第51話 告白ー5

「おまたせしました」

「カレー味はこちらですね」と拓海の方に〝きのことソーセージ〟のパスタが置かれた。

「お客様は和風ですね」

「はい」

私の前には〝ツナとベーコン〟のパスタが置かれた。


「じゃ、いただきます」、拓海に続いて私も

「いただきます」と言った。

拓海は美味しそうに、ほんとに美味しそうに食べていた。

嬉しそうな拓海を見るだけでも私は幸せを感じていた。

「アン、どうしたの? もしかしてあまり美味しくない?」小さな声で拓海が言った。

「ううん、美味しいよ」「私のも少し食べてみる?」

「うん」

店員さんに取り皿をもらって、私のパスタを少し取って拓海に渡した。

「おー、和風も美味しいね」

「大盛りにすればよかった」と、拓海は失敗したっていう感じだ。


 パスタを食べ終わり、飲み物が出された。私はミルクティー、拓海はカフェオレ。

飲んでいた拓海がカップを置いて言った。

「アン、これからどうする? 何か話があるんでしょ」

「うん。この先を曲がって少し行くと小さな公園があるから、そこに行かない?」

「公園? うん、いいよ」


 二人で別々の会計をして、パスタ屋さんを出た。

少し先を左に曲がると、緩い坂道がある。この道を少し行けば公園だ。

拓海のどう話そうか、私は会話がなく、二人で歩いていた。

拓海も、私の様子を感じて、黙っていた。


 公園は、相変わらず誰もいない。普通なら子供が遊んでいてもいい時間だが、この公園はいつもそうだ。閑散としている。

「あのベンチに座りましょう」

「うん」

二人で並んでベンチに座った。ベンチの冷たさがお尻に感じる。


 しばらく二人とも黙っていた。重苦しい空気が流れていた。

「アン……」

「うん? えっと……」

(話さなきゃ、話さなきゃ)

「拓海くんさ、今、誰か付き合ってる子がいるの?」

「おー、何? 急に。びっくりした」

「いるの?」

「うーん……いないよ」

少し間があったのが気になった。

「この前、学校の帰りに美奈子と二人で歩いてたでしょ?」

「ああ、あの時ね」

「美奈子と付き合ってるの?」

(何でこんなこと聞いたんだろう)

(わたし、馬鹿だ)

「ごめんなさい、変なこと聞いちゃった」

「アン、何か変だよ。どうしたの?」

お母さん、薫さん、そしてじいちゃんの顔が浮かんだ。

(言わなきゃ)


「わたし……わたし……、

心臓が爆発してしまいそうだ。鼓動が拓海にも聞こえているかと思うほど、バクバクしている。

拓海は驚いた顔をして、しばらくして言った。

「びっくりした……とにかくびっくりした」

「初めて会った日から好きだった。拓海くんは感じていなかったと思う。ずっと隠していたから」

「そうか……」「何て言えばいいのか、ありがとうって言うべきなのか……」


 鳥の声がする。風が葉を揺らしている音がする。

二人の口からは何の音もなく、時間だけが経っていた。


 拓海が口を開いた。

「さっき、誰とも付き合っていないって言ったでしょ」

(え、いやだ)

「実は、美奈子に付き合って欲しいって言われてる」「返事はしていない」

「えっ、美奈子から……」

拓海と美奈子が仲良く歩いていた姿を思い出した。

駅の階段での美奈子の顔を思い出した。


 美奈子は、私が拓海を好きなこと、分かっていたのかも知れない。

「そう、そうなのね」「美奈子が……」

あの時も感じた、イヤな感情が私の心で大きくなった。そう、嫉妬心だ。何てイヤな感情なんだろう。

「拓海くん、分かった。今日はありがとう」「わたし、帰るね」

「えっ、アン、ちょっと待って」

拓海をベンチに一人置いて、足早にその場を離れた。

「さよなら」


 早くこの場所から、この感情から、解放されたかった。

拓海は呆然としているようだった。

じいちゃんの顔が浮かんだ。






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