『たいほ』 下


 その、美しい光の渦は、ぼくの身体の中を駆け巡った。


 とは言え、とくに、何も感覚的な異常はないようだった。


 痛くも痒くもない。


 数分経ったか、というあたりで、その乱舞は終わりになり、辺りには、おそらく通常の明かり以外には、なにものも居なくなったのだ。


 だから、ぼくは、その狭い通路を、当たり前に、向こう側に歩いていった。


 長さは、五メートル、といったあたりか。


 身体がバラバラにならなかったので、大変安心はしたが、また、極めて不気味だ。


 でも、もう、向こう側の扉の前に到着するまで、もはや、何事も起こらなかった。


        ✨✨✨


 その扉は、すぐに、静かに開いたのだ。


 強烈な光が溢れだした。


 眩しくて、暫くは何も見えなかった。


 やがて、その光の洪水の中から、浮き上がる姿が沢山あることに、気がついた。


 『これは、人間さんですな。』


 そう、人間さんたちである。


 でっかい、小さい、太い、細い


 女性、男性、


 様々だ。


 みな、神々しいばかりの光りに包まれている。


 しかし、ぼくは、その背後に、一層きらきらと輝く存在を認めたのだ。


 ただし、輪郭がはっきりせず、身体が光のなかに溶け込んで行くように見える。


 頭があるのは、なんとなくわかる。


 しかし、手足などは、分離できない。

 

 そう。つまり、神を取り囲む、天使の一団というイメージになっている。


 これは、ぼくは、死刑にされ、天国みたいな場所にやって来たのか?


 否。


 お顔がぴくぴくするし、ほっぺは、やたらに、痒いぞ。


 つまり、天国などでは、あり得ない。


 突然、取り巻きたちは、拍手をし始めた。


 『おめでとう。おめでとう。』


 『え? おめでとう?』


 『おめでとうございます。あなたは、開放されました。』


 『かいほう?』


 『もはや、あなたを、こうそくするものは、なにも、ありません。』


 取り巻きの、誰かがそう話したが、誰かは分からない。


 『ごらんなさい。地球が、開放されたのです。偉大なる、神である、ドータ・ンーバ星人により。』


 突然開いた、でっかい窓から、地球が、まるまる見えている。


 そうして、見たこともない、巨大な宇宙船らしきが、宇宙空間に浮かんでいるのだ!


 すると、その神々しすぎる、何かが言ったのだ。


 『地球は、新しい時代を迎えます。我々の下で。あなた方は、支配者、神の使いとして、働くのです。それが、開放されたことに対する、代価というものです。あなたがたは、長年、不当に拘束されてきました。しかし、もう、それは終わりです。独裁者は、駆逐されました。あなたは、あなたがたは、かつてない、栄光の地位を得ます。永遠の命が、あなたにも、すでに与えられました。あなたは、もはや、神の一部なのです。』


 なんと、まあ、自分勝手な理屈だ。


 しかし、お家に帰してもらえるならば、悪くないかな。


 とも、思ったが、そいつは、とんでもないかんちがいだった。


       🍖


 彼らは、地球人を食糧として飼育した。


 ぼくらは、いわば、神の食べる仔牛たちを育てる、いや、飼育する、牛飼いにされたのだ。


 永遠の命と、引き換えに。



         🐏



 やがて、ぼくは、またしても、たいほされ、法廷に立たされた。


 光りに包まれた裁判官さんが言ったのだ。


 『はんけーつ。ひこーく、やましーん。宇宙終身刑に処すー。理由。不当に逃亡し、まったく、役に立たないため。』


 ぼくは、古い宇宙刑務所に後戻りした。


 もう、85歳だ。


 しかし、困ったことに、ぼくは、不死化されている。


 最悪だ。


 でも、地球人を食べる手伝いは、したくなかっただけなのである。


 次の支配者が現れるまで、待つしかないようだった。



            おしまい


 



         


 


 


 


 


 

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『たいほ』  やましん(テンパー) @yamashin-2

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