『たいほ』 

やましん(テンパー)

『たいほ』 上(全2話)


 これは、妄想性フィクションで、妄想的ギャグで、妄想性ほら、です。




         ・・・・・


 ある日、ぼくは、逮捕された。


 『なにもしてない。』


 という、供述が決め手になったらしい。


 裁判になり、弁護人は、過去の実績をやたら強調していた。


 しかし、ぼくは、なにもしていないのだ。



 『判決。主文。被告、やましん。宇宙終身禁固刑に処す。理由。役に立たないため。』



 やましんは、こうして、宇宙刑務所に収監された。


 特に、役務もなく、一日中寝ているだけだ。


 食事は、日に一回。夕方だけに出る。


 ただし、小型の冷蔵庫があり、飲料と、軽食が、週単位で補充される。


 テレビは置いてあるが、普段はなにも、見えない。晩に二時間だけ、刑務所放送が行われる。


 しかし、やましんが見たい、聴きたいような番組はない。


 地球首相のアップのお顔が、オカルトビデオみたいに、ひたすらに映り続き、そのありがたい説教と、地球首相讃歌が流されるばかりだ。


 音楽が良ければ、まだ、救いようがあるが、御用作詞家と作曲家の、これ以下はないような、駄作である。いや、駄作にまでも、届いてない。


 テレビは、スイッチも、ボリューム調整もできない。


 もっとも、耳を押さえて、ベッドに潜ることは可能だ。


 非常に、人道的な罰なのだ。


 おかげで、政府は、年金を、合法的に、払わなくて良くなった。



 人間の看守さんは、ひとりだけ交代で居るらしいが、一切の接触はない。


 基本業務は、すべて、ロボットさんがやっているらしい。


 けれど、その姿さえ、見ることはない。


 部屋には小さな窓が、はるかな高みにあるだけで、実際は、ほとんど、なにも見えない。


 食事は、独房内の配膳ボックスに電送される。


 もし、体調が悪くなったら、申し出たら、自動診察がある。

 

 天井から、怪しげな触手が現れて、巨大なレンズを通して診察する。(むかしの映画『宇宙戦争』みたいな。)


