第37話


「レイル?!どこに行ったの?!

どうしよう!レイルが消えちゃった!!」


楓はひどく混乱していた。

今まで楽しそうにしていたレイルが魔法陣によって消えてしまったのだ。

あの魔法陣には見覚えがあった。

あれは10階層毎にボスを倒すと出てくる、

帰還の魔法陣だった。

しかし、紋様が所々変わっていたし、

何より色が違う。

普通の帰還魔法陣は青色に対して

今のは赤色だった。


とてつもなく嫌な予感がよぎる。


(見たこと無かったけどまさか、ランダム転移…?

…だとしたら、レイルが危ない!?)


焦りながらも何が最善かを考える。


(私が無闇にダンジョンを探し回っても

見つけるのは難しいし…。どうしよう。

道場の皆は今日は来てないし、

千夜師匠も出掛けてる。

……そうだ!

今なら龍弦老師が家に居てるかもしれない!)


楓は素早く考えをまとめ、行動に移し、

自身が持てる最速で龍弦の元へ向かった。



        〜源邸〜


龍弦は日がな一日、暖かな陽射しの中で

縁側に座りお茶を飲みながら、

趣味の盆栽を眺めていた。

側から見ればただのジジイである。


そこに、猛スピードで山から降りてくる楓の気配を感知する。


(…?楓のやつ、あんな速度で走って来てからに…

何かあったのか?

と言うか、レイルは何処じゃ?

まだダンジョンに残っておるのかの?)


猛スピードで走る楓はすぐに家の前まで来た。

そして門を開けるのも面倒なのか、

それを飛び越えて縁側まで走る。

そして、流弦を見つけると叫んだ。


「老師!レイルが!レイルが消えちゃった!」


「…!?どう言う事じゃ?消えたとは一体…」


「多分だけど、

ランダム転移してしまったみたい!」


こればっかりは龍弦も驚いていた。

ランダム転移など下層まで潜らないと出てこないからだ。


「なんじゃ?!

お主ら2人でボスを倒して

下層にでも行ったのか?!

転移の魔法陣は何色でどんな紋様じゃった?」


「い、いえ、

2階層の行き止まりにあったんですけど、

レイルがあそこが気になるから調べたいって

言って、調べてたんです。

そしたら、

突然魔法陣が出現して真っ赤に光りました。

あと、紋様は帰還の魔法陣の周りに

龍の紋様があった気がします……っ?!」


それを聞いた瞬間、

龍弦から途方もない圧力が放たれる。

楓はその場に立って居られなくなり尻餅をついてしまう。


「…すまんな、楓や。

ここで少し待って居てくれるか?

もし千夜さんが帰ってきたら言伝を頼む…。

トカゲ退治に行って来ると。

…では、頼んだのじゃぞ!」


そう言い残すと、

吹き荒れる暴風の様な風を巻き起こしながら、

ダンジョンに突撃して行った。





龍弦はダンジョンに向かって疾走していた。

その顔はいつも和やかにしている好々爺ではなく、

どこか焦りを含んだ表情だった。


(まずいのぅっ!

もし楓の言う通りの魔法陣じゃったら、

良くて深層…悪ければ最終階層…

最悪あのトカゲの部屋まで飛ばされとるかもしれん

今のレイルならば少しの間なら

持ち堪える事が出来るかもしれんが、

勝つことはまず無理じゃ…)



「…待っとれよ!レイル!

無理に挑まず逃げ回っておいておくれ!

今すぐ爺が助けに行くからのーっ!」

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