第50話 告白ー4

 一番端にある店は「巨人のシチューハウス」。外からも見えるけど、背の高い外国人のシェフがほんとにいる。お父さんは食べたことがあるみたいで、「美味しいよ」って言ってた。

拓海が店の中の方を見て

「ほんとだ。巨人がいた!」って楽しそうに言った。


 左には「翁(おきな)」というお蕎麦屋さんがあり、そこから少し戻ると「SOLCO」という〝塩の専門店〟がある。

「ここは自分の好みの塩を見つけられるみたい。おにぎりもあるみたいだよ」と私が言うと、

「おー、食べてみたい」

「後でランチするんだから、またにしましょ」

「そうだね……」


 少し行くと、左側に「かたばみ精肉店」がある。ここは、戸越銀座に来る人がコロッケを買って、いつも立ち食いしている。

「コロッケ、食べたい」

「我慢我慢、拓海ちゃん、我慢よ」と子供を諭すように私が言った。拓海はほんとにお腹が減ってるんだろう。辛そうで笑ってしまった。

「なんだよ。おかしくない」、拓海が頬を膨らませた。

「うん、おかしくない。ぷっ、アハハ」壺にはまった。


 右側には「Gallery KAMEI」という宝飾店がある。

「ここのご主人は戸越銀座商店街を発展させた人みたいだよ」と教えた。

「ふーん、そうなんだ」

「ご主人の亀井さんのおじさんは有名な画家で、商店街のアーチの〝戸越Ginza〟っていう漢字が入る文字はその人のデザインだって」

「へー」

「戸越銀座って他にも有名人いる?」

「ショートストーリーの星新一さんのお父さんは、近くにある星薬科大の創立者、あと、ギタリストのCHARさんが住んでる」

「なんか、凄いね」


 なぜだろう。今日は素直に拓海と話が出来る。打ち明けようと決めたからすっきりしているのかも。自分のことだけど良く分からない。


 三分くらい歩いただろうか、「おつけもの慶」がある。ここはイカキムチが人気。

「また、食べ物。地獄は続く」「さっき、鹿児島ラーメンのお店もあったよね」

拓海が可愛そうになってきた。


 戸越銀座商店街は三つのブロックに別れていて、「巨人のシチューハウス」から「おつけもの慶」までが「銀六会」、横道が商店街を貫き、「MEAT&DELI365」というお肉屋さんから中央街が始まる。お肉屋さんの隣は「後藤蒲鉾店」、いつも店頭でおでんを売っていて、お店の横に食事できるスペースもある。

考えたら、食べるところばかりかも。


 小籠包のお店、米粉のパン屋さん、カレーの「ナマステ」、おにぎりやさん、豚丼屋さん、唐揚げ屋さん、プリン屋さん、海鮮丼屋さん、中華料理の「百番」、鳥白湯のラーメン屋さんなど、拓海がそのたびに食べたそうな顔をするけど、それを無視して、背中を押しながら歩き、ようやく第二京浜国道まで戻った。


 国道を渡ると、コージーコーナー、パスタ屋さん、カレーパンの専門店、中華料理の「日高屋」、マクドナルドなどが、また所狭しと連なっている。

「アン、もう無理。どこか入ろう」、拓海は限界を超えたみたい。

「分かった。じゃあ、パスタ屋さんにする?」

「うん、いいね」


〝KURA〟というパスタ屋さんに二人で入った。


 「奥のテーブルはいかがですか?」と店員さんに言われて、二人で向かい合って座った。

拓海はようやく食べられるって感じで嬉しそう。

「さあ、何食べよう。アンは?」

「どうしよう?」

パスタの種類は豊富で迷ってしまう。

(ペペロンチーノはだめだよね)

「へー、カレーのパスタもあるんだね」と拓海が言った。


「決まったよ、アンは?」

「私も決まった」

「ぼくは、カレー味で〝きのことソーセージ〟」

「とうがらしマークが二つあるわよ、大丈夫?」

「大丈夫」

「じゃ、わたしは和風の〝ツナとベーコン〟にする」


 拓海が店員さんを呼んだ。

「カレーのきのことソーセージ、もう一つは和風のツナとベーコンをお願いします」

「はい。お飲み物はよろしいですか?」

「アン、どうする?」

「私は食後にミルクティーをください」

「ぼくはカフェオレを。同じく食後で」

「はい、少々お待ちください」


 待っている間、わたしの心臓の鼓動が段々と大きくなっていくのが分かった。

(いつ打ち明けようか)


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