第52話 告白ー6
どこをどう通って家に着いたのか分からない。帰ったんだから、考えて家まで着いたんだろう。でも道を選んで歩いた記憶がない。
玄関から家の中に入った途端、涙がどっと溢れた。
「アン、どうしたの?」お母さんがわたしの顔を見て言った。
涙が止まらず、言葉が出ない。
「そう……、何があったかは聞かないわ」
お母さんがわたしの肩を抱いて、
「とにかく、上がって自分の部屋に行きなさい」
「お母さん……」お母さんの胸に顔を埋めた。お母さんの胸はわたしの涙で湿ってしまっただろう。
お母さんに肩を抱かれて、ゆっくりと体を押してもらい部屋に入った。
「じゃ、しばらく一人でいなさい。夕食は食べた方がいいわよ。声をかけるわ」と、お母さんは部屋から出て行った。
しばらく涙が止まらなかったが、段々とそれも収まってきた。
「アン、ご飯食べましょ!」お母さんが呼びにきた。
椅子に座った。
お母さんがテーブルに料理を並べていくのを、何も考えられずにぼんやりと眺めていた。
「お父さんは?」
「今日も遅いって」「さあ、食べましょ」
食欲がないけれど、私の好きなおかずを用意してくれていた。
何も言わずに食べていると、お母さんが聞いた。
「話したくなければ話さなくていいけど……どうしたの? 拓海くんと何かあったの?」
しばらくそのまま食べていた。そんな私をお母さんはじっと見ていた。
「お母さん」
「拓海くんと戸越銀座の商店街をずっと一緒に散歩して、お腹が減ったのでパスタ屋さんに入った」
「〝KURA〟?」
「うん」「そのあと、二人で公園に行った」
「公園?」
「うん、商店街を少し横に入ったところに、滑り台が一つの寂れた公園があるでしょ」
「ああ、あそこね。分かった」
「ベンチに座って、拓海くんに『好き』って打ち明けたの」
「そう。それで?」
「高校に西城美奈子って子がいるんだけど、拓海くん、美奈子に付き合って欲しいって言われてるんだって」
「ふーん、それで付き合ってるの?」
「まだ、付き合ってはいないみたい」
(そう、付き合っているとは言ってなかった)
私をじっと見ていたお母さんが言った。
「もしかして、その話を聞いて『さよなら』って帰ってきたんじゃないわよね」
「えっ」
お母さんがため息をついた。
「あんたって子は……」
「拓海くん、アンが打ち明けたことに何も答えていないんでしょ。それから、美奈子って子と付き合うとも言ってないんでしょ」
「うん、そうだけど……」
「だったら、アンと付き合うかも知れないでしょ。しっかりしてよ!」「あたしだったら、絶対にあきらめない!」
(お母さんはそんな感じだ)
「でも、好きって言ったのに拓海くんは……」
「拓海くんは? 何て言ったの?」
「びっくりしたって。ありがとうって言うべきかなって」
「そらみなさい。『困る』って言ったんじゃないんでしょ」
「うん、そうだけど……」
「『うん、そうだけど』。その言葉、さっきも聞いたわよ」
「アン、あたしの感覚だけど、拓海くんはきっとアンを好きになる」
「感覚?」
「そう、感覚。でも、あたしの感覚はすごいのよ」
お母さんの押しがすごい。何だか、泣いて帰ってきたのが何故って思うくらい。
「お母さんの感覚は分かった。少し元気が出てきた」「部屋でもう一度考えてみる。陽菜とさくらにも相談してみる」
「そうね、そうしなさい」「お母さんはいつでもアンの味方だからね」
「うん、ありがとう」
部屋に戻った。
お母さんの元気に救われた感じだ。そう、拓海に断られてはいない。断られてはない。
陽菜とさくらにLINEグループでメッセージを送った。
私 :陽菜、さくら、拓海くんに告白した
少しして二人から返信があった。
陽菜 :告白? やったじゃん、アン
さくら:拓海くんを好きだったの?超びっくり
私 :陽菜は感づいてたよね
陽菜 :うん。それで? どうなったの?
私 :拓海くん、美奈子から付き合って欲しいって言われたんだって
さくら:美奈子? あいつう
私 :断られたわけじゃなかったんだけど、美奈子のことを聞いて、さよならって帰ってきちゃった。でも、よく考えたら美奈子ともまだ付き合っていないみたい
陽菜 :帰ってきたってのは、アンらしいって言えばらしい
さくら:美奈子なんかに負けないでよ
私 :もう一度アタックしてみる
陽菜 :アンなら大丈夫
さくら:がんばれー
私 :二人とも、ありがとう!
アンとじい ~幻想のDISCO~ 井川純 @ann12_df
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