第21話


龍弦の演武が始まると一瞬でレイルは惹き込まれ

魅了された。

まるで大自然を連想させる様な優しく、

それでいて力強い荘厳華麗な演武だった。


剣術から始まり刀術、槍術、体術と

龍弦から繰り出される技の数々はどれも一言では表せられない程に洗練され、大気を震わせ切り裂かんとする程の鋭さだった。



自分の息を呑む音が聞こえた。

余りにも美しい演武だった。


(……すごい。

僕も弦爺の見ている世界を見てみたい!

諦めず頑張ったら弦爺に近づけるかな…?)


そんな事を思っていると、



「…ふぅ。どうじゃ、レイルや?

今の演武は摩利支天流の基本の型じゃ。

今日はこの演武を模倣して貰うでの。

…準備はいいかの?」



(基本の型と言っても摩利支天の原点…

すなわち、これを極めなければ奥義に至る過程すら苦労するでの、、、頑張るのじゃぞ!)


通常基本の型と言っても、手取り足取り、

一挙手一投足時間を掛けて教え込んで行くものである。日本最古の武術なら尚更である。

武術の世界とは奥が深い…一度見ただけでは到底真似出来る物ではなかった。

しかし、龍弦は敢えてそれをしなかった。

レイルの持つ才能を見極めようとしての事だった。


「はい!頑張りますっ!


……すぅーっ、…はぁーっ………」



(……ん?レイルの右目が若干光っておる?

それになにやら魔力も集まって来とるのぉ。)




レイルは深呼吸し、すっと眼を閉じる。

そして集中し、今行われた演武を、

その瞳に焼き付いた技を、

龍弦が行った演武の手順、繰り出される角度、癖を正確にトレースして行く。



演武だけではない。

魔術の文献も初級術式から最上級術式、果ては古代術式までも、、、

家にあった魔導書や、今までレイル自身が必要だと思った事は全て一語一句記憶し覚えているのだ。


     「完全記憶能力」


これが母ミザリーやナナリーに規格外と言われる

レイルのみに許された能力だった。


「………すぅーっ、、、行きます。」


最初龍弦は、

レイルにとってどの武器が1番相性が良いか

調べる為にこの演武を見せた。


そしてそれは間違いでは無かった。

適性があったのは1番キレや速さのある刀と体術と分かったからだ。


しかし龍弦はすぐ違和感に気付き始める…

「おかしい…」と。


レイルの眼の反応速度や空間把握能力があれば

演武を模倣するのは容易いと思っていた。


思ってはいたが、

何かとてつも無い事を見落としている感覚に陥った。


そしてレイルの演武を一挙手一投足見逃すまいと

全神経を尖らせ見ていると気付いた……

いや、気付いてしまった。




………まるで自分自身が演武しているかの様に

錯覚をしてしまう程の技の正確さを…


他の者では絶対に気づかない様な自身の癖を…


あの小さな身体で体現して見せているのだ。


もちろん技のキレや威力などは雲泥の差だが、

それを差し引いても異常だった。



(…よもや、、、よもや、これほどとはな…

儂にこれ程の才能の塊に巡り合わせてくれた神さんには感謝しかないわい…)


生い先短いこの人生、自分の全てを受け継げる者がもう現れないと思い始めた頃だった。

それどころか自身ですら至れていない極致まで登れるかもしれない…そんな子供が自分の元に来てくれた事を神に感謝した。


そうして龍弦が感動している間にレイルの演武が終わった。


「弦爺!どうかな?!上手く出来てたかな?

僕、緊張してしまって…

僕にはどの武器が相性良かったですかっ?」



「…ほっほ。

そこまで緊張せんでも良かったんじゃぞ?。

初めてなのに誠、上手に出来ておったわい!

この弦爺もびっくりじゃ!

そうじゃの…レイルの適正は刀と体術じゃの!


まずはこの二つの型と闘気を習得する為に瞑想から

始めるとするかのぅ。

最終的には摩利支天流の全ての技を扱えるようにしてやるでな。」


「はい!よろしくお願いします!弦爺!!」



こうしてレイルの修行が始まるのだった。

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