第31話「とりあえず解決」

 数日後には、黒の勇者とララさんとの闘いが、話題になっていた。

例の冒険者の一団が話したと思われる。

僕の方からは、エイラさんに話をしていたが、襲撃があったとだけ話し、

詳しい内容までは、聞かれなかったし、話してもなかったので、

彼女じゃないのは確かだった。

 

 黒の勇者の強さが人々に話題になる中で、僕は気まずい思いを抱いていている中、

この状況を面白く思っていないのが、カリーナとマルセルだった。

特にカリーナの機嫌はよろしくなく、例の蜘蛛型のマジックドールからの映像では、


「また失敗じゃない。どうするのよ!」


と彼をなじる姿が映されていた。


「魔獣使いとしてはすごい奴って話だろ。俺の見立てに間違いはなかった」


とマルセルは言い訳がましく言うが、


「勝てなきゃ意味ないのよ!」


とカリーナは激高する。


「しかし、ここまでの相手だと、もう打つ手がない。

毒を飲んで、これだけの強さとなると……」


とマルセルが言いかけて、


「まさか、奴は毒入りの料理を食べなかったんじゃ……」


と言い出すと、


「美味しかったとは言ってたけど、

あれは嘘で……まさか、こっちの事が知られた!」


とカリーナが言いだして、それを聞いた僕は、身構えてしまったが、


「そうとも限らない。あの黒い勇者は私生活はライトって奴に任せきりらしいから、

ひょっとしたら、ライトの事しか信じてなくて、

そいつの作ったものしか食べられないとかな」


するとカリーナも、


「確かに、奴はあまり社交性はなさそうだったから、あり得るかも」


本人が見ているとも知らないで、好き勝手に言っているが、

黒の勇者であるときは、ボロが出ないようにそういう風にしてきたから、

特に何も感じていない。


 ただここで話が僕の方に向いた。


「じゃあ、最初にライトを始末すれば、奴を追い詰めれるんじゃ」


とカリーナが言い出した。


「そんなことをしたら、逆に報復されて、ただじゃ済まないぞ」


とマルセルは反論した。


「大丈夫よ。これまで通り自殺に見せかけるから、

黒の勇者の所為で死を選んだって書いた遺書を用意しておくから

そうしたらショックで家を出ていくはずよ」


マルセルは引き続き、


「けど黒の勇者が出かけると、アイツも出かけているだろう。

ほぼ一緒に帰ってくるから、屋敷に一人でいる時間は少ない」


転移ゲートを使って別々に出入りしているように見せかけているけど、

同一人物だから、こういう感じになってしまう。そしてマルセルは、


「だから先に黒の勇者の方をどうにかしようとしたんじゃないか。

館の中で死んでもらわないと、価値は下がらないからな」


とカリーナの案に反論する。


「じゃあどうすればいいのよ……」


と悔しがるカリーナだったが、ここで二人を追い詰める事態が起きる。


 突然、来客が来た。応対の為にカリーナが部屋から出て行った。

マジックドールはリビングにあるので、玄関の状況が分からなかったが、

どたどたと言う音と主に、リビングに衛兵が入ってきた。

そのリーダーと思われる女性が、


「マルセル・レイクスだな。ノエル・シュナイダー襲撃の件で、話が聞きたい」

「ノエル?誰です?」

「黒の勇者と言えばわかるか?」


するとマルセルの顔色が真っ青になった。

僕は、何が起きているか容易に想像がついた。


 すでに情報を漏らしていたギルドの職員はエイラさんが特定していて、

そこからマルセルの事を聞いたんだろう。

更に後で知ったことだけど、その職員はマルセルとは飲み仲間で、

酒の席で、襲撃計画の事を漏らしていたらしい。

ただ酒の席の事なので、本気にしていなかったのと、

彼からの見返りの金に目が眩んで、黙っていたらしい。

加えて、事情は分からないとの事だが、大きな金が手に入るという事も聞いていて、

そのおこぼれにあずかろうとしていたらしい。

 

 もちろん情報漏洩で、尚且つそれが犯罪に使われるなどという事は、

言語道断なので、職員は解雇となったらしいが、ただ職員の話は、

衛兵に伝わったと思われるので、現状につながっているようだった。


「とにかく衛兵所に来てもらおう」


そんなわけでマルセルは連行されていった。


 なおカリーナは、連れていかれることはなかった。

後で知るが、彼は酒の席でカリーナの事は話してなかったからだという。

とにかく、彼女は一人残されたようだった。

残された彼女は、黙ったままソファーに座り込んだ。

その顔は、かなり恐ろしいものだった。


(なんだか危ない雰囲気だな……)


