背神の魔女

 ——ある日、店の評判を聞いたと、かなり老齢の女性が訪れた。ミストは、今までに見たこともない表情を浮かべ、その女性の手を引き店を出た。

 そしてこの日は帰って来なかった。

 次々と来る客に事情を説明し、定刻になったので店を閉めた。扉に書き置きを残し、家に戻る事にした。


 ミストは既に家に居た。


「……心配したぞ」

「ああ、悪かったよ」

「あのおばあさんは?」

「……私が産まれるのを手伝ってくれた人」

「産婆さんか。えらく焦ってたな」


 彼女の自分勝手な行動に軽い怒りを感じていた俺は、珍しく強気に出ていた。


「何をしていたんだ?」

「……昔話よ。別に普通でしょ?」

「店をほっといて1日中?」

「そうよ。懐かしかったから」

「客は残念がってたぞ」

「埋め合わせはするわ」

「今回だけにしてくれよ、こういう事」

「約束するわ。あの人にも、お世話になったから店を通さずに相談にのるって言ってきた」


「……」

「…………」

「……おい」

「…………」

「なんで服を脱いでんだ」


「……きて……」


 ——俺は彼女を押し倒した。


「私を……裁いて……」


 ——ミストの眼は、ここではないどこかに向いていた。うっすらと涙を滲ませ、顔を腕で覆った。

 俺は震える手で、ただ彼女を強く抱きしめた。



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 休日に俺は1人でギガスの手伝っている畑を訪れた。そこでは、元の世界でいう根菜類の野菜がきっちりと区画分けされ、何種類にも渡り植わっていた。

 畑の持ち主の老人いわく、ギガスが来てから様々なアイデアで助けられているらしい。


「ギガス……お前はいいよな。何というか、迷いがない」

「まァな! 動物や自然と触れ合う。コレ以上の喜びは必ナイ!」

「実際スゲェぞコイツは。オークと人間が協力したら農業はドエライ事になるだろぉよ」老人も嬉しそうだ。


「シカシな……いつかは集落に帰らなければならない。それがオレの迷いだ」

「帰らないとどうなるんだ?」

「少数の民族が多数民族の為に規律を犯す、コレがどういう意味か、お前タチにはピンとこないだろう。人間が思うイジョウに、オレたちは誇りと秩序のウエで生きてきた」


「……あのオナゴが神について聞いてキタだろう?宗教家はシツコイ程熱心でな。その手は大陸の人間のみナラズオーク族にも及んだ」

 ギガスの話を要約するとこうだ。知っての通りオーク族は長い間虐げられていた。しかし、世界宗教の人々は分け隔てなく彼らを歓迎した。

 この世界での宗教の力は強く、一国の王でさえその行動に口出しできない。

 未開の部族に近代文明と信仰を与える。聞こえはいいが、オーク族には傲慢極まる態度に見えた。よく知りもせず、劣った部族だと決めつける態度に。


「神の代行者、カタハラ痛いわ。オレたちはいつもヤツラを追い払った。代行者でなく本人をツレて来いってなァ!」ギガスは大きく笑った。

 現代人で日本人の俺にも、ギガスの言い分はよく理解できる。まあ、ダラダラ過ごしていた俺がとやかく言える問題ではない……すると老人がお茶を飲み干し、口を開いた。


「……本当はよ、すっげぇ嫌だったんだ、ギガスを雇うのが」

「……どうしてですか?」彼は、ギガスには既に話してあると前置きし、続けた。

「ワシの娘がな、昔オーク族に殺された。ただ山菜採りに行っただけなのにな……」

「……」

「婆さんに止められたよ。ワシが復讐に狂っていたからな…大事なひとり娘を殺されて黙っていちゃあ男がすたるってな。……婆さんとワシは嘘をついた。フェリスという孫娘がおってな、お母さんは旅に出た。世界中をまわって家に帰ってくると……」

