第14話「もう逃げはしないさ」








 結論から言うと、今回の『デモ計画』(後にそういう名前がついた)での入部は俺以外は0だった。

 まあそれはそうだろう。

 今回の計画のせいで更に様々な噂がついてしまい、ハンドメイド部は正式に『ヤバい部』と呼ばれるようになったのだから。

 とにかく、この計画での成果と言えば後日、新聞部が記事にしたことくらいだろう。









「…それでお兄ちゃんはハンドメイド部で何作ることにしたの?」

「とりあえずはビーズだな」

「え、似合わな?」


 登校中、朝の澄んだ空気は妹の大声をとてもよく響かせた。

 そこまで声を出さなくてもよくないか?


「意外に面白いぞ、ビーズだけでも色んな名称のものがあってな、俺が面白いと思ったのはガラスビーズでな…宝石のように見えて実はガラスだってことにも驚くがもっと凄いのは色々なカラーや大きさが売っていて―――」

「もうわかったから!」


 そう叫び、妹はしかめた顔で俺の背を叩く。

 そこまで嫌な話だったのか?

 と、妹が嫌気から俺を置いて行こうとした、そのときだ。


「―――あれ~、フランケンくんじゃ~ん」


 背後から聞こえてきた声に振り返るとそこには上居。

 と、ついでに間丈、大神に南野の姿まであった。


「…ハンドメイド部は総出で登校するルールでもあるのか…?」

「僕とハルさん、ライさんは同じ電車通なんで」

「…俺は偶然出くわして強引に連れられただけだ……」


 騒がしい面々に巻き込まれ、如何にも嫌そうな顔をしている南野。

 流石にその心中は察してやろうと、内心同情していたときだった。


「えええええっ! か、上居先輩~っ!?」


 と、奇声をあげながら瞬く間に顔を紅くしていく妹。

 始めて見たそんな妹の横顔に、流石の俺も動揺を隠せない。


「そうそう、フランケンくんの妹の稚菜ちゃんだっけ? 話は聞いてるよ~」


 いつもの調子の上居に対し、しどろもどろな様子でいる妹。

 結局大したことも言えずじまいで。


「と、ともだ、ち…友達と行くから…!」

「あ、おいっ!」


 そう言い残すと妹は俺を置いて、逃げるようにすっ飛んで行ってしまった。

 残された俺は、いつもならばここからは一人で登校することとなる。

 のだが。


「じゃあせっかくだからフランケンも一緒に行こうぜ?」

「せっかくって…後数分で学校の距離だろ」

「数分でも一緒に行くのが楽しいんですよ。フランケンくん」

「…フランケン先輩は『ぼっち』だからそういうの知らないんすよ」


 マイペースに、賑やかに、爽やかに、辛辣に、それぞれそう言って俺を強引に囲っていく。

 悪かったな、野球以外に友達がいなかったやつで。

 そう反論しながら俺は、仕方なくこいつらと共に登校することとなった。








 こうして俺は晴れてハンドメイド部員となり、この計画以降は何も騒動もなく、ゆるく部活動生活を送る―――。

 と、思っていたが。それは大きな間違いだった。

 噂や騒動の結果、ハンドメイド部は『賑やかしには最高の部』という風に知れ渡ってしまったらしく。

 この後、本当に町おこしのハンドメイドディスプレイを依頼されたり、学校祭では何故かファッション部とショー対決をしたりするはめになる。

 俺の日常は随分とうるさく騒がしくなってしまった。

 それもこれも、特徴的な部員たちのせいでもあるのだろうが。 

 ―――だが、そんな彼らが作り出す作品は繊細で美しく、何よりも感情が込められている。

 そんな思いやりが伝わるこのハンドメイド部を、俺は嫌いにはならない。

 冷ややかな視線を受けることも多くなるが、もう逃げはしないさ。

 この部の奴らと一緒なら、まあなんとかなると思えてしまうからな。

 







 ~完~







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ハンドメイド=ハンドメンズ 緋島礼桜 @akasimareo

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