窓辺に立つ少年
黒白 黎
窓辺に立つ少年
窓を背に片手で本を読む同じクラスメイトの窓辺君。群れるのが苦手なのか、一人孤独で本を読む寂しそうな男の子だ。
人が苦手なのかそれとも単に本が好きすぎて邪魔されたくないためなのか決まって同じ場所にいる。私が声をかけるまでは決して口を開こうとはしない無口な人だ。
今日は日差しが強い日だ。
窓辺君は日差しを背中全体に浴びるかのように居続ける。背中は汗びっしょりなのにどうして窓から離れないのだろうか。
「ねえ、どうしていつもそこにいるの?」
声をかけてみる。声をかけるのはこれで何度目なのだろうか。窓辺君は決まって私の質問をこう答える。
「別に、ぼくがいたいだけだ」
それで話が終わってしまう。よっぽどのコミュ障なのだろうか。それとも空気を読んで私が遠のくのを待っているのだろうか。悪いが私はそこまで気が弱いわけじゃないのよ。
「なに読んでいるの?」
そこまで熱中するほど読み続けたいと本能が呼んでいるのか、さりげなくその本のタイトルを見やる。
「あけの…した?」
”明けの下”そう書かれた本だ。著者はカリリナという聞いたこともない名前だ。スマホを手に著者とタイトルを探すが、ネットにはまだ記載されていない。どういうことか? これは正真正銘の本だ。窓辺君が熱心に読むぐらい相当面白いのだろうか。しかし、本の情報はおろか、なにひとつ検索ができない。
「ねえ、それってどこで買ったの?」
ネットで検索してもヒットしないのであれば、直接本人に尋ねればいいじゃない。私のアイディアに感動しながら窓辺君に聞いて見た。
「言ったら、消えてくれる」
信じられないことを言ってきた。素直に教えたら、もう話しかけてくるなと言わんばかりの強い口調で押し退けられた。彼は相当私のことが嫌いみたいだ。
「その本はどこで買ったの」
「……」
窓辺君は口を堅く閉ざした。
「私も読みたいな。どこで買ったのか教えてください」
少し丁寧にお願いしてみた。それでも口をモゴモゴとするだけで答えは返ってこない。
私が無理やりにでもその本を奪えばわかるかもしれない。だけど、それをやってしまえば窓辺君とは本当の別れ離れになってしまうし、なによりも私はイヤダ。そんな我がままで威張り散らした女のような印象を与えたくない。私は彼が教えてくれるまで待つことにした。
キーンコーンカーンコーン。学校のチャイムが鳴り響いた。昼休みの休憩が終わってしまった。窓辺君は質問の答えを言わずに教室の中へと戻って行ってしまう。
私は結局、その本がなんなのか、どうしていつも窓を背にしているのか教えられないまま、夏休みが来てしまった。
窓辺に立つ少年 黒白 黎 @KurosihiroRei
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