「もしかして、あの旅の商人の……」

「ジロウ、お前が知っているフェリスと孫娘が同じとは限らん。だが、この嘘は最後まで嘘にしてくれんか。老人の後生の頼みだ……」


「もちろんです。ギガス……お前とんでもなく立派な人に拾われたな」

「オーク族に野蛮な血が流れてイルのは否定できん。最初は何度も追い出さレタ。だがオレに折れる気はなかった。仲良くナルのに、神も規律も部族もないってな!」

「そう、その素朴さに負けて雇ったんだよ。あとしつこさにもな」2人は笑い合った。


 ……宗教というのは、どの世界でも扱いに困るものだ。不勉強な俺には難しい話だった。ミストも、神を信じていないのだろう。俺もそうだ。



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 更に3ヵ月が過ぎる頃、宗教関係者と名乗る男が店に現れた。ミストの自信通り、相談屋はどんどんと流行っていった。その中には、天才美少女を一目見たいというタイプの人もおり、彼女の美貌も一役買ってんだなと、俺に実感させた。

 その彼が言うに、布教活動の一環として彼女にアイドル的な事をして欲しいと。俺はミストの返事を予想する。神を信じていないであろう彼女は——


「大切なお客様の頼みですもの。こんな私でよければ喜んで!」


 こうして新たな活動が始まった。その名も……


『神より遣わされし美少女! 神がかり的な神託は間違いなく神の言葉を語る!』——始まりだ……!


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「いや、何二つ返事で了承してるんですか!? 店長は神を信じてないんでしょ!?」ミストを店長と呼ぶ事にしていた。

「言ったっけ? そんなコト」確かに言ってない。

「お茶飲んでんじゃねえよ!」「いや、お茶くらい飲ませろよ……」意外な返答に俺は気が動転していた。 

「目標にズレが生じたが、これはこれでアリだ」

「ああもう! とことんまでついて行きますからね俺は!」


 ……あの日、彼女の小さな身体を抱きしめて以来、俺は決意を固めた。こうなったら見届ける。彼女の目標とやらを。それが異世界に来た真の意味なのだと。

 とはいえ、その活動までに1年の猶予がある。気の長い話だから、今は忘れる事にした。



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 大した数ではないのだが、店にクレームが来るようになった。相談をしてから、家族や友人の言動がおかしいと。しかし、誰もハッキリと何がどう悪いか説明出来ない為、我々の力不足で不愉快な思いをさせ申し訳ありません、と中身の無い謝罪をした。

 俺は未だに想像出来ない。酒場で聞いた『復讐』とは何だったのか。間近で毎日彼女を見ている俺ですら、到底悪事を働いているようには……。


「何かしみじみですよ店長、俺は」

「ああ、私もそんな気分だった」


 そう、人生を諦め、腐っていたような俺たちが、国で評判の相談屋になり、充実した日々を送る。あまりに快挙だ。解決が難しい相談も、顔見知りを頼れば快く協力してくれる。もちろん、あまりに込み入った内容や、政治に関する事などはお手上げだけどな。



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 ——ある日、ある場所——


 大きなスーツケースを持ったミストが息を切らしながら1人到着する。人が居ない事を確認し、ケースの中身に火をつけた。灰が青空に舞う。


「これでチャラね」


 綺麗に後始末をし、その場を去った。軽くなったケースを振り回しながら、幼き日を追想する。



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 ——あの日、あの場所——


「きれい……」


 わたしは天才魔法少女! 今日は家をこっそり抜けて外を見にきた! これが夕日か! 絵本とは大ちがいだ!

 家に戻ろうとヒミツの道を通ってたらなんか汚い男がいた!

 やあお嬢ちゃん、この汚い男からこの汚い本をうけとってくれ、と言ってきた!

 わたしはうけとった! ママやパパからは人に親切にしなさいとよく言われるからな!

 部屋で読んだがサッパリだ! でもスゴイ魔法の本っぽい気がする!


「ミスト……ごめんな……」


 パパがいつものように謝ってきた。これは神のシレンなのだと、わたしを部屋に閉じ込めた。

 わたしも、いいよと言って心の中で舌をだした。なんども抜け出してるからヘイキなのだ!

 ママもパパも自分からは言わないけど、なにやら教会のエライ人らしい。

 わたしに対するサマザマな仕打ちは、ぜんぶ神のシレン。カミサマなら仕方ない、2人がそうならわたしも信じる。

 家に居るおばあさんが、こっそり教えてくれた。わたしにはスゴイ魔力があるって! やっぱり天才魔法少女だったのだ!


