腹が減った

@maho-e03

第1話

夢を見た。

ごぞごそ。ガラガラ。プチプチ。

暗い中で冷蔵庫の冷たい灯りを頼りに中を探る。

ただ。それだけの夢。


いつも通りの朝がやってくる。

一人暮らし専用の少し狭いキッチンへ向けて朝食を探す為、徹夜明けの重い身体で動き出す。

「メシ。飯食わにゃ。」

ギュイィィィン 、、、

あまりの空腹に腹が捩じ切れるような痛みがする。

「何日喰ってないんだ?」

「ググゥリ」

「腹が返事してらぁ。」

ペタペタとキッチンまでの道のりを緩慢に歩く。

テーブルの上には何時だか出した汚れたままの食器がだしたままだった。よく見ると部屋中が汚い。

「アリャ。俺の部屋ってこんなきたなかったっけ?」

「グゥグリ」

腹の虫に急かされて、

寝室。リビング。洗面所をぐるりと回ってキッチンの冷蔵庫前まで急ぐ。

「ガチで腹減った」

「なんかあったかなぁ、、、?」

冷蔵庫のドアを開ける。まず初めに目に入ったドアポッケには何もない。

「えっ。」

チルド室も、冷蔵室にもない。

卵。肉。マヨネーズ。ケチャップ。檸檬汁。胡麻ドレッシング。ポン酢。お酢。そして、マヨ。何もない。本当になにも。

「マヨネーズがない!」

「グギュュ」

「俺のカロリーが。ない!!!!」

普段調味料は欠かさないようにしているはずなのに。

「待て。俺よ。きっと間違えて冷凍室に、、、」

引き出しを開けるとひんやりとした冷気が足元に伝う。

「ない!」

「グギュン」

「そうだよな。冷凍庫にあるはずがない」

「うん。そうだよ。やっ野菜、野菜室になら。」

一番下の野菜室を恐る恐る開ける。

「、、、。」

あまりに自分の生活力がないせいで膝から崩れ落ちる。ない。なにも。

「ググゥ」

「五月蝿いなぁ!」

ふとと気がつく。音が。自分から聞こえない。

“背後”から聞こえてくる。

「グゥグルル」

音は確かに自身の後ろから聞こえる。確実に真後ろにいる。

服の生地越しに何かが背中を押した。

「待て待て待て待て!!!!」

その力は一瞬で俺を冷蔵庫へと押し付ける。いや。正確には、空いた野菜室の中に吸い込まれるように身体が消えていくのを感じる。

「うおォォォォォォ!!!!」


目が覚めると。そこには白い天井があった。

起きあがろうとするとパキパキと音がなる。自分の下にはクッションのように幾つもの骨がある。

「ァ、、、。うぁあぁぁぁ!!!」

ガラガラと骨の山を降りる。

「なんだこれ!」

「まさか。人の、、、」

山から骨を抜き取る。

「ぁ。コレ魚の骨、、、?」

 「シィ、、、」

「うん?」

 「シィィ、、、。」

「黙れってことか?」

 「、、、。」

「、、、 、、、。」

ガラガラと音がした。骨の山が山頂から凹んでいく。骨が落ちていく。

俺はただ何が起こっているのか分からず、呆然と骨が減っていくのを眺めていた。

骨の山が姿を消して見渡しが良くなる。

とてつもなくこの部屋が広いこと。所々に彫刻があること。困惑していると、、、。

軽快なリズムが聴こえる。

タタタッタッタ タタタッタタッタッタ

ゴゥンゴゥンと音が辺りに響き、骨の山があった場所に丸い穴が開く。

絶えず音は聞こえ穴から何かが出てくる。

円形の台。

パチパチとスポットライトが台を照らす。


 「ヘェイ?」

「、、、。、、、??」

 「ヘェェイ?」

「、、、?」

 「ヘェェェイ?」

「、、、ヘイ。」

 「イェェェイ!!!!!」


何かが台の上に舞い立つ。

キノコ、、、。キノコだ。

キノコに筋肉が生えている。

いや、筋肉にキノコが生えている。

「あ、あの」

 「シィィィ!」

「、、、」

陽気なリズムが流れ始め、その度にキノコがポーズを決める。

肩で山を作る。

前屈みになり、胸筋を左右に動かす。

斜めに身体を構え、筋肉を見せびらかす。

何度も同じポーズをとり、時間が過ぎていく。

気が済んだのかポーズをとったまま静止する。

「あの。」

 「ゥン?」

褒めてくれと言わんばかりに筋肉を動かす。

此処はどこかと問おうか迷ったが、暴れられては困る。足の筋肉を見る限り、絶対に足が速い。

「ス、ステキな筋肉ですね。」

 「、、、。」

「カッ肩にトラック乗ってるよ!」

 「、、、。」

「肉詰まり過ぎ!密です!」

 「、、、。」

「筋肉は密でいい!」

 「イェェェェェェイ!」

瞬間、奇声をあげ筋肉キノコは俺めがけて走り出す。

「ェェエ!!!」

がむしゃらに走りだし、彫刻を上手く利用し逃げる。

彫刻は倒すたびに陶器が割れるような音がする。その度に筋肉キノコが「ヘェェェイ」と奇声をあげ、俺を追ってくる。

捕まればあの筋肉に締め上げられるとヒシヒシと恐怖を感じる。

走って、走って、走り続ける。

扉を見つけ、走った勢いのまま扉を蹴破り外へ出る。


「へ?」


地面を求めて踏み込んだ足は空をきり滑り台のように落下していく。



「ギュウギュルル」

音が聴こえ目が覚める。

~夕飯~

俺は席に座って白い皿の上にそれを置いた。

嫌いなキノコとオレンジに包まれた魚肉ソーセージ。キノコを醤油で炒めたものに魚肉ソーセージを置く。

「両方嫌いだけど、、、」

「今日は特売だった。しゃーなし。」

「マヨネーズ掛ければなんでも食える!!」

マヨネーズの蓋を開け放ちたっぷりと掛ける。

「味がしない。」

思考が暗転する。


「キラィイイ?キライ!」

「クエルゥ!クエル!ソノママクエル!」

プチプチと何かが弾けるおとがする。


思わずベッドから飛び起きる。

背後に不気味な生物がいた。

魚肉ソーセージが、魚雷のように浮遊している。左右にソーセージでできた手があり、魚のように泳いでいる。

「ぅ」

逃げなきゃ。今すぐに。ここから!

「うわぁぁぁ!」

バタバタと逃げる。背後から魚肉ソーセージが何かを発射する。ソーセージだ。

しかも、オレンジの包装がむかれておらず、銀の突起が鋭利に殺意を表している。

寝室をでて、リビングに向かう。

ただ漠然とリビングへ向かわないといけない気がした。

絶えず、攻撃は止まなかった。さらにバターで炒められた香ばしいキノコも混ざり、腹が減った。

面倒だが、洗面所を通ってキッチンまで突っ走る。

冷蔵庫を開け、いつも通りに咄嗟にアレを掴む。

「くらえ!!!」

「マヨビームじゃ!ばかぁ!!!」

赤いチューブから黄味を含んだ白い線が円を描く。


「タベテ。タベテ!」

「オイシクタベテ!!!」

「、、、。」

「美味しかったよ。(マヨネーズが)」

「ご馳走様!!!」


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