彼女が考えていることは手に取るように分かった。

大方、マルセルが捕まった今、彼がいつ自分の事を話すが、

気が気じゃない様だった。


 衛兵所に連れていかれたマルセルは、すぐには帰ってこなかった。

後で聞いた話では、盗賊たちに面通しはしたと言う。

当然、仮面をしていたので、分からないとの事だったが、

声は覚えていたらしく、声が似ていると証言したのと、

偽依頼のこともあって、問い詰められて、直ぐに襲撃の件は白状したという。


 ただ、動機に関しては家の事と関わるので、

中々白状しなかったらしい。しかしカリーナは、そんなことは知らないわけだから、

マルセルが帰ってこないことで、

不安を高めているようで、僕は常時ではなくて、

時折、それもリビングにいるときに様子を確認していたけど、

彼女は、ソワソワして落ち着かない様子であった。


 そしてある時、ソファーに座っていた彼女は、

突然立ち上がって、一旦、画面の外に出たかと思うと、

次の瞬間、ナイフのようなものを持って出てきた。


(これは、まずいかな……)


とそんな事を思った。


 この時、僕もリビングでソファーに座って状況を、

どうすべきかを考えていた。後に被害者という理由で、

事情を聞くことになるけど、この時、事情を分からないのは、

僕も同じだったが、衛兵に問い詰められたマルセルが、

白状するのは時間の問題だとは思っていた。

そうなれば、カリーナもお縄になるのは間違いないから、

何もしなくとも、二人は間違いなく破滅する。


 だけど、前にも述べたが、おそらく罪に問えるのは、

今回の一件だけだ。他の件は、証拠がない。だけど、このままにして置けなかった。

しかしマルセルが捕まった以上、急ぐ必要がある気がした。

 

 そして例の呪殺武器に頼ることとなった。

その武器は、「ゴースト・リベンジャー」という物で、

呪殺武器に分類されてるけど、これで対象を追い詰めることはできても、

殺せるかはわからない代物。見た目は円盤状をしていて、

真ん中に目の様な模様が書かれている。


 それを取り出した後、後は来るのを待つだけだと思った。

彼女の様子から、自棄になって僕を刺しに来るような気がした。

ならば受けて立とうと思い、彼女が外に出たのを見計らって、

僕も鎧を着たまま出かけた。

 

