第12話「ハンドメイド部にはある!」








 翌週からの中間テストは…正直高得点だったとは思えない結果だった。

 というのも、テスト本番中であるというのに俺は随分とハンドメイド部に駆り出されてしまっていた。

 初心者であるというのに『初心者向けだから』という理由で色々と計画の作業を押し付けられてしまったのだ。

 おかげで一夜漬けしたかった教科も出来ず、毎夜ビーズアクセサリー作りに勤しむ始末だった。

 だが…それでも他人に期待され任されたのが久々だった俺は、懸命に作っていた。

 思っていた以上に作業が細かく苦戦もしたが、色々と楽しかった。





「―――思っていた以上に、いい出来じゃねえか!」

「本当に、意外と器用なんですね」

「意外は余計だ」


 中間テストの合間、出来上がった作品は間丈たちのもとへ持っていった。

 部室は期間中使えないため、こうして屋上に集まって。

 『計画』への作戦会議を行っていた。


「大体のパーツは揃いましたね」

「そんじゃあ後は実行に移すだけだな」

「どんな結果になるか…あんま想像したくはないっすけど…」

「とりあえず楽しんどけば勝ちっしょ?」

「…俺は胃に穴が開きそうだ」


 それぞれの思い、言葉を胸に。

 そうして俺とハンドメイド部は、テスト期間が明けた月曜日の早朝—――。

 計画を実行した。









「おい慎重に運べ、落としたら台無しだぞ?」

「ごめんごめんって~」


「富良野さんがいると順調に事が運びますね」

「お前たちが適当でふざけて怠けて何もしなさ過ぎだからだろ…!」

「富良野くんが真面目過ぎなだけだけどね~」


「そういや…このパーツは何処に飾るんすか…?」

「そりゃアレだ、適当にこの辺で―――」

「じゃない、この箱の中はあっちに飾るようまとめてある。それとビーズは接着されてあるとはいえ繊細に扱え」

「怖…教師かよ」

「教師というより母親感、ですね」

「誰がオカンだ」





 こうして俺たちは計画を実行した。してしまった。

 誰が見ても悪ふざけと思うようなことを。大真面目に。

 だが、そう思われるくらいが良いと間丈は言っていた。

 何せこれは自分たちの存在ハンドメイド部をアピールするための悪足掻き―――ノケモノたちの悪戯なのだから。

  







 その日の朝は案の定、玄関前は騒がしくなっていた。

 それは当然だろう。

 先週末までなかったソレが、突如玄関いっぱいに飾られているのだから。

 ソレとは―――ビーズや編みぐるみ、編みかごやレジン、銀粘土や樹脂粘土で作った作品の数々だ。

 俺らは早朝、体育系部が登校してきた後、素早く作品を生徒玄関に飾った。

 ガラス戸や下駄箱の側面、天井や通路の掲示板までも利用して。

 そしてただ飾るだけではなく、作品にテーマを持たせた。


「すごくない? このクマのあみぐるみって勇者ってこと?」

「粘土のモンスターとか可愛いー」

「じゃああれが宝箱の財宝ってことじゃない?」


 甲高い声を上げ楽しむ女子生徒たち。

 俺たちがバラバラの素材で作った、一つのテーマ。

 それは『RPG』だ。

 ファンタジーの世界を題材に編みかごで作った馬車や銀粘土の武器、レジンやネイルアートで呪文や幻想的な雰囲気を描き、勇者も姫も魔王もあみぐるみで編んだ。

 そして掲示板にはハンドメイド部のメッセージ。


『貴方が楽しむための夢が、ハンドメイド部にはある!』


 どんと大きく書かれた張り紙一枚を貼った。

 ―――そう、これは随分と大掛かりで真面目とも悪あがきとも言える、悪ふざけな部活紹介だった。

 まるで、お菓子をくれなきゃ悪戯するという怪物たちのような。




 俺らの一世一代な計画に対し、反応は様々だった。


「すごー」

「かわいー」


 そう言って思わず足を止め目を奪われる者もいれば、写真を撮っている者たちもいた。

 

「きもっ」

「ヤバいってこれ」

「なんでこんなことしてんの…意味わかなくね?」


 が、中には素通りする者もいれば、意味もなくソレらを壊す者もいた。





「―――あなたたち、あんなことしでかしてどういうことなの!? バカなの?」


 だがやはり誰よりも激怒していたのはハンドメイド部顧問である河村先生であっただろう。

 俺たちは今、授業時間中であるというのに家庭科第2準備室に呼ばれていた。

 俺は仮入部という立場ではあるが、計画に加担したため自主的に来ていた。


「バカ、だなんて暴言言っちゃやだな~、それにそんな怒ると可愛い顔も台無しだよ~」

「え、ありがとー…って今はそういうことじゃないの、上居くん!」


 今年度からハンドメイド部顧問に割り当てられたばかりの教員で、当然彼らの計画は教えられておらず。

 驚きの余り顔を真っ青にして、今にも倒れてしまいそうになっている。

 まあ、新学期早々こんな騒動に巻き込まれればそうもなるだろう。

 同情したくなる気持ちもある。


「しょうがねえだろ? 裏切り騒動のせいで部活動勧誘も大してする暇なかったし、部員が減ったから部活動じゃなくなるって言われるしで…だったらド派手な部活動紹介した方がさ、部員来るかもしれねえだろ?」


 ちなみに間丈の言う『裏切り騒動』とは、ハンドメイド部員数名がファッション部へ鞍替えした例の噂のことを指すらしい。

 どんな事情があったかは知らんが、こんなことをお気楽に考えてしまう部長だからな……確かに普通は付いて行きたくはないだろう。

 

「だからってして良いことと悪いことがあるの! 許可もなくあんな派手に飾り付けしてお店のディスプレイじゃないんだから……」


 そう言ってため息をつく河村先生。

 まあ出来は良かったけど、とひっそりと呟いてくれたところを見るに、ノリの良い先生ではあるようだ。


「後で生徒指導の水谷先生からも話があるって言ってたわよ」


 水谷先生は野球部の顧問担当でもあり、俺を休部として引き留めてくれた人でもある。

 この現状を見たら、水谷先生はさぞ落胆することだろうな。

 それだけは俺としても心残りで残念ではある。

 だが、後悔はない。

 それが例え停学処分になるとしても―――。


「停学にはなりませんよ」


 そう口を開いたのは大神だった。

 





  

 

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