいたかったさ」

「じゃあ、なんで?」

「俺本当はなスパイなんだ。それで家族に迷惑をかけないためにここにきた。それで頼れそうだったから声をかけたら、知らない人の葬式に行くという奇行ぶりがおもしろくなって、潜入とか関係なく泊まってたんだ。詳しく話せないんだけどな、事情があって、ここにいれなくなってな、しばらくは本部にいってた」

「本部ってどこ?」

「言えないんだ。いつか言うよ」

「でも、これは勘違いしないでくれ。今は仕事関係なく、ここにいる。一人の人間としてきた」

「提案しに来たんだ」

「なにをだよ」

「スパイ、興味ないか?」

「でも、僕問題起こしたし」

「少年院くらいなら大丈夫さ」

「でも、アメリカ国籍が必要になる」

「どういうこと?」

「FBIだ。知らないか?」

「さすがに剛さんそれは馬鹿にしすぎ」

「なあ、俺と一緒に働いてみないか?」

「何言ってるんすか?」

「高校受験すらうまく行ってないのに、そんなの通るわけないだろ」

「裏口はいやか?」

「別にいいけど」

「本当か?なら今からでも一緒にアメリカこいよ」

「僕本当に体育とかめっちゃ苦手だし」

「おまえ覚えてないか?最初あったときの会話」

「覚えてないね」

「俺があんたに幸せかってきいたら、幸せってなんだよっていったろ?」

「そんなこと言ったかな?」

「職業柄こういうの一言一句覚えちゃうんだ」

「でっ?」

「なんかわかんないけど感心して、上司に話してみたんだ。したらよ、FBI誘っちゃえよっていわれてさ、もう書類は全部用意してある。おまえがその気であれば」

「なんで僕なんかが」

「おまえがいいんだよ。おまえ以外はいやなんだよ。誰でもよかったら、こんなこと言わねーだろ」

「別に行ってやってもいいぞ」

「本当か?」

「ああ」



いつの間にか僕はFBIのプライベートジェットに揺られ、空港についた。

目の前で意味の分からない会話が繰り広げられてて、いつの間にか剛さんは上司に別れを告げてた。

「今の会話全くわかんなかったんすけど、なんて言ってたんすか?」

「あんたを3ヶ月で英語とトレーニングの両方を完璧にするって言っちゃった」

「無理だよ。僕英語わかんねえよ」

「俺が教えてやるから。これでもな、首席で入ったんだぜ。すごいだろ」

「やっぱ剛さんって頭いいんすね」

「そうだ。ちゃんとした自己紹介するな。俺は柳浩。日本では剛。」

「これからは他の研修生と同じようなスケジュールで動いてもらう。まあ、あんたの方が100倍きついけどな。ちゃんとついてこいよ」

「はい!」


研修は想像以上にきつかったが、柳さんと一緒なら楽しかった。銃弾が飛び交う中、銃を扱うのはゲームで鍛えてたおかげで銃の神童と呼ばれた。みんなは俺のことを訳ありの留年生徒だと思い込んでるようだ。俺の方が5年は年下なんだけどな。柳さんに呼ばれて、日本に研修もかねて、初めての潜入捜査を二人ですることになった。新人の俺には情報がまったく入らないで、機内でいろいろ柳さんから教えられた。空港につくと、剛さん、将とお互いを呼び合い、捜査がはじまった。


それから何十年もFBIに所属し続けている。相変わらず柳さんはいつの間にかまたどこかへ行ってしまった。無事であることを祈るしかなさそうだ。もう10年ほど姿を見ていないが。今度は自分が後輩を引き連れて、潜入捜査に出る。FBIでは任務前に毎回遺書を書かされる。ほとんどの人は真面目に毎回違うことを書くが、俺はいつもこれを書いてる。


人生は何があるかわからない。

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