 パパに頼んで本をたくさん買ってもらった。パパも喜んでいた。わたしがいい子になったって。

 知識をふやすコト。それ以外なにもいらなかった! 友達も! お菓子も! 外の景色も!

 1年間頑張った! ママは心配してきたが、楽しくてしょうがなかった!

 あの汚い本も時々読んだ。勉強をつづける内に、ボンヤリとわかってきた!


 ——やっとわかった! さらに1年掛かったけど、もうほぼ完璧だ! さっそく試してみるか!



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 1年間、俺たちはよく働いた。町を歩いていても、ほとんどが顔見知りみたいなもんだ。

 俺は1人で大教会に向かっていた。この国で最も荘厳で立派な建物だ。ミストは先に行っていて、打ち合わせをしている。正午から、例のイベントが始まる。照れ臭かったので、一般客として訪れた。


 無学な俺でも感じ取れる程、粛然たる雰囲気に満ちていた。席は埋めつくされ、最前列には明らかに高僧な方々が居た。

 壇の中央には天井からの光が集められており、さながらスポットライトのようだった。重厚なパイプオルガンの演奏が始まると、皆静まり、壇上へと注目した。


「それではどうぞ。神託の少女ミストよ」


 ゆっくりと登場した彼女を見て、この役に抜擢された理由を悟った。神々しく、綺麗だ……。皆が息をのむ。深くお辞儀をし、顔をあげ、片手を大きく掲げた。


「みんなーー!! 今日は私の為に集まってくれてありがとーー!!」


 !?


「ハイちゅーもーく!! 今から私が! ありがたーい神さまの言葉を授けまーーす!!」

 俺は恥ずかしくなって顔を覆った! ミストが手を叩く音が聞こえた。



「あなたたちは……神を信じますか???」



 重い静寂が会場を包んだ

 ——彼女は続けた。


「どうなんですか? 最前列のみなさん」

「……よく……わからない……」

「神の名のもとに、色々やってきたんでしょ?」

「……そうだ」

「居るかどうかわかんないのに?」

「……そうだ」——ミストは深いため息をついた。


「みんな聞いたーー!? このじじぃ共、めっちゃいい加減じゃない!? こんな宗教入っちゃダメだよー!!」

 どよめきが会場を支配した。ミスト、お前は……お前はコレがやりたかったのか? 神の存在を否定する……この行為を……?


「さて!! 私はもう満足した! やってみろよ? 神の名のもとに! 火刑でもなんでも! やってみろよ!?」



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「ねぇパパ! わたしの目を見て!」わたしは手を叩いた。

「ん? なんだミスト。びっくりするじゃないか」

「カミサマって本当に居るの?」

「……実はよくわからないんだ。大きな声じゃ言えないけど」

 へー嘘つきなんだなパパは。あんだけ神、神って毎日言ってる癖に。あとママもおんなじだった。


「じゃあママ。わたしのこと愛してる?」

「当たり前でしょ。大事な大事なひとり娘よ」

 ふーんこれは本当か。嬉しいな。


 次の日、パパとママが帰ってこなかった。おばあさんが部屋に来て、大きなローブを被せてわたしを外に連れ出した。


 広場を見ると、パパとママが木にくくられていた。いつか言ってたお祭りかな?

 でも火をつけたら……危ないよね?


「パパ! ……ママ!」


 わたしはおばあさんを振りほどいて駆け出した。ダメだよ! 人に火を向けたら!


「聞け! 集いし者よ! 彼ら両人は、神の存在に疑いを持った! しからば神の炎により! その身を焼かれねばならない!!」


 「見てはいけません!! ミスト様!!」おばあさんが止めにきた。でもわたしは目を離さなかった。



 ——苦痛に歪むパパとママ、酒を喰らいながらバカ騒ぎする若者、汚いモノを見るような貴族風の者、わたしは全てを目に焼き付けた。



 おばあさんに抱えられ、離れた所に行った。家のお金を渡してきた。

「逃げなさい! うんと遠くに! もうこの国に戻っては駄目ですよ!!」



 わたしは走った。……死んだ。パパとママが死んだ。あの魔法のせい? 素直になっただけなのに? カミサマはそんなにエライの? カミサマはなんでもしていいんだねいないかもしれないクセにエライんだねスゴイんだねなぁおいきいてるかクソったれのカミサマよオマエのソンザイをわたしはヒテイするぜったいになんねんかかってもぜったい……————————