 それから、必要なら、お薬などが配達される。


 説明は、一切ない。


 致死性が高い病気の場合は、放置されるが、最後の痛み止めは、処方されるらしい。


 すべて、らしい。の、範囲だ。


         🤸‍♂️


 毎日一時間、運動の時間があるが、外に出る訳ではなくて(お外は、宇宙である。)天井から、様々な運動用具が現れるのである。


 ランニングマシンだったり、ダンベルだったり、鉄棒だったり、疑似スイミングマシンだったり。


 やりたくなければ、やらなければよい。


 早い話し、牢内で、受刑者がどうなろうが、だれも責任はとらない。


 入る前に、聞いた話では、8割方は、病死するらしい。


 それも、変死であるという。


 どういうことかは、わからないが、終身刑専用だから、だからどうだという訳ではない。


 遺体は、宇宙に打ち出される。


 それで、おしまいなのだ。


        🏩🛰️


 と言っても、生活環境自体は、必ずしも悪くない。


 ホテルの最低ランクのシングルくらいだ。


 空調もなされている。


 もっとも、宇宙空間だから、空調が効かなければ、お仕舞いである。


 ただし、ベッドは、ふかふかなわけではないが、最悪でもない。


 部屋のなかには、デジタル時計はあるが、困ったことに、日付は表示されない。


 仕方ないから、備え付けのノートに、小さな記録を付けた。


 だいたい、日記にするようなことは、なにも起こらないから、一冊あれば十分だが、小説とか書きたければ、机にキーボードとモニターが現れる。


 それに、2~3日ずれても、大事にはならない。


 地球につながるわけではないから、ただ、書くだけである。


 ただし、この牢獄内では、公開されるらしい。


 ここなら、何書いても、構わないし、終身刑に変わりはない。


 唯一の、息抜きである。


 他の受刑者が書いたものも、実際にある。


 かなりハレンチな、恋愛ものから、現政権に対する革命物語まである。




       📆  ~  📆



 で、記録を辿れば、11年が、経過した。


 ぼくは、75歳になる。


 もともと、無気力だから、生きていられたに違いない。


 気力の高い人なら、ここでは、耐えられないだろう。




 その、8月12日。


 なにかが、起こった。


 何が起こったのかは、さっぱりわからないが、その晩から、食事が出なくなった。


 次の日も無かったし、体調不良のコールにも、反応無しである。


 テレビも、停止になり、照明も消えた。


 時計も消失している。


 小さな非常灯だけが、ぽつん、と、点っている。


 これは、まさしく、最大限の緊急事態である。


 冷蔵庫に、多少の飲料と、お菓子の蓄えがあるが、その電源も、オフになっている。


 これならば、長く生きられるはずもない。


 ついに、終わりが来たか。


 事実上の、死刑執行だね。


 と、諦めたのである。


 これが、変死の正体か、と、納得した。


 この部屋だけの措置なのか、ぼくは、そう思ったが、もしかしたら、全体的なのかも?


 まったく、判断は付かない。


        😱☀️




  

 ところが、さらに驚くべきことが起こったのだ。


 なんと、3ヵめになって、独房の扉が開いたのだ。



 『なな、な。何だかなあ。』



 ぼくは、しばらくは、呆気にとられていた。



 しかし、いま、『出ない手はない。』


 と、やっと気がついた。


 冷蔵庫の残り物を抱えて、まずは、首を出してあたりを伺った。


 入るときは、ずっと目隠しをされていた。


 だから、事実上の、初見だ。


 独房が、円形になって、ずらりと、並んでいる。



 ぼくの、独房の上には、『コアラ』と書いてある。


 『なんと。コアラの間でしたか。適切なような。なんともはや。』


 となりは、『はだかでばねずみ』と、されている。


 全部屋が、そうした感じで、動物の名前が付けられているらしい。


 『保育園か、幼稚園かいな。』


 どうやら、全てのドアが開いているようだったが、だれも出ては来ていない。


 思いきって、ひとつづつ、中を覗いたが、なんと、誰もいない。


 『あらまあ。なんだそれは?』


 訳が分からないが、ぼくは、慎重に円形の通路をさらに歩いた。


 しかし、状況は、変わらない。


 どこを歩いてるかを示すのは、部屋の名前だけだ。


 長い間、独房の中以外は、実際に歩いたことがないのだ。


 なんとも、身体がふらふらするようで、危なっかしい。


 まさに、目眩がするようだった。


        🐨


 その、留置場の内部は、結構な広さがあるようだ。


 にも拘らず、やはり、誰の姿もない。


 音も聴こえない。


 明かりは、なんとか点っている。


 つまり、かなり、薄暗いのである。


 本来は、天井自体が、発光しているものだが、今は、ぽつぽつと、壁づたいに小さな灯りが有るのみだ。


 やはり、なにか、普通ではないことがあったに違いない。


 収用者はもちろん、ロボット看守さんとかが、きっと居るはずなのに、まったく、影も形も、その気配さえもない。


 不気味だ。


 

       🤖🤖🤖



 ぼくは、静まり返った通路を歩いた。


 『コアラ』の文字が見えたので、もう少しで、一周するなあ、と、思ったときである。

 

 監房がない一角の空間が、ぶわっと、開いたのだ。ぶわっと、ね。


 その、向こう側には、どこかに、つながる通路があって、ぼくが、その入り口に立つと、思わぬ明るい照明が入ったのであった。


 向こう側は、閉じられていて、分からない。


 通路に入りかけて、二の足を踏んだ。


 レーザー光線とか、飛び回るのではないかしら。


 むかしには、そんな映画があった。


 あれは、ゲームにしては、怖すぎだったし、トラウマである。


 とはいえ、行くしかないと、覚悟をした。


 一歩、通路に入ったとたんに、後ろのドアが閉じてしまった。


 『絶体絶命かあ。』


 天井あたりが、きらきら、と輝き、赤色の光線と、緑色の光線とが、乱舞を始めた。


 『こちらが、変死のプロジェクトかい?』


 光の色は、どんどんと、増えて行き、複雑な幾何学的模様を作り出す。


 際どいが、美しい。


 そうして、ついに、その尖端が、間もなくぼくに届くようになり、次のパターンで、襲いかかってきたのであった。


 『おぎょわあ〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️😱来たあ!』


      

        ✴️


 


 



 


 


 


 


 


 


 

 


 


 


 


 


 

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