第13話「よろしく頼むぜ、フランケン!」








 爽やかに微笑む大神。

 停学にはならない、と何故断言できるのか。


「だって許可貰ってますから」

「はぁ?」


 そんな素っとん狂な声を出してしまったのは俺だけではなかった。

 この場にいた皆一同、驚きの声を上げていた。


「どういうことだ?」

「校長先生と生徒指導部の水谷先生、それと生徒会からも承諾は得てます」





 大神の話を聞くに、今回の作品展示は『町の活性化に繋げるディスプレイのためのデモンストレーション』と、説明したのだそうだ。


「僕らが藤斗美町の特産品を模して作ったハンドメイド作品や美術部、書道部などの作品を商店街などに展示して貰うんです。そうして町中を展示場のように魅せつつ、それが町の活性化になれば…と。それで今回、7月の学校祭までのお試しということで校内展示を許可して貰ったわけです」


 俺は思わず上居や南野に視線を送る。

 そうだったのか? 

 と、いう疑問の目に二人は頭を振っていた。


「その通りだ! 俺がそんな行き当たりばったりで計画を立てるわけねえだろ?」


 一方で自信満々に全てを知っていたという顔でいる間丈。

 さっきと言っていることが全く違うのだが、それを質問するのは野暮なのだろう。


「え、ちょっと待って…許可貰ってるなんて私、聞いてない…」

「はい。サプライズ計画で驚いて貰いたくて一部の教職員には説明して貰ってません」

「え、ちょ…えっ?」


 大神の言葉に尚更動揺する河村先生。

 顧問なのに何故、と思っているところだろうが。

 大神は「河村先生は顔に出てしまいそうだったんで内緒にしておきました」と、断言した。

 河村先生、確かに顔に出てしまいそうだもんな。可哀想に河村先生。


「待て…俺たちにも内緒だったのは何故だ…そう説明して貰っていた方が色々と都合が良かったんだが……」


 俺はあんな反対しなかったし、上居と南野だって安心して計画に取り掛かれただろうに。


「だって…驚かせるのも驚くのも大好きなんで。それに言ったはずですよ、大事にはならないって」


 そう言ってみせる大神の笑顔に、これまでになく憤りを覚えたのはこれが最初のことだろう。

 他の二人は怒りを通り越して呆れているようだが。

 つまり―――俺は大神の掌の上で、間丈によって思いっきり振り回されていたらしい。

 そう思った瞬間、それまであったはずの怒りが一瞬にして引いていく。

 これが諦めた、ということなのだろう。





「ま、これでお咎めなく部員もだっぱだっぱ入部しまくりだ。やったな!」

「俺としては今のままでも良いけどね~」


 と、上居の視線が俺へと向く。

 そう言えばテスト期間が明けた後、入部すると言ってしまっていたな…。


「富良野くんが入れば丁度5人。部活動ギリギリ続行っしょ」

「え、富良野くん入部希望者なの?」


 目を丸くさせる河村先生に、俺は思わずしどろもどろに答えてしまう。


「あっ、と…まあ、希望しようかと思ってます」

「じゃなきゃこんなとこにいないでしょ、この人…」


 と、辛辣に突っ込みを入れたのは南野だった。


「お前は……入部するからには一言言わせて貰うが、若輩者とはいえ一応先輩を敬って欲しいのだが」


 思い返せばまだ南野からは敬語どころか名前すらちゃんと呼ばれた記憶もないのだ。

 すると南野は暫く黙った後、「じゃあ」と言って答えた。


「…フランケン先輩で」

「なっ…!?」


 その呼び名は―――あまり好きではないのだが。


「お、いいね~。じゃあ俺もフランケンくんて呼ぼうかな」

「いいですね、フランケンさん」


 まさかの『フランケン』が、ハンドメイド部内で浸透していく…。


「よーし、そんじゃあこれからも校内最高の部活を目指して! よろしく頼むぜ、フランケン!」


 しまいには間丈までその呼び方…。

 俺はいつの間にか頭を抱えていた。


「―――よろしく頼む、が…今回みたいな騒動はもうこりごりだぞ…」

 

 だが同時に、俺は無意識に苦笑を浮かべて、そう答えていた。







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