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 フェリスは再びサントルニに向かっていた。自ずとあの日の事を思い出す。敬虔な夫婦が神を疑い、火刑に処された。一般人ならいざ知らず、信者となれば即座に極刑であり、弁解の余地は無い。

 その場に偶然居合わせた彼女は、悲痛な叫びから目を背けた。そこには、燃え盛る2人を真っ直ぐ見つめ、涙に咽ぶ少女が居た。

 子どもに何てモノを見せているんだと、傍らに居た老婆を睨んだ。彼女らは逃げるように立ち去った。


 国を去って1週間後、国境の山道であの時の少女と出会った。彼女は金をよこし、住む所を用意して欲しいと頼んできた。その眼は、了承以外の返事を拒む、深く悲しい色をたたえていた。

 不憫さと生活苦も手伝い、彼女の依頼を受けた。

 完成後、必ず様子を見にくると約束し、商売の旅に出た。



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      ——ある本の冒頭文——


 私は人の手から逃れ、ついには遠い東の国へと至った。ようやく、ようやく執筆に専念できる。

 遥か昔、魔法とは自由な存在だった。それ故に、歴史に様々な暗い影を落とす事となった。

 特に、人に直接作用する類の魔法は全て禁制とされ、それが文明の発展を助けた。

 人間の好奇心とは恐ろしいモノだ。私は賢者と称されても満足いかず、人知れずこの研究を続けた。

 ——古代禁呪

 その方法論をここに記す。願わくば、正しき者の手に渡るように。


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 混乱の中1人だけ主張を曲げなかった男が居た。

格好からして最高位の教皇なのだろうか。頑なに神は存在すると叫び続けた。


「真の信仰はなんぴとにも妨げられん! “背神の魔女ミスト”よ! 神の御名において焚刑とする!」


 ミストは捕らえられ、広場へと連れて行かれそうになる。しかし、彼女の腕を掴んだ僧たちの眼には、戸惑いの色を感じた。

 俺は人だかりに阻まれ、彼女の元に辿り着けずにいた。

 既に騒ぎを聞きつけた民衆により広場は溢れかえっており、速やかに刑の準備が始まり、彼女は頑丈な木の柱にその体を縛られた。

 ……ミストは、あの日の俺のように爛々とした眼付きをしていた……彼女はありったけの生命力を爆発させ、叫んだ。



「楽しいタネ明かしの時間だ! 聞け! 私はこの国で産まれ、密かに生きていた! 両親は司祭としてこの教会に勤め! やがて神の存在に疑問を感じた!!」


 教皇が口を塞げと命じたが、僧は動かず、彼女の叫びに耳を傾けた。


「それは私のせいなんだ! 嘘をつけなくなる古い魔法のせいだ!! だが今日! 神の威光は地に落ちた! これは何の刑だ!? 誰が何を裁くって!?」


「——人が人を殺すんだ!! その事実から! お前たちは目を背けてきた!!」

 

 

「ここからはもっと面白いぞ!! 私は相談屋さんと称し、この国の人々に魔法を掛け続けた! 2度と解けない恐ろしい魔法をな!!」

 

「私は忘れない!! あの日、パパとママが焼かれ、クソみたいに騒いでいた連中の顔を!! 残酷な人の業を!!」



「——ジロウ!! 聞いてるか!? これが私の復讐だ!! 神の名は! 2度と世界に響かない!! 神は死んだんだ! 1匹のネズミのせいでな!!」


 ミストはそう終えると、力が抜けうなだれた。



「さ、もういい。やるならやれ」


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 雪が降りしきる山の中、わたしは歩いた。アテのない一歩一歩が、わたしを苦しめた。

ここではないどこか……ソレだけを目指してただ歩いた。冷たい雪が、罪の意識を増長させた。

 

