第36話

ダンジョンの入り口で楓は腕を組みながら、

指をトントンとしていた。


(もう!まだなの?遅いわね!)


そう思い、少しソワソワしながら待っていると、

遠くの方に此方へ走って来る人影が見えた。

それがレイルだと分かると、気持ちが高揚するのがわかった。


「レイルー!遅いわよ!

いつまで待たせるつもり?」


「…いや、時間より10分早く来たつもりなんだけど…」


「言い訳しないの!」


「えぇ……。すっごい理不尽だ…。」


「まぁいいわ。それよりも早く行きましょう?

久しぶりのダンジョンだからワクワクするわね!」



楓の切り替え早さに驚きながらも自分もダンジョンに向かう事を内心楽しみにしていたレイルだった。


「はぁ〜い!でもワクワクして、

あんまりはしゃぎ過ぎると躓いて転けるよ?」


「そんな事ないわよー!ホラっ!よっ!ほっ!

このとおっ……?!」


楓がレイルの周りを忍者の様に

ぴょんぴょんと飛び回り、

石ころに躓いて転びそうになった瞬間、

レイルは楓の手を引いて助ける。


「おっと!ほら。やっぱり…。

楓は運動神経良いくせにドジなところあるよね。」


手を引かれた楓は顔を赤らめながら感謝を伝える。


「むぅっ…ドジじゃないし!

…でも、ありがとう。」


「どういたしまして!」


「それじゃ、気を取り直して行きましょう!

レッツゴー!」


「おーっ!」


2人はダンジョン探索をサクサクと進めて行った。


       ダンジョン9階層


二足歩行の豚型の魔物、オークが4匹2人の前方から棍棒を振り回し、襲って来た。

レイルは素早く刀で1匹のオークを一刀両断にする。

そして残りに目をやると、

3匹共レイルを無視して目を血走らせながら、

楓に向かって行く。


(…ほんとオークって、女の子に目がないよね。

下品と言うか、節操がないと言うか…)


「楓っ!そっち行ったよ!」


「わかったわ!摩利支天流…薙刀術!流閃乱舞!

はぁっ!てぃやぁー!!」


オークの間を流れる様な軌道で、

幾重にも薙刀が振われる。

そして、楓が薙刀の柄を地面にドンッ!と突くと

オーク達はバラバラになり魔石を残して消滅した。



「ふうっ。……なによっ!あのオークども!

毎回、毎回、いやらしい目で襲って来て!

ゴブリンといい、オークといい、ホントキモい。

レイルー!ねぇ?!聞いてる?!ねぇってば!」


楓はオークが相手だといつも不機嫌になる。

そして恒例の如くレイルに愚痴を漏らしていた。


「き、聞いてる!聞いてるから!

そんなに揺らさないで!酔っちゃうからー!」


「ふーっ…ふーっ…ふーっ!

……ふぅ。ごめんね…?

アイツらキモいからつい。」


「うぅ。い、良いよ。

いつもの事だし、慣れちゃったよ…。」


「そ、そう?なら良いんだけど、

って、いつもの事って何よ?!もう!!

……大丈夫?」


「大丈夫!大丈夫!

それより時間も遅くなって来たし、

そろそろ帰ろっか?」


「そうね!お腹も減って来たし帰りましょう!」



レイル達は来た道を帰り、2階層まで戻って来た。

そこでふと、

今ならあの時の違和感を突き止められるかな?

と思い、楓に言ってみる。


「楓、あのさ、ちょっと寄り道しても良い?」


「うん?良いけどなんで?どこ行くの?」


「ちょっと気になる場所があってね。

初めてダンジョン潜った時覚えてる?

あの時の違和感がある場所に行って見たくて。」


「え?またあの行き止まりまで行くの?

結構調べたけど何にもなかったよ?」


「少しだけ気になるから行ってみたいんだ。

もしかしたら、本当に万が一だけど、

お宝があるかもだしね!」


「ホント、レイルって冒険が好きねぇ。

…はぁ。良いわ!行きましょう!」





レイルが違和感のある行き止まりに着いて、

約30分ほど過ぎた頃、

今まで調べているのをボーッと見ていた楓が

そろそろ痺れを切らしてきた。


「レイルまだ〜?もう諦めたらー?

ここ2階層よ?普通に考えて、

こんな浅い階層に何かあるわけないじゃない。

私お腹減ってるの!早く帰えろー?」



「うーん。もうちょっと待ってよー。」


(やっぱり何にもないなぁ…なんでだろ?

何かある気がするんだけどなぁ…

……諦めて帰るか。


…ん?)


レイルは上を見上げると、

洞窟の不規則な窪みの中に、

かなり分かりづらいが規則的な凹凸を見つける。

この様な薄暗い場所で見つけるには、

困難な所にあったのだ。


「なんかある!…よし!調べよう!」


そう言って、レイルはジャンプし、

壁に張り付きス◯イダーマンばりに手足を

シャカシャカさせていた。


(あの子、いったい何してるのよ?)


そして上の窪みに到達すると、

何かないか調べ始める。

そして、規則的な凹凸に触り、何を思ったかレイルは魔力を流し始めた。



次の瞬間凹凸から魔法陣が発生し、真っ赤な眩い光が洞窟を照らす。

これには堪らず楓も目を瞑ってしまう。

そして次第に光が収まり、

目を開けるとそこにはもう、

レイルの姿は無かった。

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