第10話




「なんでこんな所に女神像なんてあるんだろう?」




レイルは不思議に思った。この場所は誰も立ち入らないし来ようとも思わない。


そもそもここは龍の棲まう危険地帯。

山の麓は広大な森林で自然の迷宮になっている。

普通、ここまで辿り着けない。

……いや、誰も好き好んで立ち入ろうとは思わないだろう。


なのに女神像がある。人工物がある。


その違和感を感じながらも嫌な感じは一切しなかった。


それどころか何故か優しく懐かしい感じがして気付けば涙が溢れていた。


(……あ、あれ?なんで?…涙が止まんないや)



レイルが涙を拭っていると、ふと女神像と目が合う。

そうしているとある事に気付く。


(この女神像…どこかで………っ!?)


「母上っ…?……いや、違う。

だけど顔が似てる。それ以上に、雰囲気が凄く似てる。」



そう思い、見ていると急に女神像が輝き出した。


それに呼応するかのようにレイルが身に付けているブレスレットも輝き出した。


するとブレスレットを中心に幾重にも重ねられた高度な魔法陣が発生する。


「っつ!い、一体なにが!?」


(なっ!なに!?なにが起こってるの!?こんな複雑な魔法陣なんてどの魔法の本や文献にも載ってないよ!?)


レイルは眼を見開き、この世の誰もが使えないであろう超高度な魔法陣に魅入っていた。


(す、凄いっ!こんな綺麗な魔法陣見た事ない!

けど、眩し過ぎで目が開けてられないよ!)



徐々に光が強まっていき、

目が開けれないほどの輝きに包まれた。



そして光が収まるとそこには…

誰も居なくなっていた。



女神像の遥か頭上、大樹の枝と幹の付け根に人影が1つ……。



(行ってらっしゃい。レイル…。強く生きるのよ…貴方に幸が在らん事を…。

これで取り敢えず時間は稼げたかしらね。)



……………

…………

………

……


場所は変わって東京郊外の高尾山のとある寺院



「「住職ー!朝の掃除終わりました!」」


「うむうむ。よろしい。今日も1日励むのじゃぞ」



寺院に元気な子供達の声が聞こえる。


それを和やかに頷く好々爺がいた。


寺院の住職、源 龍弦(みなもと りゅうげん)である。



龍弦はいつものように寺の縁側でお茶を呑みながら山を眺めていた。

すると何故か不自然に渦巻く雲に気付いた。


(なんじゃ…?アレは?雲はあんな動きせんぞ?)


そう思い雲を観察していると不意にその雲から雷が山頂に落ちた。



それを見た龍弦は違和感を覚え、雷の落ちた山頂へ様子を見に行く事にした。


「何事もなければ良いけどのぉ。

まぁ、十中八九何かあるじゃろうの。

こう言う時の儂の感はよぉ当たるんじゃ…」



高尾山頂上



「っう。眩しい………ん?ここ…どこ…?女神像は?」


レイルは先程居た大森林とは違う森に戸惑っていた。さっきまであった女神像が無くなり森の雰囲気までガラリと変わっていた。


(さっきの森じゃない?もしかしてさっきの魔法陣は転移系のやつだったのかな?どこの森だろう?)


「困ったな、死ぬつもりで森の中に入ったのに、

なんかそんな気持ちじゃなくなったや……ははっ、情け無い…」


そう思い森を散策していると、

茂みの中からガサガサッと音がしたので、


驚きながらそちらを向くと、

見たこともない服装のお爺さんが居た。



「ほっ…?人の気配がすると思うて来てみれば、

なんじゃお主?どこから来たんじゃ?

親御さんは何処じゃ?


……ふぅむ、道に迷ったのかのう…?」


(衣類も見た事のない服じゃし、そもそも日本人でもないか…。こりゃどうするかのぉ…。

このまま放っておく事も出来んし、何より儂の感が囁いとる…この子を助けろと。)


レイルは急に現れた老人に驚き、

どうすれば良いか分からず固まったまま動けなくなっていた。

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