 気がつくとわたしは、深い山奥まで来ていた。死んだような眼で彷徨い、力尽きたかと思えば、その女性は居た。

 既にわたしは、言葉を発する気力も何も持ち合わせていなかった。

 そんなボロ切れのような自分に、彼女は抱擁と、温かいスープを差し出した。


 こんな時、どうすればいいのか。両親以外の人をほとんど知らない自分には、何の感情も浮かばなかった。


 日が落ち、薄暗さが辺りを覆う。わたしは彼女の背に乗り、宿屋に連れていかれた。

 座っていると、中年の女性が手際よく料理を持ってきた。視線に気が付いた彼女は、食べるようにと目配せをした。


 お腹は膨れたけど、どうすれば。もう親も居ない。生きる意味がない。残ったのは罪と深い悲しみ。


 眠りにつく前に考えていた。そうだ、今はただ生きよう。今日みたいに、優しい人もいるんだ。

 わたしは彼女に、住む場所をお願いした。


 その後の日々は、ただ漫然と過ぎていった。時々村にゆき、食料を買い込んで生き続けた。

 罪の意識は、だんだんと膨れ上がる。逃れる術がない事を悟り、自殺も考えた。


 ——その勇気もないまま、7年の時が流れた。私はただ、裁きの日を待ち続ける人間となっていた。



 そして、私と同じ死んだ眼をした彼が現れた……。



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 ミストの今までの行動を全て理解した。

 俺には、俺には分からない……彼女のその魔法は、そんなに悪いコトなのか?本音で語り合える、いい世の中になるんじゃないのか?

 国中が嘘をつけない。その結果など、ちっぽけな俺に想像できる訳がない。


 人々を押しのけ、信じられない力で彼女の元へと走った。絶対に死なせない。それのみを考えて。

 僧に取り囲まれ、腕をとられる。あの叫びを聞いてもなお、執行を取り止めないというのか。

 その時、俺の後ろから悲鳴が聞こえた。人が波のように押し流され、道ができた。


「——ギガスッ!?」


 巨大な戦斧を携えた彼が現れた。


「よォジロウ!! 何やら騒がしいナ!!」

 ギガスがその戦斧を地面に振り下ろし、巨大な衝撃波が巻き起こった。彼は火刑台の元へ悠々と歩く。


「オマエはどうする? 猛きオナゴよ」

 俺はギガスを手で制し、言葉を紡いだ。



「なあミスト……前に言ったよな、一緒に死ぬか考えとくって。よく聞いてくれ、今その答えを言う」


「——お前がずっと好きだった!! お前との生活が楽しかった!! だからこれからも! 一緒に暮らして! 子どもも作って! 幸せになろう! 2人ともいい歳になったら、その時一緒に死のう!!」


「ああ、いいぞ」


「お前あっさりすぎだろ!? もうちょっと盛り上げろよ!?」


「いや……同意したんならいいだろ」


 ——突然ギガスが火刑台の根本を斧で粉砕した! それと同時にこれまた突然現れたフェリスが柱に飛びついた!

(軽量化魔法……!)

 ミストが括られた柱が青白く光る。フェリスは俺に顔を向け叫んだ。


「——逃げなッ! この子を連れてどこかに!!」

 ギガスが巨体を駆使し、再び道を作った。

「オレが食い止める! 走れジロウ!!」


 俺は頷き、柱ごとミストを抱え走った!

「振り向くなジロウ! 私との約束……絶対忘れるなよ!!」

    

「いつか遊びにイクゾ!! それまでタッシャでなァ!!」


 フェリスとギガスの声が遠のく。俺はひたすらに走った。草原を超え、山を超え、俺たちは精一杯逃亡した。


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 2人の息が整う頃、俺にふと疑問が湧いた。

「ミスト……あの魔法、俺に使ってないよな?」

「ん?ああ、ジロウはバカそうだから使っても一緒かなって思って。安心しろ」

「はは……お前は本当に……」



 ——俺は生きている喜びを噛み締めながら、彼女に口づけをした。

 

 ——力一杯、抱きしめながら。

  


   

     



                〜おしまい〜

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異世界で天才美少女と相談屋を開いた俺が、とんでもない事態に陥る話!〜あと神も倒します〜 おみゅりこ。 @yasushi843

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