 彼女の言動から、自棄になっているとはいえ、黒の勇者ではなく、

普段の僕を狙うような気がした。実際、外に出てサーチを使うと、

彼女と思われる人物が、物陰に隠れて、こっちの様子を見ていたが、

襲ってくる気配はなかった。その後、転移ゲートを使い、家に戻った。

すると呼び鈴が鳴っていた。


 玄関を開けて出ると、そこにいたのは思った通りカリーナで、

黒の勇者の姿で応対したから、


「なんで!」


と驚いていた。出かけたのを確認してやって来たからだろう。

この姿のなのは、彼女がナイフを持っている可能性があるからだけど、

それ以前に普段の姿で対応して、刺されそうになったら、

鎧が自動装着する可能性があるので正体が、ばれるのは避けたかった。


 そして、


「何か、御用で……」

「あの、ライト君は?」

「今出かけている……」

「では、また今度……」


と言って立ち去ろうとするので、


「秘密の部屋の事を知りたくないか?」


するとカリーナの動きが止まった。


「なんの事?」


と言ってとぼけて見せて、動揺しているのは見え見えだったから、

だから、追い打ちを掛けた。


「お前の事は、全て調べた。だから料理は口にしていなかった……」


調べたのは確かだけど、料理を口にしなかったのは、

鎧の持つサーチの力なので、調べたからじゃないんだけど。


 そしてさらに続けた


「これまでしてきた事は、知っているぞ。

それだけの事をして、知りたかった隠し部屋だ。見たくはないか?」


と聞くと、彼女は黙ったままうなずいた。そこで、僕は彼女を連れて家に入った。

そして書斎に彼女を連れてきて、細工を起動させ扉を開けた。

その瞬間、カリーナは期待に満ちた顔をしていたが、

彼女を中に案内すると表情は一変し真顔で、


「なによこれ……」


と彼女は言ったけど、


「これが、お前らの求めていたものだ……」


とだけ答えると、


「どういうことよ……」


と彼女は声を震わせる。


「見ての通り、お宝だぞ……」


すると彼女は、顔を真っ赤にして、


「こんなの違う!金は!お金はどこに!」


と詰め寄ってくる。


「この家に、そんなものはない……」

「私は聞いたんだから!」


鬼気迫る彼女の勢いに、押されることなく、


「酒の席のホラ話だろ……」


と答える。


 しかし彼女は表情を変えることなく


「でも本当かもしれないじゃない!実際に隠し部屋はあったわ!」

「しかし、金は無かった……」

「嘘よ!あんたがどっかに隠したんでしょ!早く出しなさい!」


と言ってナイフを取り出し向けてくる。


「たとえあったとしても、アンタに、受け取る権利はない……

アンタがしてるのは、他人の資産の横取り、十分な犯罪だ……」

「うるさい!」


と叫び、ナイフを振り回す。


 僕は避けつつ、


「その上、多くの人間を殺してきた……」


そして手刀で彼女のナイフを落とす。


「許されることじゃない。罪を償え……」


だが彼女は、悔し気にしつつも笑いながら、


「証拠はないわ。衛兵たちも今更、過去の事を掘り返さないわよ。

自分たちの無能さを証明したくないでしょうし」


と言いつつ、


「まあ、掘り返したって証拠は出ないでしょうけど」


と言い放った。


 この時、僕は覚悟を決めて「ゴースト・リベンジャー」を取り出した。


「なのよそれ?」

「アンタに、裁きを下すものだ……」


僕はそれを彼女に向けると、次の瞬間、中央の目の部分から光が発せられた。

直後、彼女は


「なんで!いや、来ないで!」


と声を上げおびえだし、部屋から飛び出していき、

更に家からも出て行ったようだった。


 「ゴースト・リベンジャー」は対象に恨みを抱き、

この世にとどまっている霊の力を借りて破滅させると言うもの。

具体的には、恨みは抱いているが祟ることのできない霊たちに、

力を与えて、対象者を祟らせるというもので。呪殺武器だけど、

使用者は一切影響はない。

ただ相手がどうなるかは、あくまでも霊たちに任せなので、

どうなるかはわからない。

それと安全装置として、恨みは恨みでも逆恨みの場合と、

霊が暴走し始めた場合は、強制的に霊たちは祓われるらしい。


 この武器を使ったのは、使用後に問題が少なそうなのと、

あと丸投げにはなるけど、僕には彼女たちをどうにか出来そうにないので、

せめて被害者の人々に満足できるような結果にしたいと思ったからだ。


 この後の事だが、カリーナは衛兵所に駆け込んで、自首はしたそうだが、

証拠はないのと、霊たちに責められたのが、気がふれてしまったそうで、

そう言う意味でも罪に問えるかは分からないという。


 あと気がふれたのはマルセルも一緒で、彼は取り調べ中に、

見えない何かにおびえて、気がふれたという。

それを聞いた時、僕はそれも例の仕業だと思った。

「ゴースト・リベンジャー」は霊の暴走を防ぐ機能はあるが、

ここでいう暴走は、憎しみのあまり対象に関係があっても、

自分たちの死に関係ない人間に手を出すことであって、

マルセルは共犯者で霊たちの死に関係あるので、この機能の例外となるからだ。

 

 だから「ゴースト・リベンジャー」はカリーナとマルセルのどちらかに、

使えばよかったが、使用時は本人に対して使わなければいけなかったので、

僕が急いだのは、二人とも捕まってしまったら、

使うことが出来ないと思ったからだ。


 なお二人の近況を聞いたのは、

裏付け捜査の為に衛兵たちがうちに来た時の事だった。

その際に僕も事情を聴かれ、証拠として残していたお裾分けを提出した。

ちなみに黒の勇者から話を聞きたいとの事だったが、

この時、それはできなかったので、

後日、鎧を着て衛兵所に、出頭して事情を説明する事となった。


 この時、捜査に当たっていた衛兵の部隊長の女性が、

僕も未遂とはいえ被害者なので、二人の近況を話してくれたが、

その際に、


「私は、あの二人を疑ってたんだけど、証拠がなくてね……」


今も、証明できるのは今回の一件だけだし、

それ以前、気がふれてしまったから、罪に問えるか分からないので、

悔しそうにしていた。

ただ罪には問えなくても、治療という事で幽閉されることにはなるらしい。


 部隊長さんには悪い気がしたけど、とりあえず家にかかわる一件は終わった。

あと二人に張り付いているのか、満足して昇天したかは分からないけど、

幽霊たちはいなくなった。僕としては、後者であってほしいと思う。


 数日後には、裏付け捜査も終わって、

ようやく落ち着けるようになった。事情を伝え聞いたのか、

サマンサさんから、謝罪の手紙が届いた。

亡き父親のホラが、今回の出来事に関わっているので、責任を感じているんだろう。

例えホラが切っ掛けとはいえ、今回の一件は連中が全面的に悪いから、

気にしないようにと、返事を書いておいた。


 そして、ララさんとの戦いで余計に話題となって、

黒の勇者として依頼が増えて、忙しくなる中で、僕は


「よーし、行くぞ」


と気合をいれて、家の掃除をする。

自分にとって唯一誇れる家事の腕を磨くのであった。

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勇者の従者ですが実は…… 岡島 @okajima

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