第49話 告白ー3
薫さんが言った。
「浩二さん、きっと応援しているわよ。自分の気持ちを大切にしなさい」
「おじいちゃんもお母さんも薫さんも……はい、自分の気持ちに正直に行動します!」
「頑張れー、ファーイトッ!」、薫さんが少女のような声をあげた。
つい、笑ってしまった。
「あら、変だった?」
「いえ、薫さん、ありがとうございます」
そのあと、文化祭のときの話などをして、一時間ほど雑談した。
薫さんと話せて良かった。お母さんのお母さんという血のつながりからなのか、子供の頃からいつも話していたような錯覚に陥っていた。
「夜はどうするの? うちで食事でもしていく?」
「ありがとうございます。でも、そろそろ帰ります」
「分かった、気を付けてね」
玄関を出て、門のところまで薫さんは見送ってくれた。
「薫さん、ありがとうございました。勇気が出ました」
「そう、良かった」「頑張ってね!」
「はい」
「続きを聞かせてね、楽しみに待ってるわ」
「分かりました」
薫さんの家を出て、尾山台駅に向かった。来たときと同じ商店街だけれど、なぜか華やいで見えた。
心はウキウキとして、自分の未来が明るくなる予感がしていた。
「お母さん、ただいま」
「お帰りなさい。どうだった?」
「楽しく話せた。薫さんの家、豪邸だった」
「そうなのよ。高級住宅街よね」
「薫さんにも言われた。拓海くんのこと、『自分の心に正直に』って」
「そう。おじいちゃんもきっと見てるわ。頑張れ!」
「うん」
夕飯を食べたあと、部屋で拓海にLINEを送った。
私 :「明日の土曜日、時間取れる?」
少しして、返信がきた。
拓海:「大丈夫だよ。どうかしたの?」
私 :「大した話じゃないけど、明日。戸越銀座の駅で十一時待ち合わせ
でどう?」
拓海:「戸越銀座、十一時ね。了解」
やり取りのあと、胸がドキドキして熱くなっていくのを感じていた。
(ちゃんと話せるかな?)
(アン、あなた大丈夫なの?)
(自信ないけど、大丈夫)
その日はなかなか寝付けなかった。
次の日、朝食を食べながらお母さんに言った。
「お母さん、今日、拓海くんと会ってくる」
「あら、さすがアン。行動が速いわね」
「茶化さないでよ」
「茶化してないわよ。頑張ってきて!」
「うん」
「どこで会うの?」
「戸越銀座で待ち合わせた」
「分かった。じゃ、お昼はいらないわね」
「うん」
気持ちが先走っていて、早く着いてしまった。十一時にはまだ三十分あったが、戸越銀座駅の改札前で待っていることにした。駅のホームや改札は木材をふんだんに使った造りで、確か2016年にリニューアルしたはず。私はこの木の感じが大好き。
関東の中ではかなり長いと言われる商店街の真ん中に、駅と踏切があるのも珍しいかも知れない。池上線は商店街を突き抜けて走っている。
十一時五分前、カンカンカンと踏切の警報が鳴った。五反田方面からの電車がホームに到着し、拓海が電車から降りたのが見えた。改札を出る前に目があって、手を振った。
私は白のモフモフのニットセーターに赤のミニスカート。自分では決めてきた。合わせた訳ではないけど、拓海は白の厚手のトレーナーだった。
改札を出てすぐ
「待った?」と拓海が言った。
「ううん、全然、待ってないよ。来たばかり」
「なら、良かった」「白のお揃いだね」と拓海が笑った。
私は拓海の笑顔が好きで、見るたびにドキドキする。
「アン、どうする?」
「最初に商店街を端から端まで歩いてみない?そのあと、どこかでランチ」
「いいね、楽しそうだ」
「じゃあ、三ツ木通りの方にまず行きましょ」
「オーケー」
駅から歩いて、これも商店街を分断している第二京浜国道を渡ると、リサイクルのお店が通りの両側にある。
「あれ、前からこんな店だっけ?」、拓海が聞いた。
「もう結構経つと思うけど、右側はBOOKOFFで、左は「かごの屋」っていう、しゃぶしゃぶも食べられるお店だった」
「そうだよね、ふーん、今は同じようなリサイクル店が両方にあるんだね」
拓海は不思議そうだった。
「店を楽しむのは、端まで行って、戻ってくるときにしましょうよ」
「そうだね、じゃ、一気に駆け抜けよう」
「ええっ、それは無理。速足で行きましょ」
「了解」
二人で速足になり、抜きつ抜かれつ(周りの人が変な目で見てた)しながら、戸越銀座商店街の外れまで行った。その先は三ツ木通りという通りだ。
「さあ、端まで来たよ。ゆっくりと戻ろう」と、拓海が言った。
「うん」(何だか楽しい)
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